
小規模多機能事業所って名前は聞いたことあるけど、どのような施設なの?介護士として働く場合、特養や有料老人ホームと比べて何が違うのか、どのようなスキルが求められるのか知りたい。
求人情報を見ているとたくさんの介護事業所がでてきてわかりにくいですよね。その中で、小規模多機能とは他の施設と比べていったいどんな特徴があるのでしょうか。介護士として働くという視点から説明していきたいと思います。
小規模多機能事業所とは、地域密着型サービスに位置付けられており、市町村の管轄にあります。通い、訪問、泊りを組み合わせたサービスとされています。
では、介護士として働かれる際に、その他の事業所とどう違うのか、どんなスキルが求められるかなどを私が実際に経験してきた事を基に、説明していきたいと思います。
- 小規模多機能事業所ならではの、通い、訪問、泊りを組み合わせたサービスを提供できる
- 比較的介護度が低い利用者が多く、介護負担が小さい。つまり、介護者の体の負担が小さい傾向にある。
- 臨機応変に対応し、在宅生活を支える施設なので、その場で業務に対応する力が必要となる
- 自分たちの施設で24時間を対応することになるので、やりがいがある
小規模多機能事業所の介護士が他の施設より働きやすい理由
ここでは、小規模多機能事業所の介護士が他の施設より働きやすい理由を挙げていきたいと思います。上記でも少し触れましたが、小規模多機能とは、通い、訪問、泊りを利用者様に合わせて臨機応変に組み合わせるサービスです。
それだけに他の施設とは違った特色が出てきます。では、一つ一つ見ていきましょう。
理由①:色々なサービスを提供できる
私の経験では、介助や生活援助を通じて得られる経験や技術は、介護事業所の種類などによって大きく異なります。
小規模多機能については、通い、訪問、泊りのサービスの組み合わせになります。居宅サービスの種類で単純に分けると、通所介護、訪問介護、ショートステイの組み合わせになります。つまり、それだけ、利用者様それぞれに応じたサービスを提供しやすいということです。また当然、得られる経験の幅が大きいことになります。
介護サービスはたくさんありますが、こういった幅広い介護サービスを提供できるのは小規模多機能だけです。
逆に言えば、常にある程度決まった時間に、仕事をするということからは少しずれるかもしれません。急な通いや訪問、あるいは泊りがあることも日常的にあり、それによってその日にやることが変わることもあります。しかし、そういった流動的な所が小規模多機能型事業所で介護士をする大きなポイントとなります。
理由②:家庭的な落ち着いた雰囲気で仕事ができる
続いての仕事のしやすさとして、家庭的な雰囲気であることを挙げたいと思います。介護事業所はサービス種によって、目的が異なります。たとえば、老健などではどちらかというと、病院に近く雰囲気が硬い作りの所もあります。
また、デイサービスなどでは、小さなところでは家を改装したようなところもあれば、ちょっとしたジムのような雰囲気のところもあったり色々です。
小規模多機能については、法的な目的で家庭的な雰囲気で生活していただく事が挙げられています。よって、建物の作りもどこか家やペンションのような雰囲気のところが多いです。建物がそういった雰囲気であると、利用者様や職員の雰囲気も自然と家庭的なものへと変わってきます。特養などに比べると少人数であることも相まってか、落ち着いた介助や生活援助が提供できる特徴があります。
どちらかというとカチカチとした雰囲気ではなく、家庭的でゆったりした雰囲気のところを希望される方には特に働きやすいと考えます。
理由③:比較的介護度が低く負担が少ない傾向にある
介護度という言葉を聞かれたことがあるのではないでしょうか。これは介護にかかる時間の目安を表します。介護度は要介護1~5、要支援1~2の合計7段階あります。介護度5が一番介護に時間がかかり、要支援1が一番かからないという様に捉えます。
小規模多機能事業所は、制度的にはこの7段階のすべての介護度の方の受け入れが可能です(施設によっては自主的に範囲を狭めているところもあります)。
しかしながら、小規模多機能は在宅生活を支える目的があり、実際には介護度が5や4の方は少ない傾向にあります。それくらいの介護度の方は、小規模多機能事業所には適さず、他のサービスを使われるパターンが多いからです。
私の経験では、小規模多機能事業所の平均介護度は2.5以下でした。特養や老健などは4.4程と言われていますから、それだけ介護にかかる時間が少ないことがわかります。
つまり、介護をされる方にとっては、そういった施設に比べると少なくとも身体的な負担は軽い傾向にあります。
小規模多機能事業所での1日のスケジュール
上述のように、小規模多機能事業所は通いや訪問、泊りを組み合わせたサービスになります。1日の役割としては大きく分けて、訪問介護サービス、通いサービス、夜勤などに分かれて仕事をします。
ですから、日によって異なることが多いのですが、以下では、代表的な訪問介護、通いの役割についた時の例を挙げてスケジュールを紹介します。
例①:訪問介護サービスの役割になった時
ここでは、その中で訪問介護サービスを担当した日の介護士の動きを示します。多くの場合、この役割に入った場合、1日を通じて訪問に従事することが多いです。
- 8:30出社夜勤者からの申し送りを受ける
- 9:00訪問介護朝食の提供、朝の服薬など
- 10:30訪問介護昼食を家で一緒に作る*可能な方のみ
- 11:30訪問介護昼の配食サービス*こちらは作ったものを持っていく
- 13:30休憩スマホでネットサーフィンしたり、本を読んだりする
- 14:30買い物利用者様と一緒に買い物。あるいは代行。掃除など 夕方までに利用者様宅の掃除など
- 16:00送迎+訪問利用者様を送りつつ、近くの方の訪問介護。夕食準備など。
- 17:30退社
この様に、朝~夕方までひっきりなしに訪問介護サービスをすることになります。日によっては、通いの方の送迎がそこに加わることが実際はあります。また緊急の場合には、ここにさらに訪問介護サービスが加わることもあり、あくまで一例ですが示してみました。
例②:通いサービスの役割になった時
ここでは、通いのサービスを担当した日の介護士の動きを示します。多くの場合、この役割に入った場合、1日を通じて通いサービスに従事することが多いです。
通いサービスは、送迎、入浴、排せつ、食事介助やレクリエーションが主になります。
- 8:30出社夜勤者からの申し送りを受ける
- 8:50送迎利用者様のお迎え
- 9:30入浴午前中は入浴介助をする
- 12:00食事配膳や食事介助
- 12:30休憩スマホでネットサーフィンしたり、本を読んだりする
- 13:30掃除利用者様が午睡をされる間に、掃除や記録をする
- 14:00レクリエーションその日ごとに違ったレクリエーションをする
- 15:00おやつおやつの配膳、食事介助
- 15:30トイレ誘導トイレの誘導、移動介助など
- 16:00送迎利用者様を送る。1日の記録をする。
- 17:30退社
この様に、通いサービスに就いた時は、送迎で始まります。その後は入浴、食事介助などをするわけですが、よく動く印象があります。それでも、特養などに比べると身体的な介護は少ないので、動くと言っても付き添いなどの介助が多いイメージになります。
小規模多機能事業所の介護士に求められるスキルとは?
ここでは、小規模多機能事業所の介護士に求められるスキルを説明したいと思います。
前述のように、サービスの幅が大きいため、当然に把握する知識や技術の幅が広がってきます。その他にこの事業所ならではといっていいスキルがあります。小規模多機能事業所の介護士をお考えの方はぜひ、知っておいてほしいポイントです。
スキル①:訪問、通い、泊りサービスの幅広い知識、技術が必要
これは小規模多機能事業所ならではのスキルになります。この事業所の最大の特徴として、訪問、通い、泊りの組み合わせのサービスである事があげられます。介護士はその幅広いスキルを身に着ける必要があります。
夜勤をされる方であれば、夜勤帯の業務も把握しなければなりません。すべてを担当される方は、登録されている利用者様に24時間関わることになります。
他の居宅サービスと比較してみても、通所介護サービスであれば、通われている間の時間だけ、訪問介護サービスであれば、訪問時だけの関わりになります。
しかし、小規模多機能事業所については、在宅におられる間も、通いに来られている間も、泊まられている間も常に生活を支える立場にあり、関わりがあります。事業所によっては、夜間帯の緊急な訪問対応をしているところもあります。
その分、覚える事、把握することも多く、実際に業務は複雑になります。ですが、居宅であればケアマネがするような調整をしながらの仕事とも言え、得られるものは大きいと思います。
スキル②:関わりの時間が多い中で、利用者様に対応していく力が必要
小規模多機能事業所は、介護サービスの中では地域密着型施設に位置付けられます。市町村の管轄で、少人数で家庭的な雰囲気での生活が求められています。
この点は実際に介助や生活援助をしていると、利用者様との関わりの時間が多く出てくることに気が付きます。特養や老健などと比べて、お話をされる利用者様も多いし、ドライブや散歩などの外出を一緒にする機会も増えます。
人生の先輩ですから、こちらの反応や受け答えをよく見ておられます。また認知症があって反応がなかったり、かみ合わなかったりしても、感情が伝わります。この辺りは、同じ利用者様に対しても、職員によって全然反応が違うことからわかります。同じ声掛けをしても、拒否されてしまう職員もいれば、快く受けてもらえる職員もいます。
これは大きなスキルの一つだと思います。業務優先で効率よく動くことを望まれる介護職の方も必要ですが、こういった施設では利用者様との関わりといった視点がより大切になります。
スキル③:突然のサービスの変更に臨機応変に対応する力が必要になる
小規模多機能事業所ならではの特徴には、上述したことに加え、もう一つ重要なことがあります。それが臨機応変に対応する力となります。これまでに少し触れてきましたが、この事業所は、毎日の予定がころころと変わることが多いです。通いや訪問、あるいは泊りの曜日はある程度は固定化されていますが、キャンセルがあったり、急な追加があったりが日常茶飯事です。
例えば、その日に通いであった利用者様が急に体調を崩し休まれた場合。
この場合、まず昼ごはんを配食サービスに即座に切替え、昼までに準備する必要があります。それをだれが対応するのかがまずポイントとなります。
そして、さらに大事なのが、この体調が悪くなった利用者様に対してどう対応していくかが大変重要です。ご家族や医療職、ケアマネージャー等と連携をとりながら、様子をみるのか、すぐに受診なのか、その受診は誰が対応するのかなどを決めていきます。
それによって当然翌日以降の予定も変動します。こういったことに対応し、適切な判断を繰り返していくスキルが必要になります。
【実体験】小規模多機能事業所の介護士の仕事内容
ここでは、小規模多機能事業所で私が介護士をしてきた中で、実際に経験してきたエピソードを紹介したいと思います。
介護士として、ご家族等と連携して利用者様のケアに取り組むわけですが、良い方向に進むこともあれば、逆効果になってしまうこともあります。業務が忙しい中で、簡単に対応が出来ないもののチームで同じ方向を向いて対応していくことが大切です。
Aさん:口からの食事が継続してできるようになった
私が小規模多機能事業所で働き始めた頃、この利用者様は経管栄養のみの栄養摂取でした。この方の場合、経鼻での栄養摂取でした。以前に何度か肺炎で入院されたことから、こうなったと聞いています。当時、口からの栄養摂取はありませんでした。
また、覚醒状態も良いわけではなく、よく下を向いて気を失ったがのごとく、微動だにされない時がありました。時折、声掛けが通じ立ち上がりなどはできることがありましたが、主な活動はそれくらいのものでした。
しかし、ご家族の想いもあり、家で調子が良い時は口からの食事をされていたそうです。病院にもゼリーなどであれば楽しみ程度には可能と言われていたそうです。そんなご家族の想いを受け止め、病院や医療職とも連携をとりながら、口からの食事の機会を増やしていきました。また、それに伴い、覚醒しておられる時間も増え、表情の幅や発声の機会も増えていかれました。
地域密着でご家族との連携があってこそのケアとなりました。
Bさん:適切なニーズへの対応ができず、悪い方向へ
以前から帰宅願望が強く、1日に再三の帰宅の訴えをするBさんのエピソードです。小規模多機能事業所は、泊りを組み合わせるサービスですが、中には利用中に自宅での生活が困難になり、毎日泊りを続ける利用者様がおられます。
この方はその代表的な例です。記憶力も年相応には保たれており、理解力もあるのに、家に帰ることを訴え、大声で怒鳴ることが増えていました。
私たちは、ご本人の気持ちも十分に理解できたので、泊りで帰宅することは無理でも、一時帰宅ならという話を提案し、一時間ほど家で妻と面談する時間を持つことが出来ました。その時は満足された様子だったのですが、その数日後には再び大声で訴えをされるようになりました。
しかも、今回は家への帰宅ではなく、ただ外出できればよいといった訴えに変わっていったのです。訴えの中身が変わっているのですが、この方だけをドライブに連れていくという支援をしたスタッフがおり、よりそれが悪化しました。
ご本人の想いなのか、少しのわがままなのかを考えさせられる機会となりました。
Cさん:2度の入院を経ても状態が維持できた
Cさんは、私が小規模多機能事業所で介護に携わった時には、脳梗塞の後遺症で右麻痺があり、身体的動作全般になんらかの介助が必要な状態でした。そんな中、冬場に再び脳梗塞の疑いで入院され、退院された時には以前よりも、心身の能力が落ちてしまい、座位を取ることも、会話も以前よりもままならなるほどでした。
その後、肺炎の疑いでの入院があり、退院の時には、食事介助が必要で、息子様が誰かもわからず、発語もなかなかされない状態にまで状態が落ちてしまいました。
私たちは、出来るだけご本人に話しかけたり、2人介助でイスに座ってもらう時間を増やしたり、食事を少しずつでもご自分で食べてもらうようにしたりと、様々なアプローチを続けました。
すると、ご本人の頑張りもあって、簡単な会話であれば何度か受け答え出来、笑顔も見られるようになりました。食事についても、以前に比べれば食べこぼしはたくさんあるものの、スプーンを持ち自ら完食できるまでに戻られました。
この様にうまくいくことばかりではありませんが、介護の目標を達成できたと思います。
まとめ
ここでは、小規模多機能事業所の介護士としての仕事について説明してきました。
小規模多機能ならではの、サービスの組み合わせがあり、それによって介護士として対応する事柄も多様になることがお分かりいただいたと思います。
しかし、利用者様の生活は本来、一定していないものです。それを家庭的に地域で支える事の出来る重要度の高い仕事であると思います。
この記事を書いた人
