現役介護士の深イイ話
インタビュー実施日:2020年1月25日
現役介護士にインタビューすることで、介護職として働くことのメリット、デメリットを伝え、これから介護職を目指そうとしている人達の背中を押すことが最終的なゴールです。
工業大学を卒業後、IT企業に入社。エンジニアとして10年間勤務していたが、精神的ストレスにより人生初の入院を経験し、休職を余儀なくされる。入院生活で今までの人生を振り返り、家族や健康の大切さを改めて痛感する。
医療職の方々のおかげで無事回復し、退院後は生活に助けを必要とする方の援助をする仕事に就くことを決意する。
介護士として現場経験を積んだ後、サービス提供責任者として4年間従事。介護業界9年目を迎えた現在は自ら責任者を降り、一般介護士として勤務中。
介護職 サトシーサーさん
あなたにとって介護職とは?
初任者研修の受講時に講師から「介護はお手伝いさんとは違う」「できることは自身でやってもらうように」と口酸っぱく言われたのを覚えています。
あれから10年ほど経ちますが、「介護とは自立支援である」という自分の軸は今でも変わりません。
介護職といえば食事・入浴・排泄の介助をする仕事と思われがちですが、それらはあくまで自立支援という目的を果たすための手段に過ぎません。
多忙な業務に流されそうになることもありますが、常に忘れないように心掛けています。
私のざっくり変遷記(職務経歴概略)
- 社会人10年目エンジニアとして10年間勤務工業大学を卒業後、IT企業に入社。エンジニアとして10年間勤務していたが、精神的ストレスにより人生初の入院を経験し、休職を余儀なくされる。
- 転職1年目(2社目)介護付き有料老人ホーム(介護職)に入職前職でのメンタルの弱さを面接官に懸念され、就職活動は予想以上に難航。やっとの思いで介護ヘルパーとして採用されたものの、女性中心の職場の上にもともと気の利く方ではなかった私は早々に「仕事ができない職員」のレッテルを張られる。結局貼られたレッテルを最後まで剥がせず、クビ同然の自己都合により退職。
- 3社目住宅型有料老人ホーム(オープニングスタッフ)に転職上下関係もルールもないゼロの状態から施設の立ち上げにかかわる。職員の男女比率が半々くらいこともあり、前職のような問題は起きず。入社後1年半経った頃に新施設オープンが決まり、リーダーとして赴任。2年目に介護福祉士の受験要件を満たしたため、受験して一発合格。その後、サービス提供責任者として1年間従事。
- 4社目住宅型有料老人ホーム(サービス提供責任者)に転職前職の経験を生かして、サービス提供責任者として3年間従事。責任者業務の全体像を把握してからは新人介護士だけでなく、経験のない責任者候補の教育・指導にも携わる。慢性的に人員不足が続いたため、最もひどかった時には残業は当たり前、夜勤も入った上に休日出勤も。役職である管理者やサービス提供責任者の退職が相次いだため、責任者経験のある私に異動命令が下り、この頃からリーダー育成の必要性を感じ始める。
- 5社目(現在)サービス付き高齢者向け住宅(介護職)に転職現在は責任者ではなく、夜勤なしの正社員として勤務。前職での経験から、手当よりも健康や時間の方がずっと大切であるという考えによって夜勤はしないという条件で採用。試用期間が過ぎてからはこれまでの経験を活かし、現場における問題の改善や新規提案を継続して実施することで会社から一定の評価を得ている。
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私はこんな介護士です。

ひと言で表現するとしたら、私は「しつこい介護士」です。以前働いていた施設に脊柱管狭窄症を患い、入浴拒否を続ける利用者さんが居ました。声掛けを繰り返すと、声を荒げて手を挙げることもあるため、バイタルチェックさえできれば良しとされていました。
しかし、入浴されないため更衣もされません。夏場は汗もかくので皮膚状態が心配です。シャワー浴だけでもしてもらおうと思った私は、入浴の声掛けを試みます。利用者さんの答えは予想通り、「今日はしんどいからやめとく」。
ですが、そこで引き下がらずにさらに声掛けを続けます。
- 私 :「汗もかかれると思うので、服を着替えましょう」
- 利用者:「皮膚状態が心配なので、確認させてもらえませんか」
- 私 :「シャワーだけですから、すぐ済みますよ」
- 利用者:「お前もしつこいな!」
利用者さんは声を荒げて掴みかかろうとされますが、私は一歩も引きません。そんなやりとりを繰り返しているうちに
- 私 :「さぁ、シャワーまで一緒に行きましょう!」
- 利用者:「分かった!入るわ!アンタには敵わんな~」
とうとう根をあげ、シャワー浴介助をさせて頂くことができました。それ以来、私以外の職員が訪問した際も入浴して頂けるようになりました。ここで「利用者さんの意思を無視している」と感じる方がおられるかもしれません。
ですが、利用者さんの意思を尊重して入浴拒否が続いたらどうなるでしょうか?皮膚がかぶれたり、褥瘡ができたりしていたとしても確認が取れません。
その場しのぎの対応は問題が起きない代わりに、結果的に介護する側も介護を受ける側も全くメリットがなく、いわばlose-lose関係です。
どういう形であれ、利用者さんに納得してもらって介助させて頂くのがwin-win関係であると思います。こちらが引いてばかりでは信頼関係が生まれることはありません。リスクを承知で一歩踏み込むことによって、利用者さんとの関係性を変えられることを実体験から学びました。
自分のしつこさは「介護とは自立支援」という介護観が根付いているせいだと思います。ただし、度が過ぎるとクレームになるため、その部分の見極めは非常に難しいです。

どのようなことをキッカケに介護士になったのでしょうか?
健康な体で仕事ができること、そして自分を心配してくれる家族が居ること。
ずっと当たり前だと思っていました。失ってから初めて有り難さに気付きました。入院・休職期間に将来のことについて、それまでにないくらい真剣に考えました。IT関係の仕事がしたくて希望する仕事に就いたのに、この10年を全て捨ててもよいのか、今まで育ててもらった両親に申し訳ないという思いが交錯して本当に悩みました。
イメージと現実が違うことは分かっていましたが、生活に困っている人を助けたいという思いが勝って、介護業界に飛び込む決心がつきました。
他にも、やり甲斐や誇りを持って働く介護士がいます

介護士になって良かったこと、やり甲斐は何ですか?
介護士になって、四季折々の季節感を以前より感じるようになりました。
利用者さんと初詣やお花見に出かけたり、豆まきや七夕の笹飾りをしたり。年間の二大イベントである夏祭りとクリスマス会は特に力が入ります。
行事が終わった後、「楽しかったよ」とか「ありがとう」と喜んでもらえることが何よりも嬉しいです。
クリスマス会で手品を披露した際、失敗してネタがばれてしまったのですが、最前列の利用者さんが笑い過ぎて泣いたシーンは今でも覚えています。

印象に残っているご経験はどのようなことですか?
以前の職場に食事介助が必要な利用者さんが居られ、職員はスプーンを口まで運んで介助していました。
お腹が一杯でもう要らない時、手でスプーンを払いのけようとされるのを見た私は「手を使ってご自身で食べられるのでは?」と推測しました。
それ以降、利用者さんに手でスプーンを持ってもらい、手を支えるだけの一部介助を心掛けました。
その後、人事異動で施設をしばらく離れたのですが、久しぶりに戻ってみると介助をしていた利用者さんがご自身で食事をされていてビックリしました。
ケアマネには「あなたの介助のお陰やな」と言われ、とても嬉しかったです。

仕事に就かれた当初苦労されたことなどありましたらお願いします。
工業大学を出てIT業界で働いていた人間が、突然介護業界に転職してきたので、
- 「給料下がるのに何で介護なの?」
- 「(これまでのキャリアが)もったいない」
- 「IT業界に戻ったら?」
といった雑音を周囲から散々聞かされました。実際のところ全く仕事ができなかったので、周囲が色々言いたくなるのも無理はありません。
ですが、一年目から行事の司会やレクリエーションを任されたことで、度胸が付いたのは事実です。
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日頃から大切になさっていることはなんですか?
「ほう・れん・そう」は基本中の基本で、責任者になってからは特に意識していました。一般介護士に戻った現在はそれに加えて「おひたし」を心掛けています。
おひたしとは
- お→怒らない
- ひ→否定しない
- た→(必要な時に)助ける
- し→指示する
というビジネスマナーです。
責任者ではなくなった今、自分に求められるのはチームの結束力を高めることだと考えています。それには普段から職員との関係性を築いておくことが不可欠です。
「ありがとう」と「ごめんなさい」を伝えることも欠かせません。日本人は「ありがとう」の意味で「すみません」を多用する傾向があるので、「ありがとう」を意識して使うようにしています。「すみません」を使うのは謝罪する時だけと決めています。

今後やりたい事や目標などありますか?
介護業界における一番の課題は人材育成だと考えています。
介護施設の新設が増える一方で、人員不足や同業他社の乱立により、介護事業者の倒産件数も増加しているのも事実です。
超高齢化と共に労働人口減少がますます進む将来、中間管理職であるリーダーの育成は介護事業者の最重要課題であるといえます。これからのリーダーに必要なのは小手先のテクニックなどではなく、マインドであるというのが持論です。
今後は現場経験を積みながら学び続け、記事や講演などを通じてリーダーのあり方や効果的な人材育成の方法について発信していきたいと考えています。
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これから介護の仕事を目指している人へメッセージをお願いします。

私がそうであったように最初は色んな場面で先輩や上司から注意され、数多くの失敗を経験するかと思います。それでもめげずに続けていけば、その経験が自分の財産に変わるときが必ず訪れます。
振り返ってみると、私が責任者として務められたのは誰よりも失敗し、誰よりも学び、誰よりもひたむきに介護に向き合ってきたからという気がします。
最後に介護業界を目指すあなたにメッセージを送ります。
「何(what)をするかではなく、何のため(why)にするか」を常に意識してください。