
転職先として考えている特養と老健では、どちらが働きやすい介護施設なんだろう。特養と老健それぞれの働くメリット、デメリットを知りたい。
介護職の転職先として、「特別養護老人ホーム」(特養)と「介護老人保健施設」(老健)は、非常に高い人気を集めています。
両方とも他の介護施設にはないメリットがあり、転職先としてたいへん魅力的です。「特養と老健、どっちにしよう」というところまで絞っている人も多いでしょう。
とはいえ、「特養と老健のことはよく知らないし、どっちを選べばいいかわからない。私に向いているのは、特養? それとも老健・・・?転職には失敗したくないし、どうすればいいんだろう」というような悩みを抱えている人も多いでしょう。
本記事では、老健と特養の働きやすさについて、詳しく解説します。介護業界での転職で失敗したくない人は、ぜひ参考にしてください。
- 老健よりも特養の方が働きやすい
- 経営母体が安定していて、安心して働ける
- 給与は概ね特養の方が高い
老健よりも特養の方が働きやすい環境
結論から言えば、老健よりも特養のほうが働きやすいでしょう。
理由としては、「業務内容がルーティン化されている」「安全の確保が比較的容易」「公的な介護施設である」「経営母体が安定していて、安心して働ける」といったものが挙げられます。それぞれの理由について、詳しく解説します。
理由①:業務内容がルーティン化されやすい
まず、「業務内容がルーティン化されやすい」という点は外せません。
特養は、入居者が長期的に滞在する施設であり、「終の住処」としてもとらえられています。特養に入居している人の顔ぶれは、さほど頻繁には変動しません。
したがって、業務内容も変化しづらく、ルーティン化されやすいというわけです。
理由②:安全の確保が比較的容易
「安全の確保が比較的容易」という点も挙げられます。
なぜなら特養は、「高い安全性を保つ」という思想のもとで設計されている施設です。
具体的には、
- 死角が少なく、目配せしやすい
- 基本的に2人体制であり、連携が取りやすい
- 安全設備が充実している
といった点が挙げられます。
アクシデントについて対応する場面も少なく、ある程度は精神的な余裕を持って勤務できるでしょう。
理由③:公的な介護施設である
「公的な介護施設である」というのも、大きなポイントです。公的な介護施設ということは、営利目的を持っていないことを意味します。
したがって、利益を追求するような行動は、ほとんど要求されません。それは、「良質なサービスを提供することに集中できる」というメリットにつながります。
安定した環境で働きたいと考えている人には、理想的な介護施設であると言えるでしょう。
理由④:経営母体が安定していて、安心して働ける
特養は、経営母体が安定している介護施設のひとつです。
特養は、「地方自治体(市町村)」や「社会福祉法人」が運営しています。
両者とも継続的に運営できるように補助金などで保護されており、民間企業と比べて倒産のリスクは低くなっています。急激に待遇が落ちることも考えづらく、安心して働けるはずです。
また、法令遵守の意識も強く、有給休暇や残業代支払いについてはかなり公正に処理される傾向があります。
というようなことから、経営母体が安定していて、安心して働けるという側面も挙げられます。
特養で働くならどのようなスキルが必要か
特養は、働きやすい側面が多々あると紹介しましたが、「いくら特養が働きやすいと言っても、介護職なんだからスキルがないと、務まらないのでは?」「具体的に何のスキルが求められるんだろう?本当に私は、特養でやっていけるのかな?」というように考えている人もいるでしょう。
確かに特養で働くにあたってはスキルは必要ですが、身に付けるのが、ものすごく難しいスキルが必要というわけではありません。
ここでは、特養で働くならどのようなスキルが必要かを紹介します。
スキル①:幅広い介護技術
もっとも重要視されるスキルは、幅広い介護技術です。なぜなら特養という介護施設は、あらゆる介護技術を要求される場所だからです。
特養は、入居者の生活を、24時間体制で支えます。つまり、生活のすべてに介護が必要となるわけです。具体的には、
- 食事
- 排泄
- 入浴
- 就寝
- 起床
- 臥床
- 投薬
などに関連した介護技術は、すべて求められます。
いついかなる場面においても対応できるような介護技術が、スキルとして必要です。
とはいえ、「特養で働き出す前段階において、すべてのスキルを持っていないといけない」というわけでもありません。
「経験のない部分は、働きながら覚えていく」、というスタンスでも十分に通用します。
スキル②:介護関連資格
必須というわけではありませんが、介護関連の資格も持っておきたいところです。なぜなら、資格があるとないとでは、待遇や施設内の立ち位置に違いが出てくるからです。
特養に限った話ではありませんが、介護関連の資格を持っていれば資格手当が支給されます。
運営母体の方針にもよりますが、具体的には以下のようなかたちで支給されるでしょう。
- 初任者研修修了者→約5,000円
- 介護福祉士有資格者→約10,000円
まだ資格を取得していないなら、ぜひ取得しておきたいところです。
資格を持っていれば、施設内における立ち位置も保たれるでしょう。
やはり資格を持っていると、「この人は、ある程度の能力がある」とみなされます。介護サービスの提供において重要な業務も、回されやすくなるでしょう。
というような理由で、資格は持っておいたほうがよいのは明らかです。ルールとしては、「有資格者でなくては、特養では働けない」というわけではありません。
ただし実務レベルで考えれば、ほぼ必須と言えるでしょう。最低でも勤務している間は、資格の取得へと動いていきたいところです。
特養で働くメリット・デメリット
特養は、介護業界で働く人にとって、魅力的な施設であることはたしかです。とはいえ特養にも、メリットとデメリットがあります。
特養で働いたことがない人は、「特養におけるメリットとデメリットって、一体なんなんだろう?」「今まで特養で働いたことなんてないし、見当もつかない。自分はデメリットとうまく付き合いながら、働いていけるのだろうか?」というように感じるでしょう。
下記では、特養で働くメリットとデメリットについて、詳しく解説します。
ただしあくまでも基本的なものであり、施設や運営母体の方針によって、多少違ってくる部分もあるので、注意してください。
メリット①:スキルが高めやすい
特養は、スキルを高めやすい職場です。なぜなら特養には、要介護度の高い入居者が多いからです。あらゆる介護を実施するため、必然的にスキルも高まります。
また、特養の現場は正常な運営を続けるため、スピード感を求められる傾向があります。したがって、業務を合理的に進めるための動き方も体得できるでしょう。
これは特養から別な形態の介護施設へ移るとき、特に大きなポイントとなります。例えば、デイサービスへ転職した場合、業務内容やその強度は、おおむね特養よりも厳しいものではありません。
つまり、特養の経験を活かして、ある程度余裕ある状態で働けるというわけです。
「あらゆる介護をこなして、スピード感も求められる」というのは、その一時においてはデメリットかもしれません。しかし、長い目で見れば、かえってメリットであると言えます。
また、特養には経験豊富な同僚や上司が多いという側面もあります。彼らとともに勤務するということは、大きな学びをもたらすでしょう。
特養は、「入居者6人あたり、1人以上の介護福祉士が勤務していなければならない」というルールがあります。つまり入居者が100人いるなら、最低でも16人以上の介護福祉士がいる、というわけです。
介護福祉士は、3年以上の実務経験がなければ取得できません。つまり、それだけの実務経験がある人とともに働くうえで、多くのことを学べるというわけです。
メリット②:入居者と深く向き合える
入居者と深く向き合えるのもメリットと言えるでしょう。特養は、基本的に「最期の瞬間」を迎えるまで滞在し続ける施設です。
つまり、普段の衣食住から最期の看取りまで寄り添う介護を実施できます。介護の道を歩む人間にとっては、たいへん大きなやりがいや使命感を感じられるでしょう。
ちなみに、看取りという業務があることから「看取り介護加算」が給料に加算されます。
メリット③:昇給しやすい
特養には昇給しやすいというメリットもあります。後ほど詳しく解説しますが、介護業界における特養の給与体制は、もっとも恵まれた部類です。
上述した「看取り介護加算」など様々な手当が付与されます。さらにボーナスも高めに設定している特養も多く存在します。
デメリット①:基本的に多忙である
一方で、「多忙である」というデメリットについては、よく理解しておかなければ言えません。特養は、まず通常の介護における業務負荷が高い傾向にあります。
職員一人あたりが担当する入居者の数が多いからです。
そのうえで、ケアプラン作成などの業務を担うケースがあります。さらに、ミーティングや委員会活動も重なるとなると、トータルでの業務負荷は相当なものとなるでしょう。
デメリット②:勤務時間が安定しない
勤務時間が安定しないのも、重大なデメリットです。特養は365日24時間、稼働し続ける介護施設。もちろん夜勤での勤務を担当するケースも出てきます。
夜勤があるというのは、生活リズムを保つうえで厄介です。昼夜逆転してしまうと、心身ともに大きな負担がかかるでしょう。
また、土日平日の区分もほとんどありません。「土日は決まって休みたい」というような希望が受け入れられることは、まずないでしょう。
勤務時間については、かなり大きなデメリットがあると言えます。出来るなら、「休みはなんでもいいから、仕事に全力を燃やしたい」というような心構えが欲しいところです。
デメリット③:人間関係はやや複雑
人間関係については、やや複雑な面があります。なぜなら特養に関わっている人間の数が多いからです。働いている人間の数が多ければ、当然、人間関係も複雑になります。
職員同士の揉め事があったり、意見が相違したりという出来事に遭遇するケースは、やや多くなるはずです。特に女性が多い介護施設だと、より独特な「女社会」が形成されていたりします。
また、「違う勤務時間帯で働いている人同士」での考えのすれ違いも起こりがちです。特養は「ユニット」単位で職員が振り分けられるので、ユニット同士でのもめ事も起こり得ます。
特養で働くなら、人間関係の中で上手に立ち回れる、ある種の器用さが必要であると言えるでしょう。
老健と特養の給与と労働時間の比較
上記では、特養における実務的な内容を解説しました。とはいえ、ある意味でそれよりも待遇面のほうが興味深いでしょう。
「給与はどちらのほうがもらえるのだろうか?」「給与が安いのに仕事は大変、というパターンは避けたい。労働時間と給与は、きちんと釣り合いが取れているのかな?」「やっぱり、仕事の大変さに見合う給与は欲しい!」というようなことを考えている人は多いでしょう。
下記では特養と老健における、給与および労働時間について、比較したうえで解説します。
給与は特養の方が良い
給与に関しては、おおむね特養のほうが高くなります。
これは厚生労働省による「平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」の報告でも明らかになっています。
平成30年度における特養、老健それぞれの平均給与額は、以下のとおりです。
- 特養:332,600円
- 老健:317,350円
ただし、常に「特養のほうが、給与は高い」というわけではありません。
あくまでも上記は平均給与額であり、部分的に「老健の給与額が特養のそれを上回っている」というケースは考えられます。
ちなみに介護施設の全形態において、特養の給与水準は第1位です。老健は特養に続いて、第2位となっています。多少の差こそあれ、老健でも特養でも、介護職としてはもっとも恵まれた給与額が得られると考えて問題ありません。
介護職で働く上では、給与水準の低さがネックになりがちです。実際、介護職の給与水準は、全職種における平均と比べて低いということがわかっています。日本全体での平均月給は、およそ35万円。対して介護士の平均月給は、25万円と、両者間にはかなり大きな開きがあります。
しかし、特養や老健であれば、全業種の平均月給にはおよばずとも、それに近い待遇が受けられます。運営母体の方針や役職次第では、全業種の平均月給を上回るケースもあるでしょう。
ただし、実際の求人では、特養・老健とその他介護施設の間に「月給ベース」での違いはさほどありません。ボーナスや各種手当の違いにより、上記のような差が生じていると考えられます。
老健の方が労働時間の融通が利きやすい
労働時間の融通については、老健がやや有利でしょう。老健は特養と比較して、
- 短時間勤務が認められやすい
- 希望休が通りやすい
- 特定の時間帯での勤務を回避しやすい
といった点が見受けられます。ただし、「極端に老健のほうが融通されやすい」というわけではありません。
老健は特養と同じく、365日24時間稼働している施設であり、シフトの制度にも大差はありません。その関係で、老健は老健なりに時間的な融通が利きづらくなっています。
むしろ自分がシフトを融通しなければいけないというケースも出てきます。老健が「特養と比較してものすごく希望が通りやすい職場ではない」という風に考えられます。
ちなみに「融通」というところからはやや外れますが、老健は残業になりづらいという点が挙げられます。なぜなら、入居者の要介護度が低いからです。
特養は、要介護度が3以上の入居者しかいません。対して老健は、要介護度に規制がなく、1から5すべての人が入居します。
全体的な要介護度が低いということは、不測の自体は起こりづらいことを意味します。
したがって、突然業務が増えるというケースは少なく、残業も発生しづらいというわけです。
まとめ
特養と老健で働くことには、さまざまな違いがあります。基本的には、
- 特養は「業務負荷が高く、待遇も高い」
- 老健は「待遇は特養と比べてやや落ちるが、業務負荷もゆるやかになる」
という形になっています。まずは、これを念頭に置いて、どちらで働くべきかおおむねの当たりをつけてみましょう。
そして本記事を参考に、特養と老健それぞれの違いについて、比較検討してみてください。
ただし、すべての特養と老健が、本記事で解説したことに該当するわけではありません。介護施設の運営方針などにより、ある程度例外があるということは理解しておきましょう。
ぜひ、自身に向いている働き方を見つけてもらえばと思います。
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