介護士の「現在」は明るい
この取材依頼を受けた時、正直ぱっと浮かんだのは「介護業界は、現在も未来も暗いんじゃないか」という想いでした。
ただ、自分の現状や周囲で共に働く仲間の姿を改めて見直してみると、「決してそんなことはない」という想いの方が強くなってきました。
綺麗ごとではなく、実体験と自分の展望を元に、まずは介護士の現在が明るい理由を書いていきます。
理由①:制度は年々整っている
来年、令和3年度の介護保険制度大規模改定がありますが、これまでも度々介護保険制度の改定が行われてきました。
別の記事でも書いたことがありますが、改定は決して「改正」ではなく「改悪」の側面もあります。これは、変更に振り回されたことのある人であれば、大きく頷いていただけるところでしょう。
ただ、平成12年に介護保険法が施行されて以後の経過を見てみると、全体としては明確に制度が整ってきています。
以前当たり前だった、「ヘルパー=家政婦」の図式は、現在はほぼ撤廃されています。夜勤から流れて36時間勤務、ということも、少なくなった(無くなったとは言いません)でしょうし、あれもこれもいくつもの業務を兼務しているということも少ない。
リハビリ、褥瘡予防、栄養管理など、介護士が関わる部分での加算も増えましたし、「介護士自身を守る」取り決め(グローブの着用等)も定着しました。
たった20年で、ここまで制度的にも慣例的にも良い方向へ変化するのは、他業界から見ても明るい現状と言えるでしょう。
理由②:介護士の評価も年々上がっている
一昔前、「介護保険制度が始まる!」に惹かれて私が転職してきた平成12年当時。はっきり言って、介護士、介護業界の評価は「最低」でした。
人の排せつ物をいろう(触る、の方言です)なんて汚らしい。老人(当時は高齢者とは言わなかった)を山中の施設に押し込めてお金を取る。女がする仕事で、男がするなんて恥ずかしい(近所の人に面と向かって言われました)。などなどなど・・・
今も、「安い、きつい、汚い」の三拍子の仕事と言われますが・・・どうでしょう。
知人に助産師の女性がいますが、仕事内容は同じような感じです。対象者が高齢者か障碍者か、生まれたばかりの子か。それだけの違いのように感じます。緊急で呼び出される回数は、助産師の方が圧倒的に多いです。
世の中にきつくない仕事はないでしょうし、それぞれの大変さがあるでしょう。
「安い」の基準も人それぞれです。介護士より安い月給で頑張っている職種もありますし、そもそもパートやアルバイトなど「正職員ではない」仕事を選ぶ人も増えています。
逆に、年収1,000万円稼ぐ人でも「お金が足りない」と思う人だっているでしょう。
このコロナ禍で、介護士、介護業界が「エッセンシャルワーク」(必要不可欠な仕事)として再認識、再評価されています。医療、警察、消防などと並んで、人が生きていくうえで欠かせない業界として認知されました。これを、明るい現状と言わずしてどうしましょう。
理由③:自分や家庭の事情に合わせた働き方ができる
我が家には毎月定期受診をして、毎日薬を飲まないと生きるのが難しい家族がいます。定期受診時の有給取得、調子が悪い時の早退や勤務変更等、職場の理解を頂いて随時取らせてもらっています。
また、私自身も腰の病気(脊柱管狭窄症、腰椎ヘルニア、坐骨神経痛の三点セットです)が出て以後は、身体介護業務からは離れてケアマネジャー専任で働かせてもらっています。
同じように、本人や家族の事情に合わせながら働いている人はたくさんいます。
他業界でもそういう風潮は良くなってきていると思いますが、介護・福祉業界は一味違って、事情を当たり前のこと理解した上で協力する風土があります。
普段高齢者や障碍者のお世話をするのが仕事ですので、身内にそういう人がいる家庭の苦労を、実感としてわかってくれる。
これは介護業界特有の良い点です。
介護士の「未来」は明るい
では、将来的に介護士、介護業界はどうなのか。私は、これも「明るい」と言い切れると思っています。それが証拠に、私は転職が何回かありますが、20年来介護業界で働いているのですから。その理由を、3つ挙げていきます。
理由①:介護士の仕事が無くなることはない
これは、今回のコロナ禍で改めて感じたことです。業績悪化等で閉鎖に追い込まれた事業所はあると思いますが、コロナだからという理由だけで、その地域から介護事業所が無くなることはありません。
業績悪化の理由も、コロナで急展開したというところは少なく、元々の悪化に追い風が吹いてしまったというところでしょう。
これは医療機関もそうですが、患者がいる限り病院は必要です。
同じように、高齢者や障碍者がいる限り、介護士の仕事が無くなることはありません。
他業界の被害が報道で出るたびに、介護業界の強さを感じますし、将来的に高齢者が増えるのは間違いのない事実ですので、介護士の必要性は今後さらに増します。
今後も、新しい細菌、異常気象による災害がきっと起こるだろうと思いますが、その度に介護業界の強さが増していくように感じています。
理由②:介護士は介護業界の基礎職種=多職種へのスキルアップ
他職種、ではなく多職種です。間違いではないですよ。
介護士は、介護業界の基礎職種です。介護福祉士はもちろん、初任者研修や昔のヘルパー○級制度、あるいは現在無資格の介護士でも、「利用者のお世話を直接する」大事な仕事であることに変わりはありません。
ずっと定年まで介護士一筋の人も当然いますが、介護士から様々な資格を取得して、介護業界の他の役割を目指す人も多くいます。
私の場合、介護福祉士、介護支援専門員、更新はしませんでしたが主任介護支援専門員、社会福祉主事、認知症実践者研修などの資格を取得しました。
資格以外でも、例えば介護タクシー運転手をするための研修、救急救命士研修、レクリエーションインストラクターの研修などなど。
やる気さえあれば、様々な資格や免許の取得ができるのが、介護士の利点です。
私はケアマネジャーを平成18年に取得しました。その後ケアマネ業務主体で仕事をしていますが、やはり基礎資格が「介護福祉士」のケアマネと、他の資格のケアマネでは、利用者に接する姿勢そのものが違います。
介護の資格、という観点からも、基礎資格が介護士であることは大きなメリットです。
介護業界ですから、介護のことが分からずにいろいろ資格を取ってスキルアップしても、基礎がしっかりしていないので話がかみ合わないことが多々あります。
介護士も年齢を重ねていきますので、どうしても身体がついてこなくなることがあります。その時のためにも資格取得、スキルアップをしておくことは重要ですし、そのための道が、介護業界は非常に整っています。
資格取得のための補助をしてくれる法人も増えてきましたし、制度的にも資格取得ありきの方向になっていますので、今後支援の幅は確実に広がります。
そういう意味で、介護業界の将来は明るいと考えるのです。
理由③:グローバル化=待遇改善方向なのは間違いない
もう1つ、今進んでいる大きな流れとして、「技能実習生」の存在があります。
私が勤める法人にも多数海外からの技能実習生が来ていますが、人手不足のカンフル剤として、あるいは各業界のグローバル化の一環として、海外から働き手を迎えるようになりました。
一部報道では、コロナ禍の影響で職を失った技能実習生が犯罪に走る、ということもあるようですが、正式には「来てもらってから無事帰国するまで」を支援する制度ですので、お金がないから帰れない、はずはない・・・んですよね。本当は。
こういう報道が流れると、「外国人は信用ならない」と感じる方が少なからず出ますので、そういう部分はきちんとしてもらいたいなと思います。
話が横道にそれましたが、技能実習生の存在は、介護現場に大きな影響を与えています。
例えば就業時間。9時から18時と決まっていれば、昼休み、始業、就業時間も非常にきちんと守られるようになってきています。
仕事内容でいえば、実習生が目の前にいますので、介護士に看護業務をさせるといった無茶ができません。内部に外部の目があるようなものですので、業務内容の明確化、マニュアルの見直しなど、働く内容自体の見直しも進んでいる法人が多いでしょう。
内部に外部の目があるようなもの、と書きましたが、技能実習生受け入れについて、第3者機関の介入が不可欠となっていますので、「その施設での常識」が一般常識と合わないといけません。法律的にもそうです。
結果的に、元々働いている人、転職してくる人も、適切な職場環境の恩恵を受けることができるようになっています。
まだ、始まったばかりの制度ですし、受け入れ側も試行錯誤の段階ですので、「うちは違う」という介護士の方も大勢いると思いますが、流れとしては間違いなく適正化の方向に進んでいます。
国を挙げて取り組んでいることですので、他業界の民間会社とは、そういう面で安心感が違います。昔の「働くなら公務員」のように、介護業界で働くことがスタンダードになってもおかしくないと思います。
私の5年、10年後のキャリア戦略
さて、以上のことを踏まえて、以前から私個人が考えていること。具体的には、5年後、10年後にこうなっていたい、というキャリア戦略について書きます。あくまで個人の例ですが、参考になれば幸いです。
5年後目指す姿
今私は、大まかにいえば50歳です。誤差はありますが、大体そんなもんです。5年後は55歳になります。もういい加減よいお年です。
5年後、このままいけば私は部署の長をやっているはずです。これは楽観的な思い込みではなく、これまでの経過と今の仕事内容を踏まえると、5年後というよりも1~2年の間に実現する責務のようなものです。
なので、長になったという前提で、その後の展望を記します。
以前から考えていたことですが、「今の待遇が本当に適切なのか」をまず確認します。
自分の給与も含めて、もっと絞り出すところがあるのではないか。基本報酬や加算等の金額と、「一般的にかかる経費」を照らし合わせると、もう一つ納得いかないところがあります。
長ともなれば会計関係にも携わることになりますので、そこを確認します。その上で、自分が管轄する部署から始めて、待遇改善を行います。
福祉=奉仕、の図式が、介護業界はどうしても強いので、経験がある人ほど給与面で表立って意見を出すことをためらいます。その風土を変えていきたいです。
働いた対価として賃金を得るのは悪いことではない、という基本を、所属する職員全員に普通に思ってもらえる部署にしたいと考えます。
これが、5年後に私が目指す姿です。
10年後目指す姿
では10年後はどうか。10年経つと、めでたく60歳となります。還暦です。
一昔前であれば、定年退職して余生をのんびり過ごすことが当たり前でしたし、できれば私もそうしたいと切望しますが、たぶん無理でしょう。
これは、介護業界だからダメというわけではなく、日本全体として、「お金がかかる高齢者の人たちにも、働ける人は働いて欲しい」という政府の熱烈な想いがありますので、今後加速すると思われます。
働かざる者食うべからず、というわけですね。ならばせっかくなので、自分の好きなことを好きなペースでやりたい。
60歳になった時点で、少なくとも毎日頭を悩ませるような業務からは離れられるようにします。具体的には、常勤ではなく非常勤体制にしてもらい、月15日程度の勤務に落とします。
その上で、余裕の出た時間で旅行に行きます。こう書くと身もふたもないようですが、介護業界で働いて一番「失敗したなぁ」と思ったのは、給与の安さではなく「連休が取りにくい」という点です。
結婚した年に6連休を頂いた他は、冠婚葬祭を含めて3連休が精いっぱい。しかも、毎年1~2回とれるかどうか、という程度です。
子供が小さい時は頑張って家族旅行にも行っていましたが、ある程度大きくなるとしんどさも手伝って、泊りがけの旅行には行ったことがありません。
同じような想いをしている介護業界の人は多いようで、研修等で話が弾むと、必ずと言ってよいほど「休みをもっと取りたい」類の話が出ます。
私個人の力で、いかに長の地位にあったとしてもこれを変えることは困難だと思うので、まずは自分が実践したい。
偉い人が実践すると、後に続く人たちが真似をしやすくなりますので、私が実践することで、連休が取りやすい風土ができれば・・・いいなぁ、という程度です。
最後がこれでは締まりがありませんが、介護業界だから!と肩肘張らなくても良いのではないか。
50代までは一生懸命頑張って、利用者や家族、働く職員のために尽くして、その後は自分のために時間を使いたい。
その時まで頑張ってくれていたら、連れ合いと二人旅なんて良いなぁと。
これが私の、10年後の展望になります。ごくごく普通な、とても小さな夢、と言ってもいいかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
私は敢えて、「明るい」をテーマにしました。頑張らないといけないことも多いですが、最終的には自分のために時間が使えるようにしたい。
これは介護業界だけではなく共通の思いかもしれませんが、それが普通にできる介護業界に持っていきたい。
幸い、時代の流れとしては追い風です。いろいろ大変な部分もまだありますが、悲観せずに前を向いて歩いていきたい。
それが結果的に、介護業界の未来を創ることになるのではないかと考えます。
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