
通所リハの利用者から1日の利用時間が長いと相談を受ける。利用を短時間にして自宅での役割を増やしていきたいが、家族の意向や施設の運営の問題もあり、なかなかうまくいかない。理学療法士が出来る事はなんだろうか。
2018年度から通所リハは4時間以上の利用は大幅減算となりました。政府は通所リハを短時間化の方向になるよう促していますが、H29年度の報告によると利用時間は6~8時間が最も多く、短時間化の推進には至っていません。
何故導入が難しいのか、そもそも導入を勧めていく必要があるのか、利用者や家族のニーズや施設運営のあり方から考えてみましょう。
- 通所リハにおける短時間利用のメリット
- 通所リハにおける短時間利用の難しさ
- 短時間利用を進める上で必要な指導はあるのか
- 短時間利用がサービス導入のきっかけになる
- 短時間利用は選択肢の1つ。決めるのは利用者
問題点はニーズの多様化にある
通所リハは理学療法士等のリハ職を主体にリハビリを受ける事が出来るサービスです。通所リハの短時間利用が定着しにくいのは、ニーズの多様化にあると考えられます。
利用者や家族のニーズはリハビリだけではありません。入浴や食事等の提供、胃瘻等の医療行為、多利用者との会話等、多岐に渡ります。これらの支援は通所介護でも可能ですが、通所リハには専任のリハ職が在籍しています。専門的なリハビリを希望し、通所リハを希望するケースも多いです。
短時間利用も1日利用も利用者のニーズの1つです。私達は短時間利用を推し進めるのではなく、その利用者に合ったサービスを提供する事が求められます。必要に応じて利用時間の提案をしていく事が大切です。
通所リハに在籍する理学療法士は利用者に合わせた、多種多様な理学療法的アプローチが求められています。今回は2つの症例を通じて、短時間利用と1日利用の違いが利用者に与える影響と、通所リハにおけるニーズの多様性について考えていきましょう。
具体的な症例(1)短時間利用に変更したケース
まず最初に、目眩と身体機能が改善し、家事をする為に短時間利用に変更したケースについてご紹介します。
評価
基本情報 |
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健康状態 |
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心身機能・構造 |
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活動 |
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参加 |
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環境因子 |
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個人因子 |
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心身機能的に問題はなく、以前は積極的に外出していましたが、突発的に目眩が起こる事で、活動量も低下していったケースです。
リハビリの狙いは脊柱管狭窄症の症状を緩和し、再び以前のように買い物に行けるようになる事でした。
目眩は当初、原因が不明であった為、まずは主治医の意見や本人の生活習慣からアプローチを探る事になりました。
当ケースの身体的な問題点は、めまいによる転倒等のリスクと、脊柱管狭窄症による痺れ、下肢体幹の筋力低下が挙げられます。二次障害として筋力や体力の更なる低下を招いており、目眩とは別の意味での転倒リスクも考えられました。
なぜ短時間利用を選択したのか
当ケースは当初1日利用で、入浴や食事の提供もしていました。後に短時間利用を選択したのは、能力の改善が見られたからです。
利用時に臥床時に歯ぎしりをしていたという情報があり、マウスピースを作成。歯ぎしりが三半規管に影響を与えていたようで、徐々に目眩は治っていきました。
目眩の改善に伴い、スーパーの安売りにも行きたいと要望があり、1日利用(6~7時間)から短時間利用(1~2時間)の要望がありました。
長女からは自宅で転倒したら不安なので、今まで通り1日利用が良いと意向を受けました。しかし本人の短時間利用のニーズが強かった為、ケアマネから家族に短時間利用の打診をお願いしています。結果的に短時間利用でも問題はないとの返答をいただきました。
解決策
①自宅内やスーパーまで安全に出来るよう歩行指導をする
脊柱管狭窄症について長距離歩行は下肢の痺れや腰痛を引き起こします。背中を丸める事で狭窄が改善する為、疲れた際に背中を丸めるよう指導をしました。
更に歩行器をレンタルし、転倒の軽減や背中を丸めて歩行出来る手段を選択しました。
②筋力体力の向上を図り、転倒リスクを軽減させる
当ケースは脊柱管狭窄症と目眩の為、活動量が低下していました。筋力体力が低下していた為、エルゴメーターや錘を使用した下肢筋力強化運動を行いました。
③目眩をコントロールしながら、家事を定着させる
入浴でのぼせないよう、お湯をぬるめにするよう指導しています。また急に動作をすると目眩を誘発する為、起き上がり時や立ち上がる際にゆっくりと動作を行うようにも伝えました。
これらのリハビリや動作指導を行い、1日利用から短時間利用に時間を変更。現在は1時間半の利用の中で、リハビリや利用者との関わりを持ちながら、帰宅後は買い物や家事に取り組む等、忙しい毎日を送っています。
具体的な症例(2)短時間利用から1日利用に移行したケース
次に、通所リハによる社会との関わりが必要と考え、1日利用に移行したケースについてご紹介します。
評価
基本情報 |
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健康状態 |
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心身機能・構造 |
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活動 |
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参加 |
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環境因子 |
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個人因子 |
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当ケースは身体機能に問題はありませんでした。認知面の低下から自宅では散歩後に帰れなくなり、家族に探してもらう等の行動がありました。
本人は通所系サービスに消極的でしたが、知人が来所している為利用開始しています。利用当初は「なんで来たんやろ」と話す等、乗り気ではありませんでした。
家族の負担は高く、一刻も早くサービスが定着して欲しいと話がありました。
リハビリの狙いは同じメニューを同じ時間に提供し、生活リズムをつける事でした。マシントレーニングでは負荷量や数値を毎回記録し、徐々に改善している様子を視覚的に伝えて、成功体験を持っていただけるよう配慮しています。
なぜ1日利用を選択したのか
今回のケースは当初は短時間利用にて利用を開始。半年が経ち慣れた頃に1日利用に変更しています。あえて最初は負担の少ない短時間利用を選択し、長期的にサービスを利用してもらう狙いがありました。
解決策
①作業活動や二重課題の実施
リハビリではマシンの実施と、プリントや日記等の作業活動を実施。プリントはあまり意欲はありませんでしたが、接待で麻雀をしていた事が分かり、職員が仲介に入る形で麻雀を実施。思考する点で、立派なリハビリだと考えました。
徐々に認知面が低下するにつれ、歩行が注意散漫な事も増えました。その為、歩行時に計算や野菜の名前を発する等の二重課題等のメニューを追加しています。
②本人が行きたくなるよう配慮を行う
利用が定着するまでは知人を先に迎えにいき、本人が行きたくなるよう配慮をしています。また長女に当日の朝に本人宅に来ていただき、当日の準備をお願いしました。
③1日利用に伴い、社会との関わりが増える配慮を行う
利用から半年が経過した頃には、利用にも慣れていた為、短時間利用から1日利用に変更。麻雀を通じ、会話をする頻度が増えた他、当施設では午後からレクを行いますが、身体機能は高い為、成績は良く成功体験にも繋がっていました。
当ケースにおいては社会との関わりを持つ意味では短時間利用より、1日利用の方が本人には合っていると思います。元々通所介護向きの人とは言え、知人がいたからこそ、サービスの利用に繋がったとも言えます。
通所リハに在籍していると、理学療法士として勤務していても認知面へのアプローチが必要な事は多々あります。他にも嚥下等の分野にも関わる必要があり、広い視点でアプローチが必要になりますね。
まとめ
通所リハの短時間利用の推進は、利用者の確保や送迎範囲の問題等、課題は山積しています。利用者と家族のニーズが多様化し、短時間利用は選択肢の1つに収まっているのが現状です。
ただ短時間利用が卒業の足がかりになる場合もあれば、サービス導入のきっかけになる場合もあるので、無理に推進する必要はないと私は思います。ニーズに合わせた柔軟な対応が一番大切です。
その代わり短時間利用の要望がある場合は、是非とも理学療法士の視点から在宅生活を想定して、成功させて欲しいです。外出や自宅での役割等、その人に合わせた対応が求められます。
導入に成功すればケアマネも卒業や短時間利用希望者を紹介してくれるでしょう。ニーズを達成する事が短時間利用の定着のきっかけになると思います。
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