
コロナの影響で介護現場も大変。処遇改善加算などで、ようやく給料は上向きになってきたけど、財務省が介護職の処遇改善を否定したってニュース、本当なの!?介護職は大変なままでいろってこと!?もしそうなら、冗談じゃない!詳しく知りたい!!
介護保険制度の大規模改定が、令和3年4月1日に予定されています。平成30年以来の大規模改定で、特に介護職の処遇改善を主眼とした改定内容が検討されています。
ところが、財務省から介護職の処遇改善を否定する内容が発表され、大きな波紋を呼んでいます。厚生労働省が進めてきた処遇改善の内容を、なぜ財務省が否定することになったのか。
ここでは、財務省の発表内容を読み解きながら、介護業界が今後どうあるべきなのか、考察していきます。
参考【介護士転職】処遇改善加算を取得している優良介護事業所の見つけ方
- 財務省が介護職の処遇改善を否定した真意
- 現場が考える介護業界の近未来
- 現職の介護職はどうすべきか
財務省が介護職の処遇改善を否定した真意
まずは、問題となった財務省の発表内容がどのようなものだったのか、確認と分析の作業をしていきましょう。闇雲に発表するわけはありませんので、財務省なりの考えがあるはずです。
なぜ否定する発表を出したのか、流れに乗って処遇改善がされないと何が起こるのか、読み解いていきましょう。
ニュースの概要
事の発端は、11月25日に発表された、財務省の「来年度予算案の編成に向けた提言(建議)」です。財政制度等審議会が、日本の来年度予算編成の課題をまとめたものです。
これまで、他産業の賃金が上昇する中で、介護人材の不足が深刻であることを踏まえ、累次にわたって介護職員の処遇改善を行ってきた。足もとの労働市場の動向(一人当たり現金給与総額の減少、有効求人倍率の低下)48を踏まえると、介護報酬改定において国民負担増を求めてまで処遇改善を更に進める環境にはないと考えられる。
日本全体の様々な予算を組むのに、こういうところが問題ですとまとめたもので、一概に介護だけを否定しているわけではありませんが、この建議(以下、建議で統一します)で、以下のような分析がなされています。
- 全体としての報酬引き上げは避けるべきだ
- 介護職員の処遇改善は、国民の負担を増やしてまで進めるべきではない
まとめると、「国民の負担を増やしてまで介護業界を補助する必要はない」ということになり、これが私たち介護業界で働く者にとって大きなニュースとなっているのです。
なぜ財務省は処遇改善を否定したのか
では、なぜ財務省はこのような発表を行ったのでしょう。この建議の中にも理由が示してあり、要約すると下記のようになります。
- 介護の費用は年々増加している
- 新型コロナの影響(ダメージ)は、介護業界よりも他業界の方が大きい。
- これまで様々な処遇改善に繋がる施策(加算など)を行っているが、取得率が低い。
- だから、既存の制度で十分に処遇改善ができる。他業界との差も無くなってきているので、更に引き上げる必要はない
つまり、これまで散々お金を使って支援してきて成果も出ているんだから、今の体制で十分でしょう?他の業界も大変なのに、介護だけさらに上げろというのは問題。既存の制度を十分活用すればいいでしょう。と、いうことになります。
処遇改善しないと何が起こるのか
厚生労働省が来年度行おうとしている介護保険制度改定は、本来であれば「介護保険法20周年」ということで、かなり大規模な改定になることが予想されていました。
このコロナ禍でかなり抑え気味になっていますが、この財務省の提言がどのように作用するのか。今の段階ではまだわかりませんが、もし仮に改善しない方向で決定した場合はどうなるのか。
最も危惧されるのが、「介護業界からの離職者増加」です。介護職は元々「安い、きつい、汚い」と言われる職種で、処遇改善が進んだ現在でも新規就職者が少ない職種の1つです。
ここで、財務省が否定した、という事実だけが広まると、厚労省が進めている他業界からの転職サポート制度等もかすんでしまいます。
人手不足は長年の課題ですが、新しい人材が来なければ、今現場で頑張っている介護職のバーンアウトが進み、離職者が増える心配があります。
離職者が増えると、さらに人材不足が慢性化します。介護保険サービス全てにおいて「職員配置」が義務付けられていますので、達成できない事業所は閉鎖するしかありません。
事業所が減れば、その地域のサービスが少なくなります。職員配置と同様に、利用者定員の規定があるサービスも多いので、必然的にサービスを受けられる利用者の総数も減少します。
利用したいのに利用できない、いわゆる「介護難民」が激増します。
現在も島しょ部、山間部などではすでに発生していますが、介護を受けられずに自宅で自分たちの力で生活せざるを得ない、あるいは遠方の施設などに移るしかない高齢者が、今後増えていくでしょう。
結果的に、介護保険制度自体の破綻に繋がりかねないのです。
現場が考える介護業界の近未来
介護職の処遇改善がいかに大事であるか。一般業界と違い、エッセンシャルワーク、生活に必要不可欠な仕事の1つである介護業界ですが、改定のたびに、「改正」ではなく「改悪」と言われるような変更内容も少なくありません。
プロフェッショナルとしてより高い次元を求められるのは分かりますが、このまま行くと、介護職を振るいにかけているとしか思えない事態にもなりかねません。
ここからは、私個人の見解として介護業界の近未来を予想してみます。もちろんそれぞれ根拠もあげていきます。
その①:生き残り競争が激しくなり、事業所が減少していく
まず、今後間違いなく、介護事業所の生き残り競争が激しくなります。今でも都市部では競争がありますが、より激しくなるでしょう。
要因は、「介護職員処遇改善加算を算定できるか = より多くの優秀な介護職を集められるか」という部分になります。
現在、介護職の処遇改善策として、「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」の2つの制度があり、両方とも法人、事業所の経営努力を必要とします。
参考処遇改善加算の落とし穴:「介護職員全員に支給しなければならない」というようなルールはない
これができるところにより良い人材が集まり、できないところは人材そのものが集まらなくなって、結果的に廃業に追い込まれます。
小規模な法人、民間が経営母体で主産業が違う法人などは、廃業あるいは撤退の選択肢を選ぶところが増えるでしょう。
社会福祉法人、医療法人など元々専門として行っていたところも、規模の縮小や一部閉鎖の選択肢を選ぶところが出てきそうです。財務省によれば「儲けているじゃないか」との評価が出ていますので、厚労省としても100%無視した対応はしづらいでしょう。
その分改定内容の縮小などの方向性になる(これは毎回のことです)可能性が高い。ということは、より一層企業努力を求められる、ということになります。
その②:アップする職員、辞めていく職員の二極化が顕著になる
会社が厳しくなれば、従業員の待遇も厳しくなってしまうのは致し方ないことです。
介護保険制度が始まった当初は、資格はないけどやる気のある職員が多数働いていました。その後資格取得への流れとなり、現在は「資格取得をする方向」の職員だけが働ける、という規定になっています。
近いうちに、「資格のある人しか働けない」介護業界になるのは間違いありません。
幸いにも、介護業界にはやる気、高齢者のために働きたいという純粋な気持ちを持った職員が多数働いています。医療などと同じく、エッセンシャルワークという言葉が出る以前から、人のために働きたいと考える人が多い。これは、介護業界最大の誇るべき点です。
ただ、その気持ちに処遇(給与、環境、世間からの評価)が付いていかないと、やる気が失せてしまうのも事実です。
少し古い資料ですが、厚労省が発表している「介護労働の現状報告」(平成30年)のデータによると、介護の仕事を辞めた理由の4~6位はすべて「待遇」が関係している理由です。
収入が少ない、他に良い仕事があった、将来の見通しが立たないなど。
それでも頑張ってスキルアップや資格取得を重ねる職員は、その法人で徐々に昇格していき、給与面でもそれなりに満足できるものを得ることができるでしょう。
頑張れなくなった人、バーンアウトした人は、別の介護事業所ではなく、他業界を選ぶ人が多くなってきます。
この傾向が、将来的に強くなる可能性が高いのです。
その③:利用者がサービスを選びにくくなる
前述しましたが、法人、職員ともに振るいにかけられるようになると、使えるサービスの数量自体が減少します。
まだ高齢者の比率は増加中で、2025年問題と言われるように、2025年にはいわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になります。その時点で、全人口に対する高齢者の割合は30%を超えます。
ここで終わりではなく、私のような「第2次ベビーブーム」世代が高齢者の仲間入りをする2040年には、高齢者比率は35%を超えます。3人に1人以上は高齢者、の世界となるのです。
加えて、今の団塊の世代、将来の私たちの世代になると、親や祖父母の介護で介護サービスを利用してきた人たちが、自分がサービスを使う側になります。
当然、以前との比較、情報をきちんと把握した利用者、ということになりますので、サービスの質も今以上に求めるでしょう。
その地域にきちんとしたサービスが、「選べるくらい」あれば問題ありませんが、選べない、あるいはそもそもないという状況になれば、利用者の満足度も低下します。
介護保険に頼らず、実費で賄おうという人が増えるでしょうし、諦めて、あるいはお金が無くて何もサービスを使わずに自宅にこもる人が増えるでしょう。
介護保険制度導入前の状態に戻るかもしれません。あまり良い展望とは言えないのです。
現職の介護職はどうすべきか
いずれにしても、あまり良い将来像は見えてきません。他業界に転職しようか、では面白くありません。今までの頑張りをすべて捨てて、全く違う業界に飛び込むリスクを考えても、ここは介護職としてどう生き延びるかを考えていきましょう。
具体的には人それぞれやることがありますが、介護職として今できることとして、3つのことを提案します。
目新しいことではなく、これまでも盛んに言われていることですが、「自分が生き延びるために」という主眼で見ると、また違った様相があります。
その①:まずは自分の身を固めよう
介護、医療業界で働く人は、「人のために働きたい」という気持ちを強く持たれています。それはとても素晴らしいことで、対人援助の基本ですが、「人のために働くためには、まず自分が生き残っている必要がある」という点を強く意識しましょう。
具体的には、まず心身の健康を保ちます。体の調子、心の調子を自分で整えることを意識しましょう。体調管理は会社がしてくれるかもしれませんが、体調を整えることは自分でするしかありません。
また、自身のスキルアップを心がけましょう。
資格、知識、技術。いずれも現在がゴールではないはずです。
私自身がそうでしたが、資格と経験は後々にしっかり役立ちます。こうして文章を発信できていることもそうですし、途中何回かの転職を経ても介護業界で働けていることもそうです。
まずは自分の身を固めて、制度や大きな方針に振り回されないようにしましょう。
その②:周囲との交流、情報交換を大事にしよう
介護業界はチームプレイが多く、そういう意味で職場内外でのコミュニケーションを大事にするように、常日頃言われているかと思います。
もちろんそういう意味でもコミュニケーションは大事ですが、「情報収集」という観点でも交流を持つことはとても重要です。
よく「非常識な常識」という言葉で表現されますが、介護業界はどうしても自分の法人、事業所、施設のやり方が一般常識と思いがちで、他のところ、地域との比較をしづらい現状があります。
外部研修に参加された場合は、無理のない範囲で他の参加者などと情報の交換をしましょう。
また、最近はインターネットで様々なサイトがあります。情報交換はもちろん、介護保険制度の最新情報や、改定に向けての様々な動きについての情報を得ることができます。
情報は力です。あらかじめ知って身構えておくのと、何も知らずにいきなり振り回されるのとでは、自分の動きや受けるダメージの量が全く違います。
情報を集めながら、できれば同志、同じ志を持つ仲間を増やしていきましょう。
1人では無理な事も、人数が多くなれば乗り切れる場面がきっと出てきます。
その③:きちんと訴えるべきことを訴えよう
上の2つを踏まえた上で、きちんと訴えるべきことを訴えましょう。また、職場内では、現状の処遇に満足せずにもっと上を望みたいと訴えましょう。市、県、国と訴える相手が大きくなるほど、個人の訴えでは届きにくくなります。
先日、全国的な介護職の労働組合が、50万人もの署名を集めて、厚労省に処遇改善を求める訴えを行った(10/19)という報道がありました。数も力ですので、同志を募った結果として国まで訴えが届いた典型的な例です。
インターネットやTwitterでも、あなたが働いている自治体でも、あるいは同じ職場でも、数が集まればそれだけ訴える力が増していきます。
利用者の生活を直接守っているのは自分たちだと、誇りを持ちましょう。
自分たちがダメになれば、最終的に利用者の生活が成り立たなくなるのです。そのための訴えを起こしていくのも、これからとても大事になっていきます。
まとめ
財源、国の施策として、財務省が介護業界の費用を削りたいというのは、ある意味当然のことです。
だからと言って、「仕方ないね」と受け入れる必要はないと、声を大にして言います。
財務省は財務省の立場がありますが、こちらも介護職としての立場があります。
これから厳しい時代になるかもしれませんが、まずは自分の身を固めて、利用者の生活を守るためにも、前を向いて頑張っていきましょう。
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