
病院から転職してデイサービスで働き出したけど、1人で担当する利用者の数が多くて大変。評価もしたいけど、全員に手厚くは行えないし、どの程度まで介入すれば良いか分からない。症例に応じて手軽に評価があれば教えてほしい。
近年デイサービスで働く理学療法士が増えています。回復期や急性期の理学療法以上に自宅での生活を意識した理学療法が求められます。職員の配置人数も決まっており、1人で沢山の利用者を担当する必要があるのです。
その為、集団体操や並行して理学療法をする事もあるでしょう。
理学療法は効果を確認する為、定期的な評価が必要です。しかし多忙さ故に手厚く評価が出来ない現状があります。今回は実際の症例に対してどのような評価を行い、介入を行ったのかを紹介していきます。
- 身体面全般、体力、バランス、認知の評価を紹介
- 定期的に評価を行い、理学療法の効果をみよう
- 利用者の目標を決めて、デイサービスで出来る事を定める
デイサービスのベストな機能訓練評価とは?
デイサービスでは理学療法だけでなく、トイレや食事介助、送迎等の業務も関わります。整形分野では特定の関節や筋肉の詳細な評価が求められますが、デイサービスではそんな時間は殆どないでしょう。
この項目では機能訓練評価を説明した後、実際の症例のbeforeとafterを紹介していきます。簡易的かつ再現性が高いものを集めましたので、他職種にも評価をお願い出来るかもしれません。
ケース①:筋力や体力、歩行等を包括的に評価したい場合
評価の紹介
筋力や体力、歩行能力等を幅広く評価したい場合は運動機能向上加算で用いられる評価が有用です。評価項目は厚労省により定められており、
- 握力→全身の筋力
- 閉眼片足立ち→バランス能力 下肢筋力
- TUG(Timed Up & Go Test)→下肢筋力、バランス,歩行能力、易転倒性等
- 5m歩行(通常と最大歩行速度)※10m歩行でも可→歩行速度 易転倒性
4つが定められています。
運動機能向上加算は要支援者が対象です。利用開始時に評価を通じて運動機能を把握し、概ね3ヶ月毎に評価が必要です。能力的に出来ない場合は、その旨を記載しましょう。
評価の介入ポイント
TUG、歩行テストはカットオフ値が定められています。
- TUG:13.5秒で転倒リスクが高くなる
- 更に30秒以上で起居動作等に介助が必要になる
- 5m歩行:5秒以上だと横断歩道が渡りきれない
- 6.2秒以上だと転倒リスクが高くなる
カットオフ値が全てではないものの、転倒リスクが高い事は職員や家族に伝えた方が良いでしょう。
これらの評価を継続的に行う事で、筋力や体力の変化を見る事が可能です。更に実施前後の疲労感や、歩行中のふらつき等も確認しておきましょう。
症例紹介
利用者情報 | Aさん 77歳 男性 身長160cm 体重 42kg |
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健康状態 | 胃癌による胃部分摘出で数ヶ月入院 BMIは16.4。適正体重は56.3kgと痩せ気味 |
心身機能・構造 | 胃摘出による食欲低下(アルブミン値 3.3) 廃用に伴う筋力や体力低下 |
活動 | 20m程の歩行で疲労感あり、歩行器を使用 起居動作や立ち上がりは1人で可 典型的廃用だった為、筋力体力の向上により、能力の改善が望まれた |
参加 | 自宅内は段差がある他、玄関30cmの段差あり昇降困難 |
個人因子 | 認知の低下はなく、意欲的 食事量を増やす必要性等も理解している |
要介護1の判定であったものの、評価の有用性が高いと判断。初回利用時に運動機能評価を実施しました。
初回評価(before)
- 握力 右 14kg 左 11kg
- 片足立ち 測定不可
- TUG 18,5秒(歩行器)
- 5m歩行 8.69秒(歩行器)
各評価実施後は疲労感と息切れが見られた他、TUGと5m歩行ではカットオフ値を下回っています。
理学療法では体調に合わせたマシンや集団体操を実施。更に栄養補助食品の摂取を行い、アルブミン値の改善を図りました。数ヶ月後にはアルブミン値が標準の4.0を上回り、食事量も増加しています。
筋力体力は更に向上し、運動量も増加し、歩行器がなくても歩行可能となりました。
半年後(after)
- 初回評価では 体重45.6kg
- 握力 右 22kg 左 20kg
- 片足立ち 右 46秒 左 36秒
- TUG 7,5秒(独歩)
- 5m歩行 3.25秒(独歩)
身体機能の向上が評価にも現れています。カットオフ値を上回り、転倒リスクは少ないと判断されました。疲労は少なくなり、車での外出も行えるようになった為、間も無く利用を卒業しています。
ケース②:長距離歩行の評価や、心機能や呼吸器の評価をしたい場合
評価の紹介
体力や心機能を評価するには6分間歩行テストが有用です。方法として平坦な30mの直線コースで実施し、1分毎に体調の有無を確認します。6分経過した後に血圧や脈拍、疲労感(borg scale)を評価します。
コースはデイサービスの規模もある為、臨機応変に対応しましょう。
評価の介入ポイント
評価点は歩行距離と実施後の疲労感です。
- 慢性心不全の場合は240m
- 慢性閉塞性肺疾患の場合は370m
上記がカットオフ値です。それを下回る場合予後は悪くなります。なお片麻痺等の影響で歩行速度が低下している場合はその限りではなく、息切れの度合いを見ましょう。
リハビリの効果があると歩行距離も優位に改善するとされています。
- 慢性心不全の場合45m、
- 慢性閉塞性肺疾患の場合は70m
上記のように向上すれば、リハビリの効果があったと判断されます。
なお、テストとバイタル確認を合わせると合計で10分程かかります。時間との戦いであるデイサービスでは10分は大きく、対象者を絞るか、他職種との協力が必要でしょう。
症例紹介
利用者情報 | Bさん 90歳 男性 身長163cm 体重 43kg |
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健康状態 | 慢性心不全で1ヶ月入院(リハ実施) 左心房不全により起座呼吸が見られる 過去に左被殻出血あるも後遺症なし |
心身機能・構造 | 廃用に伴う筋力や体力低下 SpO2は93~96% |
活動 | 起居動作や立ち上がりは1人で可 歩行は独歩で見守りで可。疲労によるふらつきあり |
参加 | 心不全発症前から自宅で閉じこもりがち |
環境因子 | 自宅はアパートの1階。妻と2人暮らし |
個人因子 | 軽度認知症があり、薬の飲み忘れあり |
入院中に心臓リハをしており、筋力体力共に改善傾向にありました。能力的にも6分間歩行が実施可能と判断しました。
初回評価(before)
- 歩行前 バイタル 血圧112/76 脈拍78
- 歩行後 バイタル 血圧132/72 脈拍109
- 歩行距離 180m 3分頃に1分程休憩。
歩行距離は180mとカットオフ値を下回り、脈拍は20程上昇。まだ体力は十分とは言えません。
リハビリではペダルや歩行等の有酸素運動を実施。歩行練習は3分に1回休憩を挟み、回復すれば歩行を再開しています。このプログラムは介護士にも協力をお願いしました。
3ヵ月後(after)
- 歩行前 バイタル 血圧125/71 脈拍70
- 歩行後 バイタル 血圧138/66 脈拍85
- 歩行距離 290m 5分時点で1分程休憩
歩行距離は110m上昇した他、脈拍も前よりも大きな変動ありません。歩行後の疲労感も軽減し、自宅でも動く機会が増えていました。
この時点で外出はまだしていなかったのですが、この後のリハビリは外出を想定したメニューも取り入れていました。
ケース③:認知症が疑われる場合
認知症の評価としてよく使われるのはHDS-R、次いでMMSEです。
認知症の評価その①:HDS-R
正式には長谷川式簡易知能評価スケールであり、長谷川式とも呼ばれます。
設問は以下の通りです。
- 年齢 日付 場所:自己と日時と場所の見当識
- 3つの言葉:記銘力と遅延再生
- 計算 :知的能力
- 数字の逆唱 :記憶力と記銘力
- 5つの品物:注意力と集中力
となっています。カットオフ値は20点でそれを下回ると認知症の可能性が示唆されます。
認知症の評価その②:MMSE(カットオフ値は21点以下)
正式にはミニメンタルステート検査ですが、MMSEと呼ばれる事が多いですね。MMSEではHDS-Rで行われる評価の他に、以下の評価も兼ねています。
- 文字を読んで指示通りの動作を行う感覚性言語能力
- 文字を書く為の運動性言語能力
- 図形の模写による構成失行や失認等
その代わりHDS-RよりもMMSEは測定時間が長くなりがちなので、現場ではHDS-Rがよく使われているでしょうか。
HDS-Rは30点の中で即時記憶が3点、短期記憶6点と記憶に関する項目が多いです。その為、記憶障害が起きやすいアルツハイマー型認知症で点数が低くなります。
MMSEは30点の中で即時記憶が3点、短期記憶が3点となっています。その代わり言語機能や空間認知機能等も評価出来るので、脳血管型認知症で点数が低くなります。
評価するケースは何の認知症なのか、そして日常生活で言葉が通じなくなっている等の症状に合わせてテストを選びましょう。全体の点数だけでなく、どの項目が低いのかを確認するのがポイントです。
症例紹介
利用者情報 | Cさん 83歳 女性 要介護1 |
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健康状態 | アルツハイマー型認知症(数年前から) 高血圧や高脂血症 |
心身機能・構造 | 身体機能はほぼ自立 要介護1判定はあるものの、介護保険更新の時期に体調を崩していた為 |
活動 | 基本動作は自立 |
参加 | 買い物に行くが、1日に2回間違えて行く事がある |
環境因子 | 自宅は段差が多いが動作に問題なし |
個人因子 | 夫は他界し独居。娘は県外にいる 話好きで見た目では認知症とはわかりにくい |
当ケースは身体面に特に問題はなく、認知症に伴う在宅生活への支障が問題でした。1日に何度も買い物に行く他、娘に電話を何度もかける等の症状があり、認知症が進行すれば火事等を引き起こすかもしれません。
当ケースでは認知症の評価としてHDS-RとMMSEの両方を測定しています。
初回評価(before)
- HDS-R
- 21点
- 減点項目
- 日付で−3点、数字の逆唱−1点 短期記憶−4点
- MMSE
- 23点
- 減点項目
- 減点項目 日付 −2点 逆唱−2点、短期記憶−3点
点数としては双方共にカットオフ値を上回っているものの、見当識短期記憶に点数の低下がみられます。なお文字を読んで理解する感覚性言語能力は保たれている事が分かります。
当ケースでは利用時に他利用者のコミュニケーションの他、自宅の環境整備が大事と考えました。
- 玄関の下駄箱に外出した事をチェックするノートを用意
- 更に扉の前に「出かけた時にノートをチェック、出かける前にもノートをチェックする」と張り紙を貼る
短期記憶は低下しているものの、繰り返し声かけをすれば記憶として認識出来ていきました。時々ノートを持参してもらうと記載した形跡もあり、習慣化されていました。リハビリでは作業活動や計算プリント、歩行中の二重課題等を行っていました。
3ヶ月後(after)
- HDS-R
- 20点
- 減点項目
- 日付で−3点、数字の逆唱−1点
- 計算で-1点 短期記憶−4点
- MMSE
- 24点
- 減点項目 日付 −2点 逆唱−1点、短期記憶−3点
点数的には大きな変化はありませんでした。しかしノートを見るという習慣は定着した事で、買い物に何度も行く事はなくなりました。点数だけが全てではない事が分かると思います。
ケース④:より評価を簡略化したい場合
上記の3つの評価はやはり時間がかかります。簡略化したい場合はロコモ度テストの項目の1つ、立ち上がりテストが有用です。
立ち上がりテスト
10cm 20cm 30cm 40cmの台から片脚、もしくは両脚で反動をつけずに立ち上がりを行う。片脚で立ち上がりをする場合、立ち上がり後に3秒保持する。
カットオフ値は、
- 60~69歳だと男女共に片脚のみで40cmの高さ
- 70~79歳だと両脚で10cmの高さ
から立ち上がれる。となっています。
しかし、高齢者はバランス能力が低下している為、片脚での評価は無理に行う必要はありません。個人的には両足で10cmの高さから立ち上がれたら十分だと考えます。
カットオフ値は明らかな運動器疾患を持たない場合のです。出来ないから筋力がないと決めつけるのではなく、疾患の影響も考慮しましょう。
本来こちらのテストはロコモ度テストの1つであり、他に2ステップテストと25問のアンケートを持って運動能力を判断します。しかしデイサービスでは評価を十分にする時間がないケースもあるので、簡易的に筋力を確認していると考えて下さい。
また骨盤の前傾や足の位置により本来出来る筋力がありながら出来ないケースもあるので、セッティングは重要です。
症例紹介
こちらの方は先程の認知症評価の項目で紹介した方です。
今回のケースでは認知症の評価を重点的に行った為に運動機能まで評価をするのが難しかった、身体機能は自立していたので簡易的に筋力をみるだけで充分と判断した為です。
利用者情報 | Cさん 83歳 女性 要介護1 |
---|---|
健康状態 | アルツハイマー型認知症(数年前から) 高血圧や高脂血症 |
心身機能・構造 | 身体機能はほぼ自立 要介護1判定はあるものの、介護保険更新の時期に体調を崩していた為 |
活動 | 基本動作は自立 |
参加 | 買い物に行くが、1日に2回間違えて行く事がある |
環境因子 | 自宅は段差が多いが動作に問題なし |
個人因子 | 夫は他界し独居。娘は県外にいる 話好きで見た目では認知症とはわかりにくい |
初回評価(before)
- 10cmの高さから両足で立ち上がり可
80代と言う年齢ですが、70代の筋力は保たれていると判断可能です。通所のフロア内も歩行は独歩で自立していました。
このケースではリハビリは認知面への介入がメインだった為、運動面のリハビリはあまり行っていません。しかし当施設では集団体操を1日2回行う機会がある為、そちらで運動を賄っていました。
3ヶ月後(after)
- 10cmの高さから両足で立ち上がり可
3ヶ月後も数値に大きな変化は見られていません。ただこのケースにおいても10cmの高さから立ち上がれなくなった場合、運動面での介入が必要になるでしょう。
定期的に評価をする事で、転倒リスクを予知する事が出来るのです。
デイサービスにおける機能訓練評価の注意点
各評価の概要やどのような利用者に介入すれば良いかを説明しました。全ての評価を行う事は出来ませんので、利用者のニーズや問題点に合わせて実施する事になります。続いてこれらの評価をする上で注意する事について紹介していきます。
注意点①:評価自体が目的にならないようにする
デイサービスの理学療法士はとにかく多忙です。計画書を作成する上で「とりあえず評価をする」となるのは勿体ないです。
評価をするのは自宅や通所等の生活の中に影響がないかを確認する為です。
例えばHDS-Rの数値が低下した場合に、外出頻度が減っていないか、買い物で間違いがないか等を確認出来ると良いですね。
注意点②:なるべく同じ手順、同じ条件で行う
186文字
時間に追われて評価をすると、その前とは異なる方法となるかもしれません。例えばHDS-Rだと静かな環境と、賑やかな環境だと結果が変わります。
他職種や他のリハ職が評価をする場合を考慮し、マニュアルで手順、条件を統一しましょう。
更にTUGでは杖を使用したか、握力測定の目盛りを記載する等、補足も記載しておきます。評価を常に同じ人がするとは限らない為です。再現性を高める事が評価では重要です。
よくある悩み
デイサービスに転職すると、病院とは異なる環境と制度の中で戸惑う事も多いのではないでしょうか?また機能訓練特化型、認知症デイサービス等、形態により利用者層も異なる為、実施する評価も考えていく必要がありますね。
ここではデイサービス特有の悩みについて回答していきます。
Q.機能訓練特化型のデイサービスで働いています。優先順位をつけ評価すべきなのか、全員すべきなのか?
A.リハビリがメインのデイなので可能なら効果判断の為に全員評価をすべきです。利用者全員に評価をするとしても1人につき3ヶ月に1回が目安な為、毎日評価にあけくれる事はありません。
それでも忙しいとは思うので、例えば運動機能向上加算の評価ではTUGと握力を優先する等して項目を減らす、他職種に評価をお願い出来るようマニュアルを作成する等の対策はいかがでしょうか。
Q.機能が違うデイサービスによって、評価の範囲は異なるのでしょうか?
A.評価の範囲はデイサービスの形態ではなく、利用者のニーズや主病名により異なります。
例えば認知症デイサービスには認知症の利用者が利用している為、認知面の評価は必須です。その中には足腰の低下から転倒リスクが高い人もいるでしょう。
その為認知面の評価+簡易的にTUGや握力だけ測定する等、メインの評価に加えて補足で必要な評価をするのが良いでしょう。
Q.デイサービスに来る前の情報はなく、何から始めるべきなのでしょうか?
A.脳梗塞の部位等、聞きたい情報がある場合、最初は家族やケアマネから確認です。
ケアマネは以前関わっている場合、情報を知っているケースもあります。直近の疾患だと受診の際に医師への確認事項をメモ書きにして、家族に渡す方法もあります。
それでも情報がない場合は、上記の必要な評価を行い、推測していくしかありません。デイサービスは医師が常駐しておらず、他職種同士で情報を探っていきましょう。
Q.介護職と評価を共有したいのですが、何か良い方法はありますか?
A.評価の数値をみても、それが何を意味するのか分からないといけません。
まずは評価の意義(何を見るか)、方法、カットオフ値を書面にして他職種と共有しましょう。マニュアル作成は最初は大変ですが、評価の統一性を高める上でも有用です。
その上で評価の結果、低下や病気の進行がみられたケースを朝礼や連絡ノートで報告し、リスクについて伝えていきましょう。
まとめ
今回はデイサービスで有用な評価とその注意点、デイサービスならではの質問と回答について紹介しました。
理学療法とは運動や主義を行うだけでなく、その効果を評価して軌道修正や生活の中に活かしていく事が大事です。デイサービスでもその指針は変わりありませんが、時間に追われるのも事実です。
出来る評価を優先し、他職種と連携する等して、しっかりと効果を確認していきたいですね。
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