現役介護士の深イイ話
インタビュー実施日:2020年3月4日
現役介護士にインタビューすることで、介護職として働くことのメリット、デメリットを伝え、これから介護職を目指そうとしている人達の背中を押すことが最終的なゴールです。
特別養護老人ホームで高齢者介護を2年間、在宅で脳性小児まひのかたの身障者介護を3年間経験した後、高齢者向けデイサービスと聾学校でバンドのボーカル・キーボード・ベース経験を活かした音楽レクリエーション活動にボランティアで10年間携わる。
その後レクリエーション介護士の資格を取得し、同じ地域に住む友人の経営する福祉用具販売会社にて高齢者向けに弾き語り中心の音楽レクリエーション活動、またwebライターとして介護に関する記事作成の仕事を行っている。
介護職 紫媛(さきひめ)さん
あなたにとって介護職とは?
「特技を活かせる長いお友達」です。
プロフィールにも書きましたが、介護士としてのエリートコースからは随分外れた道を歩いています。
しかし介護の基礎を知った上で、「音楽」「記事作成」という特技と結び付けたことで楽しく介護と携わっています。
私のざっくり変遷記(職務経歴概略)
- 学生時代ボランティアで介護に初めて出会う「ボランティアでもしてみようか」という軽い気持ちで年齢の近い脳性小児まひの女の子と知り合い、介護に初めて出会う。当時はまだ介護保険がなく措置の時代で、介護はボランティアと家族が担うものという意識が強い中、彼女が「仕事として介護に携わってほしい」という気持ちを持っていることを知り、衝撃を受ける。
- 特別養護老人ホーム時代特別養護老人ホームで夜勤アルバイト摂食障害、パニック障害で療養中にふと「自分の甘いところを叩き直すために何かできないだろうか」という考えが浮かび、介護保険創設とともに一番厳しい職場と言われた特別養護老人ホームで夜勤アルバイトを始める。
実際に勤務してみると公設民営、母体は病院という恵まれた環境だった上、当時最新の介護理論だった回想法、アニマルセラピー等に触れ、シルバー人材センターの方とも一緒に勤務するなどさまざまな良い経験をさせていただく。
また先輩職員、施設長の愛情あふれる導きによって病気が驚くほど軽快し、本格的な社会復帰へとつながる。 - ボランティア時代手話に夢中でボランティアへの参加派遣で銀行に勤務していたころ、銀行主催の手話講座を通じてボランティアサークルの主宰と仲良くなる。
当時は手話に夢中でボランティアへの参加を渋っていたが、銀行との契約満了日にサプライズでボランティアサークルに所属し、主宰とサークルメンバーの女性でやっていた聾学校とデイサービス向けのバンド演奏に加わることとなった。
利用者さまと聾学校の子供たちに喜んでもらうたび、「こういう介護への携わり方もいいな」と考え始める。 - 現在レクリエーション介護士の資格を取得レクリエーション介護士の資格を取得し、弾き語りなどの音楽レクを提供したり、介護についての記事作成をしたりしながら自分がレクリエーション=芸能の世界と介護の世界の良きパイプ役になれればいいと思って活動している。
具体的には介護士の方にはレクリエーションを担当する芸能の専門家に気持ちよく動いてもらうためにはどうすれば良いのかをお伝えし、逆に芸能が専門の方にはご利用者様の安全や見守りに配慮する必要があることを理解した上でステージに上がってほしいと伝えるようになった。
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私はこんな介護士です。

私はユルい介護士です。
仕事をなめているというわけではありませんが、特別養護老人ホームの夜勤アルバイトをしていた時に、ふとそう思いました。
決して介護士として能力が高いわけではないのに、もっと仕事ができるようにならないかともがいていたのですが、このことに気づいてからとても楽になったのを覚えています。
具体的には、それまで夜勤というのは「自分一人で責任を持ってご利用者様全員の命を支えなければいけない」ことだと考えていたのですが、「ご利用者様の残存機能=ご利用者様の力や知恵もお借りして、みんなで手をつないで一晩を明かす」ことで良いのだとわかったことです。
それからは自分一人で業務をどうにかしようとせず、お願いできるところはご利用者様にお任せしたり、わからないことは素直に先輩方やご利用者様に聴いたりできるようになりました。
信頼関係をご利用者様と作って、心からお願いすれば人生の先輩であるご利用者様はみんな親心で手や知恵を差し伸べてくださるものだと知り、毎回夜勤に行くたびに「この方たちと一晩過ごせてよかったな」と感謝の気持ちが湧くようになったのです。
その後はお互いに上手くいかないことがあってもそれを笑いに変えながら、明るく楽しい時間を先輩方やご利用者様と過ごせるようになりました。
できないことはみんなで助け合える、少ないものなら分け与える、という感覚を持つ、こんな介護士が一人くらいはいてもいいのではないかな?と今では考えています。

どのようなことをキッカケに介護士になったのでしょうか?
今ではあまりおすすめできない考えだと理解できますが、「苦労しないと幸せになれない」という考えに囚われていたことから介護の道を選びました。
当時ボランティアをしたい人、されたい人がメッセージを互いに掲載してコミュニケーションを図るための雑誌「ぼらんたーる」に掲載されていた介護ボランティアに応募して、前述した年齢の近い身障者の女の子を介護し始めました。
これから介護士の職業につきたいと希望される方には、ぜひ介護の苦労ではなく楽しさに目を向けていってほしいと感じます。
他にも、やり甲斐や誇りを持って働く介護士がいます

介護士になって良かったこと、やり甲斐は何ですか?
介護士になって良かったのはご利用者様のプライベートを尊重しながらも、会社での人間関係、友人関係よりも深くその方とかかわることになるので、真剣に人と向かい合うことの大切さに気づけることです。
ご利用者様も介護士も人間なので時には感情的になり、介護の方法について意見の一致を見ないこともあります。
しかし、感情的になってしまったことを素直に謝罪し、また新たな気持ちで話し合いをすればどこかで落としどころが見つかったり、お互いへの感謝の気持ちが芽生えたりするのです。
このことからお互いに「真剣に話し合いをして良かったな」という気持ちで終われるので仕事に対する感情的な満足度がとても高くなり、やりがいに結び付くと言えます。

印象に残っているご経験はどのようなことですか?
夜勤中の出来事です。
見回りの時間となり懐中電灯を持って異常がないか確認していると、ある女性ご利用者様がパチリと目を開けました。
私は静かに歩いたつもりだったのですが、どうやら起こしてしまったらしいのです。
「うるさくしてごめんなさい。まだ夜なので、お休みください。」
と声をかけると、ご利用者様は急にまじめな顔をして話しかけてきました。
「ねぇ、あんたって結婚してるの?」
あまりに唐突な質問で笑ってしまいましたが、
「そうですね。今はしていないですけれど、今後するかもしれませんね。」
とお答えすると、ご利用者様は驚いたように目をパッチリと見開いて、
「じゃぁあたしお祝いの貯金しなくっちゃ。」
と言って、そのまますやすやと寝てしまいました。
そんなに深く話したことがない方だったので驚いたのですが、とても心癒されました。

仕事に就かれた当初苦労されたことなどありましたらお願いします。
身障者の女性の在宅介護については措置時代のボランティアだったというのと、年齢が近かったのもあり「友達同士のお泊りごっこ」感がなかなか抜けなかったように思います。
しかしその女性が根気よく「仕事としての意識」を植えこんでいってくれたので介護を仕事として捉えられるようになりました。
感謝の気持ちしかありません。
特別養護老人ホームでは今までの経験が全く役に立たないのがわかりましたが、チューターのごとく先輩職員がかわるがわる丁寧に指導をしてくださったのでひととおりのことはできるようになりました。
繰り返すようですが感謝の気持ちしかありません。
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日頃から大切になさっていることはなんですか?
「かわいがられる」介護士であり続けることです。
私たちが介護をさせていただくのは全員人生の先輩です。
行き届かないこと、できないこと、人間としての長所、短所・・・全て見抜いていらっしゃいますが、長年人生という道を歩いてきた中でそれを「許容」してくださっているだけと言えます。
介護士は経験を積んでいく中で、ついご利用者様を尊重するのを忘れがちになる瞬間がありますが、「甘えさせていただけるならそれに感謝して、素直な心でご利用者様とコミュニケーションを取ろう」という気持ちを持ち続けるだけで、初心に帰ることができるのです。

今後やりたい事や目標などありますか?
Webライターとしては介護という仕事の楽しさと、続けることの良さを世の中に文章という形で伝え続けていきたいです。
またレクリエーション介護士としては、介護と芸能両方の経験を活かして、より良い形でレク提供者とご利用者様を結び付けていきたいと思います。
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これから介護の仕事を目指している人へメッセージをお願いします。

女性は特にライフステージの変化とともに介護という職業とのかかわり方について考えることが多いのではないかと思います。
そのような時、介護のスキルというのは介護の現場でしか活かせないと考えるのは早計です。
介護のスキルがあれば、例えば福祉用具専門相談員の資格を取得して福祉用具会社で営業をすることも可能ですし、芸能関係の特技があればレクリエーション介護士の資格を取得してレクリエーションの仕事をするのも可能です。
よく介護士の仕事だけをしてきた職員さんというのは「私は介護しかしていないし、会社に入ったことがないから世間知らずで・・・」のようなことをおっしゃいます。
しかし、今お伝えしたように介護のスキルは介護の現場だけではなく、社会のさまざまな場で必要とされているということを思い出してほしいのです。
ぜひライフステージが変わっても、今の自分に心地よい介護との携わり方を模索する努力を続けていってほしいと思います。