現役理学療法士の深イイ話
インタビュー実施日:2020年4月20日
現役で働くリハビリ職のインタビューを通じ、医療介護従事者として働き続けるモチベーションの源泉に迫ります。周囲の考えに目を向けることで、この先にどうありたいか、自分の将来を考えるキッカケになれば幸いです。
幼少期に家族の死を体験し理学療法士となる。命と向き合うことの大切さ、重さを胸に活動を続けている。
「今できることをすぐに実践」をスローガンに目の前の患者さんと家族のように向き合うことを大切にする理学療法士。
経験をもとに、現在は病気や怪我を未然に防ぐための活動に尽力している。
理学療法士 沖田 直也さん
あなたにとって理学療法士とは?
一言でいうと、患者さんの生活を支えるパートナー。
患者さんと医療者という関係ではなく、一緒に怪我や病気から立ち直る友達という認識ですね。
入院される患者さんは「何らかの不安」を抱えています。理学療法士は「先生」と呼ばれることが多いのですが、実際は一緒に「現在の状況を乗り越えるパートナー」です。
いくら理学療法士の実力があっても「患者さんのやる気」を引き出すことができなければ決して改善の方向にもっていくことはできません。
怪我を治して今までの生活を取り戻すための良い踏み台になりたいという気持ちで仕事をしています。
私のざっくり変遷記(職務経歴概略)
- 2008年大学卒業大学卒業後、大学病院の理学療法士をとして勤務。治療技術の勉強会や難病患者を中心とした受け入れを積極的に行う。
- 2012年大学病院からクリニックへ転勤習得した治療技術を活かし「社会復帰」を目的としたリハビリを中心に行う。同時期、理学療法士となってはじめて「救うことのできない命」と向き合う。
- 2015年救急病棟の理学療法士として勤務命の重さを改めて実感し「目の前の命と真摯に向き合う」ため救急病棟の理学療法士として活動体制を変更。同時期に訪問リハビリテーションをスタート
- 2018年回復期病院へ転職大学病院、クリニック、訪問、救急で得た全ての知識と技術を武器に再び回復期の病院へ転職。役職として新人の教育、患者さんのニーズに合ったリハビリを提供している。
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私はこんな理学療法士です。

勤務しはじめた当初は「病気や怪我を治療し患者さんの目的を応援する医療職」と考えていましたが、現在は「患者さんを家族」だと思っていますね。
一言であらわすのは大変難しいのですが「より身近にいれる存在」でしょうか。常に患者さんを家族だと思って接することで「治療の内容」や「優先順位」が変わってきます。
仕事という意識で働くことはなくなり「最善を尽くしてやれることをやる理学療法士」という表現が最も適しているのかも知れません。
「病気や怪我をすると前向きになれない」ことは誰もが経験することなのではないでしょうか?その際に医療者として励ますのではなく、身近な一人の人間としてサポートをすることを何よりも大切にしています。
リハビリに積極的になれない日、どうしても食事が満足にとれない日、社会復帰への恐怖や悩みから眠れない日もあります。
その時、最も近くにいることのできる存在である医療スタッフが「なんでも相談できる身近な存在」にいることで救われる方はたくさんいるのです。
患者さんに対して怒る時もあれば一緒に涙する日もある、まさに患者さんにとって家族のような存在なのではないでしょうか。

どのようなことをキッカケに理学療法士になったのでしょうか?
理学療法士を目指したキッカケは家族の死でした。
当時、まだ小学生だった私には到底抱えることのできない父の死。
救急病院に運ばれ一命をとりとめたものの「目を開けるのがやっと」の危篤状態でしたね。
幼いながら「もうパパとはお別れなのかな」と悟りました。
泣きじゃくる私に優しく声をかけてくれたのが「現場で勤務する理学療法士」でした。
「きっと良くなるから大丈夫だ!」たった一言と思われるかもしれませんが、今でも思い出す日があるくらい心強い言葉でしたね。
3日後旅立ってしまったのですが、見込みがない状態でも必死に父の手足を動かしてくれる理学療法士さんには感謝の気持ちしかありません。
その時「心に寄り添うことのできる理学療法士になる!」と決めました。
理学療法士という職を知ったのも目指したのも早い段階であっただけに医療に関する知識やリハビリへの興味は人一倍ある子どもでしたね。
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他にも、やり甲斐や誇りを持って働く人がいます

理学療法士になって良かったこと、やり甲斐は何ですか?

やはり「患者さんの笑顔を見ること」ですね。
「ありがとう」、「いてくれてよかった」この2つの言葉には弱いです。当時の自分を見ているみたいで恥ずかしながら現場で涙が止まらなくなる日もあります。
どんな状態であったとしても「前向きに一緒にリハビリをする」その姿を側でみられること、そして関わることができていること自体、大きなやりがいです。
もちろん「患者さんと寄り添う気持ち」だけでは怪我や病気を治すことはできないので、終わりのない勉強をする日々も私にとっては生き甲斐ですね。
今後も「患者さんの笑顔」を引き出すことのできる理学療法士でいたいです。

印象に残っているご経験はどのようなことですか?
正直、担当した患者さんの顔と名前は全員いえるほど熱意を込めてリハビリをしてきたのでエピソードを選ぶことはできないですが、前述した救うことのできなかった命と向き合った経験は一生忘れることはないでしょう。
理学療法士となって5年目でしたが「難病で余命3カ月の8歳の子ども」を担当しました。
普通にリハビリをするのも辛いはずなのにいつも私にこういうのです。
「先生、僕は元気だよ!ほら、手あったかいでしょ?今日も生きることができるのは先生たちのおかげだよ?ありがとう」
命と向き合うことの意味、そして理学療法士である私がいる意味を改めて勉強することができました。
ドラマでしか見たことなかった光景が自分の目の前で起こり「どうにか救うことはできないか」、「理学療法士として今できることはなんなのか」毎日そればかり考えていましたね。
大人であっても挨拶するのが辛いくらいの状態です。幼いながらまるで自分の運命を受け入れているかのような、そしてスタッフを元気づけるかのような彼の言動に対して満足に向き合うことができない自分に嫌気がさしたのも鮮明に覚えています。
「理学療法士は一人の命と向き合う職業」であるのだから、もっとプロ意識をもって頑張ろうと決意し、現在にいたるまでその想いは忘れていません。

仕事に就かれた当初苦労されたことなどありましたらお願いします。
入社1年目は「先輩の技術を盗む」そして「とにかく患者さん、スタッフと良い関係を保とう」と必死でしたね。
目の前も患者さんを治療することよりも「周りからどう思われるのか」を気にしていた一人なのかもしれません。
先輩スタッフに「意識が低い」と怒られて一人で夜な夜な泣いた日もありました。
今となって思えば「誰もが通る道」だと分かっているので後輩スタッフ、新人スタッフには寄り添う気持ちを忘れないよう指導しています。
技術がないのは当たり前なので「患者さんに寄り添う心は誰にも負けないぞ」という気持ちで
リハビリをしていましたね。
患者さんとのコミュニケショーンは理学療法士として絶対に必要なスキルの1つですが、簡単なようで簡単ではないのだなと痛感したのも新人の時でしたね。
先輩スタッフにアドバイスをもらったり、時には夜中まで練習に付き合ってもらったりと向上心はあった新人だったかなと思います。

日頃から大切になさっていることはなんですか?
これは習慣ですが「常に前向きに生きる」ことです。
理学療法士は職業柄「マイナスな気分になること」が多いと思われがちなのですが「プラスの感情を呼び起こすキッカケをつくる」ことのできる職業であると思っています。
患者さんの治療をおこなうスタッフが「疲れた様子」や「気分の落ち込み」を見せてはいけないのではないかという考えは常に持っていますね。
当然、人間ですから気分が落ち込む日もあります。でも、患者さんの前では「どんな時でも明るく振る舞う」その姿勢を大事にしています。
勤務場所にもよりますが、ご高齢の方が多い場所であれば表情に出さないようにしていても「なんか悩みでもあるのか?」と見抜かれてしまうこともあるんですけどね。
そんな時でも「一番辛いのは患者さん」であることに変わりはないのですから決して弱音は吐かないようにしています。
前向きに生きる重要性は理解していても、実践するのはなかなかハードルが高いです。現在では習慣となりましたが、習慣化させるまでは「マイナス思考にならないようマインドセット」していたので大変でした。

今後やりたい事や目標などありますか?
理学療法士として勤務して12年、命の重さや自分の存在意義など大変多くのことを学ばせていただきました。
現在の夢は「病気や怪我に苦しむ方を一人でも減らすこと」です。
NPO活動の一環として、地域に密着して生活習慣病の予防の重要性を訴える活動をしています。
病院へ入院、通院する方を一人でも多く減らし健康的な毎日を送ることができるようサポートをする理学療法士となって医療体制を変えたいですね。
目標を達成するためには、一人では限界があるので多くの医療スタッフの協力が必要であると考えています。
現在、チームを組み目標に向けて活動中です。

同じ理学療法士として働く方へメッセージをお願いします。

理学療法士の仕事に「決まったルールや正解」はありません。
あなたの経験や知識、技術を活かし目の前の患者さんと真摯に向き合うことで「あなたなりの理学療法士像」ができると思います。
今、できることに最善を尽くすことを大切にして日々の努力を怠らないでください。
病気や怪我に苦しむ方の健康を取り戻すという本当の意味でのリハビリテーションを実現させましょう!
あなたの行動が周りを感化し医療を発展させていきます。手段は違いますが目的は同じはず。
私たちの勉強に終わりはありません。命ある限り手と手を取り合い、最善を尽くしましょう。