
これから介護の仕事を始めたいけど、認知症の人は大変そう。認知症でも介護士の言う事を聞いてくれるの? 1人でも焦らないように臨機応変に対応したい!
グループホームで働く介護士は、入居者である認知症高齢者ひとりひとりの尊厳を大切にしつつ、可能な限り自立した日常生活を穏やかに送れるよう支援しています。
グループホームで大切な支援の1つに当たるのが、声掛けである会話に隠されています。少人数で毎日同じ方にじっくりと向き合うグループホームでは、入居者との信頼関係を築くことが何より大切です。
そこで今回は、グループホームのリアルな現場を再現し、介護初心者に分かりやすく声掛けのポイントを解説します。
- 帰宅願望がある入居者様が多い
- 服薬拒否する場合がある
- 夜間に起きることがある
- お風呂嫌いが多い
- 入居者一人ひとりの好き嫌い理解しよう
「家に帰ります」と玄関へ向かうことも
認知症患者の帰宅願望は、入居時や夕方などによく見られる光景です。
帰りたいという言葉の裏には、自分の居場所が分からず周りが知らない人ばかりになった不安、孤独感や焦り、判断力の低下などから不穏になることが主な原因と考えられています。
入居時の帰宅願望や夕暮れ症候群にご用心
帰宅願望は無理に引き止めると興奮が増し、転倒などの危険も高まります。フロアに余裕があれば一度お散歩がてら外へ出て、そっと不安に寄り添い、飲み物で落ち着いてもらいましょう。
入居時の帰宅願望は、スタッフと顔馴染みになり、実際に使っていた愛着のある小物などで環境を整えると、徐々に落ち着いてくるようです。
ケース1:薄暗くなる16時過ぎ。周囲に目もくれず玄関に向かう人影が


記名を見せて本人の靴に履き替えてもらう。表情はやや険しい。

フロアのスタッフへ申送り、預かった上着をAさんに着てもらう。寒いからとAさんの手を握り、「お土産に」と自動販売機で飲み物を買う。
Aさんに選んでもらった缶コーヒーを公園のベンチで飲みながら、温かくて美味しいねと話すうちに表情が少し和らいでくる。
薬を飲まない理由がある
服薬拒否は認知症高齢者にしばしば起こる現象です。グループホームには、まだまだ自分は元気だという自負の強い認知症高齢者も入居されます。自立度が高ければ支援も楽かと思われがちですが、そうとは言えません。
動けるために単独行動も目立ち、服薬などで介護士の介入を拒否することがあります。
また、飲みづらくて嫌がっているなど、人によって様々な理由があるため原因を探ることが大切です。
生活史から紐解く、声掛けの工夫
本人や家族へもアセスメントを行い、過去の人生記録から趣味や傾向を把握していくと、より響く声掛けのヒントを見つけられることがあります。
※「アセスメント」とは、本人のニーズ(解決すべき生活課題)や可能性を把握するために、様々な情報を収集・分析すること
ケース2:服薬の番に怪訝そうな顔をされる




※翌日、キャリアウーマンで美意識の高いBさんへ響く声掛けに替えてみる。






ケース3:舌の上に置いたまま、薬を飲み込んでいない

Cさん、錠剤を口に入れお水を飲む。介護士は目視で飲んだと思って次の方へ薬を渡す。すると何やらもごもごされ、錠剤を「ペッ」と床に吐き出してしまう。

Cさんは一向に口を開けない。少し様子見して場所を変えてみる。Cさんの大好物であるプリンの中に錠剤を隠し、食事介助をして召し上がって頂く。
スタッフへの被害妄想
認知症の症状として、被害妄想があらわれることがあります。その矛先が介護士に向かう事はよくある光景です。
それが認知症の症状と分かっていても、ターゲットになった介護士は身に覚えのない事ばかり言われてショックを受けがちです。
また、証拠があるかのように生々しく訴えてくるため、聞かされる方も辟易してしまいます。精神的に追い詰められる前に上司や同僚などに相談し、必ず状況を理解してくれる人を作ってください。
被害妄想の背景を知る
被害妄想はご本人にとって、周囲への不満や認知症の症状による苦しみなどが関係しています。孤独感や老いへの不安、悲しみなど、様々な深い感情が隠されています。そのため、身近で親しい間柄の人に訴えかけようとして、「加害者」にしてしまうことも多いのです。
無意識のうちに自分を「被害を受けている」という安全な立場に置き、抗議や助けを求めて必死に訴えかけます。非現実的な訴えであっても否定せず耳を傾け、共感的に聞いていると被害妄想が消えることもあります。
ケース3:勘違いや被害妄想がありスタッフが疑わることも





夜間に次々と起きてくる認知症高齢者
眠剤を飲んでから入眠迄の時間には個人差があります。就寝介助後すぐに居室から出てきて、冷蔵庫や玄関へ向かわれることも珍しくありません。認知症が進行すると、時間の感覚が鈍くなり、満腹中枢の機能も衰えます。
夜勤は安全第一で無理をしない
グループホームの夜勤は基本的に1名体制です。複数起きてくる入居者にも1人で臨機応変に対応しなければなりません。
冷蔵庫を開けてしまわれる方が居る場合は、敢えて目に付く様に記名したものを置き、それを召し上がって頂くのも手です。転倒や体調の急変時に冷静な対応が出来るよう、施設の緊急時対応マニュアルは必ず確認してください。
ケース4:暗闇の中、冷蔵庫をゴソゴソ・・・



※Eさんと記名してある専用のローカロリーゼリーとホットミルクを提供。
ケース5:センサー感知が続き、仮眠が取れない夜


ふらつきのあるFさんを支えながらトイレへ向かい、介助する。入床するも、15分後にセンサー感知。介護士が先程行ったばかりだと伝えても、Fさんはトイレを希望され立ち上がる。再度トイレ介助を行い、入床。
お風呂嫌いな認知症高齢者は多い?!
認知症になると人によっては入浴を拒否されることが増えていきます。
理由は様々で、「面倒で億劫」「自分の衛生状態が分からない」「介助が何だか怖い」「お風呂の事がよく分からない」などが挙げられます。躊躇している時に誘うと意固地になってしまいますが、入ってしまえば気持ちいいと感じる方が多いです。
負担に感じない雰囲気作り
何故拒否されるのか理由を考え、雰囲気作りや声掛けに工夫することで、不安や負担を軽減することが出来ます。過去の生活史から会話が弾む様なキーワードを見つけておくのも有効的です。
認知症が進行し言葉の理解が困難になると、暴れて嫌がる場合もあります。「お風呂」とは敢えて言わず、ホットタオルや足湯から試し、肌の露出を抑えつつ脱衣を進めるなど、その方の状態に合った入浴方法を試していくことが大切です。
また、自負が強い方には手を変え、品を変え臨機応変に対応します。
ケース6:お風呂嫌いで髪や髪や顔が濡れると大声で叫ぶ

童謡が好きなGさんの気分が上がるようラジカセでCDを流す。一緒に歌いながら足湯から始める。バスタオルで肌の露出を隠しつつ脱衣を行う。
浴室を蒸気で十分に温めておき、シャワー浴を行う。状態を見て、シャンプーハットやドライシャンプーも活用する。
ケース7:入浴のきっかけ作りに一苦労「もう入りました」「毎日着替えてます」が口癖




介護士「これがお似合いです!」
上機嫌になり着替えが決まったところで入浴を勧める。入浴中、替えたがらない下着類を洗濯済のものに取り替えて置く。箪笥に使用済の下着などがないかチェックする。
まとめ
人と人とのコミュニケーションは、言葉だけではありません。介護士の持つ雰囲気、仕草、表情、まなざし、手に優しく触れるなど言葉を用いないコミュニケーションも親しみや信頼関係を築くための大切な手法です。
認知症が重度となり、言葉による意思疎通が困難になった場合でも、親しみを込めた言葉以外のコミュニケーションにより、互いの信頼関係や絆をつくることはできます。
認知症の症状は、生活様式や性格、経歴、習慣などが反映されてくると言われています。
「その人らしさ」を尊重する支援で寄り添うために、「何故そのようなことが起こったのか」という原因を探り、認知症高齢者が見ている世界を受け止め、ひとつひとつ問題をクリアにしていくことが大切です。
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