
介護士になって何年もなるけど、給料が思ったより上がらないなぁ。勉強会で、処遇改善加算ができて介護士の待遇が良くなったとあったけど、うちの法人は関係ないんだろうか。このままここで働いてもなぁ。転職しようかなぁ。
新しい職場に飛び込むのも勇気がいるけど、どうやったら給料の良いところが見つかるんだろう。
介護士が転職する理由は様々です。人間関係、家庭の都合、ケガや病気の場合もあるでしょう。その中でも、より良い待遇、給料を求めての転職が、一番多いのではないでしょうか。
介護士の転職の場合、初任給などは求人情報ですぐに分かりますが、経年変化、長く働くにつれてどのように待遇が良くなるかは、よく分からないのが実情です。
実は、「処遇改善加算を取得しているか否か」である程度の見極めができるのですが、あまり知られていません。ここでは、優良な介護事業所の見つけ方について書いていきます。
参考特養と老健どちらが働きやすい?介護士がメリット・デメリットを語る
- 優良介護事業所の見つけ方
- 処遇改善加算は達成基準により支給額が変わる!?
- 処遇改善加算の落とし穴
- 【実録!】処遇改善加算による年収の差
処遇改善加算を取得している優良介護事業所の見つけ方
残念ながら、簡単に見つかる方法はない、というのが、現在の状況です。ハローワークの求人情報でも必ず明記されているわけではありませんし、実際に働いている人に聞いても分からない(給与明細をよく読んでいない)ことが多いからです。
ここでは、まず2つの方法を提示します。それぞれ利点と欠点も踏まえて説明していきましょう。
転職サイトに登録してアドバイザーに聞く
これが一番手っ取り早く確実な方法かもしれません。転職サイトは、現在多数あります。ネットで検索すれば、すぐにいくつもの転職サイトがヒットするでしょう。
転職サイトにもいろいろあります。情報だけが提示されており、自分で探して連絡を取る方法。サイトのアドバイザーがいて、自分の情報等を登録した後、アドバイザーからの助言を得ながら探す方法。この2つが、大半です。
その中で、処遇改善加算を算定している優良介護事業所を探すのであれば、断然アドバイザーがいる転職サイトをお勧めします。
理由は、求人を紹介してもらえるため「確実」だからです。
このようなサイトは、まず自分の情報を登録するところから始めます。年齢、性別から取得資格、介護の経験年数、どのような施設・サービスで介護士として働いていたかを細かく登録します。
その上でアドバイザーを活用し、できるだけ優良な介護事業所を探します。その際に「処遇改善加算を算定している事業所」との希望を提示すれば、それに沿った情報、あるいは事業所の斡旋をしてくれます。
確実な点が最大の利点です。欠点を挙げるとすれば、そのサイトに求人を出している事業者のみになりますので、人口が少ない地方の場合は、求人自体が少ない可能性があります。
まずは、各サイトを覗いてみて、あなたが住んでいる、あるいは希望する地域の求人がどれくらいあるか見てみましょう。会員登録していなくても、ある程度の情報が開示されているサイトがほとんどです。
インターネットの介護求人から根気強く探す
転職サイトに比べて、より多数の求人を探すことができることが最大の利点です。最近は、比較的小さな事業所でも、独自のホームページやSNSを持ち、情報発信をしているところが増えてきました。情報発信の中に、求人情報を含んでいるところも多くあります。
ハローワークや転職サイトを利用せずに、その地域に求人を発信している事業所も見つけることができますので、身近で転職先を探したいという場合にはお勧めです。
より緻密に求人を探せる点が最大の利点ですが、皆さんも予想がつくように、すぐ見つかれば良いですが、なかなか見つからない場合は、手間と時間が一番かかる方法でもあります。
注意すべきは、第3者が介入していませんので、その分、トラブルやリスクもあるという点です。面接に行ってみると、求人情報と違う条件を提示されたというケースが一番発生しやすい方法でもあります。
求人を見つけた上で、違うサイトや知人などに情報を求める等、慎重に転職活動をされることをお勧めします。
求人票にある処遇改善加算の表記方法に注意する
なかなか求人情報にも明記されていない、と書きましたが、実は注意深く見ることで、処遇改善加算に類する表記を見つられる、あるいは、よく分からないから面接の時にはこう聞くべきだ、と心構えができる点がいくつかあります。3つの種類に分けて、解説していきます。
その①:明確に手当てと支給額が記載されているケース
あまり明記されていない処遇改善加算ですが、きちんと明記してくれている事業所もあります。上記が一例で、抜粋すると、「処遇改善加算手当:24,000円(年度変動あり)※3ヶ月に1回、3ヶ月分支給」と、金額、支給の方法、変動があることまできちんと書いてあります。
ここまで明記してくれると十分参考にできますし、何より分かりやすく明朗会計と言った感じです。
ここまで出してくるところは少ないでしょう。この求人を見ると、他にも皆勤手当、研修制度、資格取得支援制度、交通費全額支給、リゾートホテル割引など、一般的に少ないと言われる類の福利厚生が非常に充実しています。
手当てと支給額まできっちり出してくる企業は、それだけ自法人の待遇に自信があるということです。その分より質の高い介護を求められますので、転職活動時の書類審査、面接ともに厳しいだろうし、競争率も高いだろうと容易に想像できます。
その②:手当があるが具体的に書いていないケース
求人の大半は、上記のような記載になります。
総額いくら、各種手当を含む、の中に「特定処遇改善加算の手当」との記載があります。ただこれだけで、具体的にいくらが処遇改善分なのかの記載がありません。後述しますが、いくら必ずあげないといけないという制度ではないので、実際は雀の涙というケースも多くあるのです。
また、この記載例の場合「特定」処遇改善加算との記載になっているので、余計に注意が必要です。今回は触れませんが、「処遇改善加算」と「特定処遇改善加算」は全く違います。特定は、普通の処遇を算定していることが条件ではありますが、経験を積んだベテランを対象とした制度なので、全く当てはまらないケースが多いのです。
この例の場合は、他の記載で昇給や資格取得への補助が多数あるので大丈夫でしょう。ただ、基本的に曖昧な記載の場合には、問い合わせ、あるいは面談の時点でしっかり確認する必要があります。
その③:求人タイトルに処遇改善とあるが、手当の記載が一切ないケース
この例の場合、大きく「処遇改善!」と書いてありますが、それが改善加算を指すのか、企業として処遇を改善しました、というだけなのかが分かりません。処遇改善加算の記載は一切ありませんし、他の手当についても具体的な金額等が全くありません。
これだけだと、給与の総額は良くてもどうなんだろうという疑問が湧きますが、この求人例の場合は、注目すべきポイントがあります。
それは、経験年数と取得資格によって、細かく給与総額を分けているところです。
例えば、介護福祉士取得者で、経験年数が5年以上、5年未満では、月の給与が1万円、年額で149,000円も違います。経験年数によって違いを出しているということは、処遇改善加算を算定している可能性が高いと判断できるのです。
今回の3例は、いずれも求人としてはとても優秀なものです。
それぞれ見るべきポイントさえ把握していれば、一概に記載がないからダメと思い込んで、良い求人を見逃さずに済むのです。
参考【介護士転職】その施設の処遇改善手当は知ってる?無知でいると損する理由
処遇改善加算は達成基準により支給額が変わる
さて、ここからは、肝心の「処遇改善加算はどういう制度なのか」について記載していきます。まず概要として処遇改善加算は、その名の通り処遇を改善するための加算で、対象者は介護士(兼務者含む)です。
介護士の給与に反映させることが条件の加算ですが、どの法人でも好きに取れる加算ではありませんし、要件をいくつクリアするかで加算の金額が5段階に変化します。
まずは要件について、4つありますのでそれぞれ解説していきます。
「賃金体制」の整備
まず基本ですが、介護職員の給与、賃金について、きちんと体制を整えないといけません。簡単に書くと、一般社員はいくら、フロアリーダーなどの役目がある職員はプラスいくらなど、業務内容や責任に応じて給与できちんと分けて評価してください、ということになります。
一般的には、給与規定などの形で職場にあるものが、そうです。
「研修」や「資格取得」支援
介護職員の処遇を改善する加算ですから、その分、介護職員のスキルアップも求められます。大きく2つ、研修計画の策定と実施、資格取得のための支援を、加算を算定する法人は行わなければなりません。
具体的には、まず研修については法人で研修計画を策定し、自治体に提出します。資格取得支援についても、具体的に法人が何の支援をするのか、金額面なのか時間の面なのかを具体的に決めます。
両方を指定の用紙に記載して自治体に提出し、その取り決め通りの支援を介護職員に行い、実際に行ったことを再度自治体に報告します。
「昇給制度」の整備
1つ目の要件で、賃金体制を整備するという項目がありましたが、それに関係して、一定の基準を満たした職員を昇給させる体制を、整備するように求められています。
具体的には、役職を作ること。管理者、などの法令上必要な役職ではなく、例えば主任、課長、部長などのように、段階的な役職を作り、上位の役職を給与で評価する仕組みを作るようになります。
役職は法人独自のもので良いので、一般的には「介護主任」などの名称が一般的ですが、とある法人では将棋の駒で役職を作っているところがありました。新人は「歩」、次が「香車」、どんどん進んで行って、「金将」が一応のゴール。飛車角と王将は、それぞれ理事、理事長。こうなると面白いですよね。
一定の基準についても特に決まりはないので、経験年数や取得資格、あるいは法人独自で「昇級試験」を行う、人事考課を参考にするなど、法人独自のもので構いません。
これらの3つの要件は、一般的に「キャリアパス要件」と呼ばれます。それぞれ、介護士の意欲向上、スキルアップ、長く働き続けられる点をフォローしようとする要件になります。
賃金以外の「職場改善」
介護士に限らず、人が長く働き続けるためには、お金以外の要素も整っている必要があります。例えば精神面。人付き合いの中で悩みを抱える介護士が多い背景もあり、相談体制を整える事業所は増えてきています。
また、利用者の事故や急変も多いですので、とっさの時にどのようにすれば良いかという不安も常にあります。マニュアルや行動表、各種の訓練(避難訓練、事故処理訓練等)があれば、不安が少しでもなくなります。
元気に動けることが介護士では重要になりますので、健康診断やリラクゼーションの体制を整えることも大事です。 これら、賃金以外の要件のことを、「職場環境等要件」と言います。
以上の4つが、加算算定に必要な要件です。またこの要件は、対象となる介護職員全員に周知することも条件の1つとなっています。
全てクリアすれば一番高い算定ができますが、法人にとっての難易度も上がります。維持し続けるとなるとさらに難易度が上がるため、算定できない事業所も数多くあるのです。
算定できたとしても5段階の区分けがあります。厚労省ホームページから抜粋すると、以下のように分類できます。
- 加算Ⅰ(職員1人当たり月額37,000円相当) 要件を全て満たす。
- 加算Ⅱ(職員1人当たり月額27,000円相当) 昇給制度以外全て満たす。
- 加算Ⅲ(職員1人当たり月額15,000円相当) 職場環境は満たす。プラス、賃金か研修を満たす。
- 加算Ⅳ(職員1人当たり月額13,500円相当) 昇給以外のどれかを満たす。
- 加算Ⅴ(職員1人当たり月額12,000円相当) 該当なし。
最も高いⅠと低いⅤを比べると、3倍もの開きがあるのです。
処遇改善加算(手当)があるところは働きやすい環境の可能性大
上記のように、様々な条件をクリアすると、その法人で処遇改善加算を算定できるようになります。
介護士が転職するにあたって優良な介護事業所を見つけるのに、処遇改善加算を算定しているか否かで、ある程度分かる理由は、賃金が良いだけではありません。
介護士に、より多くの賃金を出すための取り組みを、その法人が行っているという点が、介護士が転職すべき優れた事業所と判断できる理由なのです。
賃金が良いところはあるでしょうが、ひょっとすると人を集めるために、最初の賃金だけ奮発しているかもしれません。毎年の昇給が500円、1,000円という話もよく聞きます。
役職がついたのは良いけど、逆に給与が下がった、という話も聞いたことがあるのではないでしょうか。処遇改善加算をきちんと算定し、それを求人募集でしっかり出している企業、法人では、その心配がありません。
介護士をきちんと評価し、段階的に昇給する仕組みが整っています。また、スキルアップのための制度や支援もしっかり整っています。介護士の健康を守るための取り組みもありますので、長く同じ場所で働き続けることができます。
また、その法人は処遇改善加算を算定する取り組みの過程で、他の加算も算定しています。介護保険では、条件が同じ、あるいは似たような加算が多数あり、算定するための苦労はありますが、加算を取れることは、そのまま法人の収入アップにも繋がっています。
それだけできる力のある法人ということは、不況にも当然強い。倒産しづらいということは、より一層長くしっかりと給与を得ながら働ける、ということになります。
もちろん100%ではありませんが、処遇改善加算を算定しているところは、介護士にとって働きやすい環境である可能性がとても高いのです。
処遇改善加算の落とし穴
このように、処遇改善加算は介護士にとって良い制度なのですが、注意すべき点もあります。これは介護保険や他の制度全般にも言えることですが、良い制度は反対側から見ると悪い点もあるのです。
処遇改善加算と書いてあるから、だんだん給与が上がっていくはずと安易に思い込んでいると、思わぬ落とし穴に落ちることになります。
ここでは、3つの落とし穴について解説していきます。
「介護職員全員に支給しなければならない」というようなルールはない
のっけから「えっ!?」と驚く文言で申し訳ありませんが、実際そうなのです。処遇改善加算の大前提として、「加算分は、その年度で全額職員に支払わなければならない」という鉄のルールがあります。
たとえ僅かでも、職員への反映をせずに法人が使う(あるいは貯める)ことがあると、全額返金しなければなりません。それくらい厳しいルールで、この加算は算定できるのです。
ただ、そこに「雇っている介護職員全員に」配らないといけないという文言はありません。また、平等にという文言もありません。極端な話、100人介護士がいて、そのうちの10人にだけ配布したとしても、特に問題はないのです。
誰にどれくらい反映させるかという点については、全面的に各法人の裁量に任されています。法人としても、頑張っている介護士とそうではない介護士に、一律にお金を出すことはしないでしょう。貢献度の高い職員にあげたいと思うのが当然です。
だからこそ、求人情報に「介護職員処遇改善加算」の記載だけあって詳細が無い場合は、就職を決める前に確認をすることが重要になります。聞いても教えてもらえないかもと思われるかもしれませんが、算定要件の「職員全員に周知すること」の職員には、「同様の資格を有して就業する者」も含まれます。要は、介護福祉士などの資格を持って就職しようとする人にも周知する義務が、該当事業所にはあるのです。
必ず確認をしてから転職先を決めましょう。
キャリアパス要件の審査基準がある
先に、処遇改善加算は達成した基準で支給金額が変わると、説明しました。厳しい基準をクリアした法人ほど、より高額の処遇改善加算を算定することができます。
1つ例を挙げましょう。一番厳しい、キャリアパスⅢ(昇給制度)の要件を簡単に書くと、次のようになります。
1つ目。一定の基準に達した職員が昇給できる仕組みを作ること。具体的には、
- 経験年数、勤続年数
- 資格取得
- 法人独自の試験や評価
- どれか1つに該当する仕組みを作ること
2つ目。1つ目の内容について、明確な根拠となる規定を書類にして作成し、内容を対象となる職員全員に周知すること。
この2つが、キャリアパスⅢの要件となります。
一見すると、案外簡単なように思えるかもしれませんが、これがなかなか厳しいものです。昇給する仕組みを作ったとして、その仕組みが処遇改善加算で得た収入をすべて使えるものであるかシュミレーションする作業が、まず大変です。
作ったは良いが、実際は加算収入分に全然足りなければ、余った分の分配を考えないといけません。逆に足りなくなれば、他から予算を回さなければなりません。
中で職員が退職したら?病気で休んだら?考えること、確認し続けることが山積みです。そのため、この要件Ⅲは一番高額な処遇改善加算Ⅰの算定要件にしか出てきません。
このため、「処遇改善加算を算定しています」あるいは、「処遇改善加算の手当てがあります」だけ書いてある求人情報の場合、一番高額な加算Ⅰではなく、Ⅱ~Ⅴの可能性があります。その分、給与の金額はもちろん、将来的な展望もあまり期待できないかもしれない、という不安要素があるのです。
また、明確に記載があった求人情報のところでもちらっと触れましたが、処遇改善加算は年度ごとで変動する場合があります。Ⅰを算定できていたところが、キャリアパス要件Ⅲをクリアできずに、翌年度はⅡになることは割とあります。
処遇改善加算自体が、全体の売り上げ(サービス提供時に得られる収入)の〇%という計算の仕方をしますので、例えば利用者が減れば加算も減ります。
そういう変動も含めて説明してくれる事業所かどうか、という点も、優劣の判断材料の1つになります。
この点を含めて、就職を決める前に必ず確認をしておきましょう。教えてくれない場合は、実は来年度には変動して手当てが下がる状態かもしれませんし、一番低い加算Ⅴかもしれません。ちなみに金額が低く、事業所の算定率も低いⅣ、Ⅴについては、2018年の時点ですでに廃止が決まっています。今はまだ経過措置で算定可能ですが、近いうちに廃止されるのは間違いないでしょう。
処遇改善加算と処遇改善手当は別物
ここまで、加算と手当ての2つの言葉が出てきました。題目のように、前半の言葉は同じですが、最後の言葉が違います。この2つの言葉は、似ていますが全く別物です。
- 処遇改善加算・・・介護保険制度の「介護給付費」で、国や県から会社に入るお金
- 処遇改善手当・・・会社から、介護職員に払われるお金
この違いが、案外落とし穴になります。まず処遇改善加算ですが、これまでいろいろと解説してきましたが、もう1つ、「サービスによって金額が変わる」特徴があります。
先にも触れましたが、処遇改善加算は、「サービスの利用料総額×何%」という計算で算出します。この「何%」の部分が、サービスによって変わるのです。
例を挙げましょう。一番よく聞くと思う、「訪問介護(ヘルパー)」と「通所介護(デイサービス)」です。(それぞれ加算Ⅰの表記)
- ヘルパー 13.7%
- デイサービス 5.9%
全く違うのがお分かりだと思います。例えばわかりやすく、2つのサービスでそれぞれ1,000単位分のサービスを提供したとしましょう。介護保険での計算は1単位=10円が基本(都市部、島しょ部などは変わります)ですので、それぞれ1万円分の売り上げを挙げたことになります。それぞれの処遇改善加算を計算して、売り上げに加えると、
- ヘルパー 10,000円+1,370円=11,370円
- デイサービス 10,000円+590円=10,590円
同じ1万円分の売り上げなのに、会社に入る金額は780円ヘルパーが多い、ということになるのです。
なぜ違いがあるのかは、それぞれのサービスの特徴や1回あたりの料金の違いによります。ヘルパーの基本的なサービスは、利用者個人に対して1時間など時間を決めて家事や介護をすることです。
一方、デイサービスは、数人~数十人の利用者を施設に集め、大体半日お世話をすることが、基本的なサービスです。
それぞれの特徴や大変さがあるので、一概にヘルパーが良くてデイサービスが悪いということではありません。
これに対して「処遇改善手当」は、会社が職員に払うお金です。きちんとした会社であれば、加算算定の要件をきちんと守り、職員に説明した上で加算分の収入を職員へ還元するでしょう。
そういう意味では、加算と手当の意味が違っても大きな問題にはなりません。
ただ、手当はあくまで会社が職員に払うお金のため、処遇改善加算から得たお金ではない場合もあります。「処遇を改善する手当ですよ」と言っているだけのパターンです。
もちろん、プラスの方向で自社努力として上乗せしている優良な企業もあるかもしれませんが、大体の場合は「手当」の言葉で人員を集めようとする、経営努力をあまりしない法人がよくやります。
例を挙げましょう。先ほどの優良な求人情報に似せて、「月給30万円、処遇改善手当含む」と出た場合はどうでしょう。
もちろん手当の金額や説明もありません。面談や内定の時点でも説明がありません。でも、給与も良いし、処遇改善手当もきちんと出るし・・・と思っていると、就職した後に落とし穴が待っています。会社独自の制度で、来年度は業績悪化のため廃止します、などの説明がある日降ってきて、手当の廃止分として5万円も給与が下がる。そういう事例も実在します。
お金だけではなく、ヘルパーとして就職したはずなのに事務から経理まですべてやらされる、昇給制度があると書いてあったのに実際はなかったなど、業務の内容や制度の実態そのものが違うケースも多いのです。
きちんと、「処遇改善加算〇を算定している」事実を確認しましょう。お金だけに目がくらむと痛い目に合いやすいです。
処遇改善手当があるのとないのではどの程度年収の差が出るのか
では最後に、処遇改善手当があるかどうかで、どの程度収入に差が出るのか。具体的な数字を出して年収で比較してみましょう。
なお、ここで出す数字は現実に存在する給与明細を元にしていますが、完全なコピーを出すことはできないので、基本給など基になる金額は少し変えています。基本給を元に算出される部分はきちんと計算されたものですが、県や市によって比率が変わる部分もあることをご了承ください。
介護士4年目(処遇改善手当なし)給与明細
これが明細書です。まず条件の説明をします。
デイサービス介護士、勤続4年目、男性、40歳。資格として、介護福祉士、旧ヘルパー2級、2種自動車免許を持ち、大型車両での送迎もできます。
妻、子供3人、家は借家です。妻も介護士で共働きですが、子供がまだ幼いので、夜勤のないデイサービス勤務をお互い別法人でしています。
子供、子育て拠出金に該当する項目が明細になかったので、共通で3,000円と記載しています。
安いと思うかもしれませんが、私が住んでいる四国の片田舎ではこれくらいが妥当です。稼ぎたい人は、夜勤がある施設を選びます。
介護士4年目(処遇改善手当あり)
今度は、処遇改善加算がある場合の明細書です。他の条件は全く同じです。
雇用保険、所得税が若干変わったのがわかると思います。収入が上がると、同じく上がる控除もあるためこのようになりますが、増加幅は少ないです。月2万弱、年間で23万円を超える差が出てきます。これが、処遇改善加算が生む収入の差なのです。
処遇改善手当の相場
ここでは、処遇改善加算月2万円としました。実際、ほぼ同じ額を毎月給与としてもらっているパターンでしたので、比較がしやすかったのではないでしょうか。
では実際に、処遇改善加算、処遇改善手当として、介護士がもらえる手当はどれくらいなのか。これは非常に地域差、法人ごとの差があると感じます。
例で出した「優良介護事業所」の求人募集では、月24,000円となっていましたよね。この例は都市部の求人でしたが、都市部では、基本給、処遇改善手当ともに高めです。
理由は2つ。まず都市部はサービス単価自体が高いこと(1単位=10円ではなく、11円以上)。
もう1つは、競争が激しく少しでも良い介護士を集める必要性が高いことです。そのため、処遇Ⅰを算定している事業所が多く、結果的に処遇改善手当も高くなる傾向があります。
地方の場合、単価が普通であること、都会ほど競争率が激しくなく、働く職員も地元の人がほとんどなので、そこまで頑張って介護士を集める必要が、都市部よりは少ない(もちろん全国的な人手不足なので、求人自体はたくさんあります)。
給与明細を出したところは、基本給はこれでも高い方です。デイサービス単体ではなく複数の事業所を持つ比較的大きな法人で、処遇改善手当もきちんと出しています。
ただ、こういうところは、地方に行くほど少数派になります。処遇改善加算で一番算定されているのは処遇Ⅱで、厚労省が目安として出した(かなり大雑把な)試算でも、月24,000程度となっています。
試しに、デイサービスの処遇改善加算額を計算してみました。
定員30名、稼働率80%、平均要介護が要介護2のデイサービスで、介護士として働いている人が6人いると仮定します。算定している処遇改善加算をⅡとして計算すると、介護士1人当たりの平均額は、月34,927円となりました。
きちんと算定しさえすれば、これくらいの収入アップが、本当はできるはずです。
ただ、実際は正職員の確保が難しく大半をパート職員に頼り人数が増えている、稼働率が上がらず利用料金自体が稼げていない、などの理由で、これだけの数字を出せるところは少数派となっています。
この点を踏まえて、改めて知り合いの介護士に聞いて回ってみても、この辺りでは平均1万円程度でした。都会で月平均2万円程度、地方だと1万円程度、というところが相場ではないでしょうか。
これは月々の給与に反映される場合なので、賞与や一時金として一括で払うところは、おそらくもっと低いでしょう。処遇改善加算は、月々の売り上げが基になりますので、当然月々入る加算も変動します。
一律いくら、と提示できるところは、それだけ収入が安定しており、出せないところは安定していない、というとらえ方もできるのです。
まとめ
途中面倒な記述もありましたが、要は介護士が転職するにあたって、処遇改善加算の何を算定しているかを確認することは、給与面だけではなく福利厚生や将来の展望も含めて、非常に有効だということです。
ぱっと見てわかりづらい基準ですが、確認する価値は十分にあります。せっかく転職するのですから、少しでも良い事業所を見つけて頂いて、末永く介護業界で頑張って頂きたいと思います。
この記事を書いた人

コメント一覧