急速なガン病状の進行。理学療法士として何をすべきだったのか

リハビリセラピストの働き方を考える
※画像はイメージです。
ガン患者さんのリハビリに携わるPT
ガン患者さんのリハビリに携わるPT

ガンに対する知識が乏しい。ガンリハに携わってから数か月、その介入の難しさを痛感している。今後、どのようにガンという疾患に向き合えば良いのだろうか。

ガンは進行性の疾患です。ガンの大きさは進行の程度によって手術が適応にならない場合、抗がん剤や放射線治療が選択され、それも難しい場合には緩和ケア主体の療養となります。

ガンの進行を止めたり、遅らせたりする治療ができない場合の個人差はあるものの遅かれ早かれ病状が進行します。ガンリハではガンの進行に遅れないように介入していくことが重要です。

思っている以上に、ガンの進行が早い場合もあります。そんなとき理学療法士として何ができるのか苦悩することがあります。今回は過去の経験をもとに急速な病状の悪化に対してどうすべきか考えていきます。

記事のテーマ
  1. ガンリハの症例紹介
  2. 病状の変化を読み取る難しさ
  3. ガンの合併症に対する施術の限界

質問があれば気軽にコメントください

早期に病状の変化に気づけなかった後悔

早期に病状の変化に気づけなかった後悔

ガンリハの担当になって経験の浅い頃でした。ガンという疾患に対する理解度が低かった私はガンの進行がこれほど早いものだと思っていませんでした。

進行性の疾患であるということを知識としては持っているのですが、いざ患者さんへの介入が始まると、もっと意識していなければならないことだったと反省しました。いかに症例の紹介と介入が難しいか解説します。

症例紹介:70歳代女性、肝臓癌、胸椎骨転移

60歳の定年退職までバリバリ働き、定年後は旅行や登山を楽しみに生活する活動的な女性でした。肝硬変の既往があり腹水が溜まったことで病院を受診。検査の結果肝臓癌が判明しました。

入院当初は、腹水で体が重たいことと全身倦怠感はあったものの、自分で起き上がることができ、シルバーカーを使用して見守りで歩行可能でした。排泄はポータブルトイレで、自己で行えるほどの動作能力がありました。

過去に肝硬変による腹水で入院した経験があり、そのときと似たような症状であったため患者さんは腹水が引けばまた元どおりの生活になると思っていました。

リハビリ中も「早く良くなって登山に行きたい。トレーニングしないと登山シーズンに間に合わない。友達とどの山に登るか計画も立てているからそれまでに動けるようになりたい。」と強い意気込みでした。

そのため、リハビリにも積極的に取り組んでいました。入院して2週間ほどが立ったこと背中の痛みを訴えるようになりました。レントゲンとCTの結果、胸椎に骨転移があることが判明しました。

その後は、背中の痛みと腹水と全身倦怠感に苦しむようになり、徐々に動作能力は低下しました。胸椎骨転移から下肢の麻痺も出現してしまい、シルバーカーで歩行することは困難になりました。

その後は、日に日に体力は落ちリハビリはベッド上で行うことが増えました。最終的には自宅復帰は叶わず病院で亡くなられました。

入院してから1ヶ月半くらいで最後を迎えました。病状の変化についていけず、もっとできることがあったのではと未熟さを感じた症例です。

ガンリハ介入の難しさ

上記のように入院時は安定していても病状が急降下することがあります。ガン患者さんの最後は2ヶ月前くらいから緩やかに低下し、亡くなる2週間ほど前で急激に病状が悪化します。

そのため、リハビリ介入当初から2週間後は今の状態よりも動けない状態になっていることを意識して介入しなければなりません。

セラピストが意識して介入できていないとリハビリを行なっていても、どこを目指しているのかわからないため目標が設定しにくくなります。患者さんも入院時はそれなりに歩けたり、動けたりするため希望を持っています。

しかし、セラピストは入院時の動作能力が最高であると理解していなければなりません。その意識ができていないと患者さんの急速な病状の変化についていけなくなります。

今回、紹介する症例は急速に病状が悪化することへの意識が足りなかったと実感するものです。病状の進行に伴い様々な合併症が出てくるのもガン患者さんの特徴です。

症例の場合、腹水と全身倦怠感、食欲不振、骨転移による背部の痛み、下肢の麻痺など動作能力につながる症状が多く出ていました。

セラピストがこれらの症状に対して直接的に改善につながるような介入は難しいです。負担の少ないリハビリを考えるのみです。

また、1日の中でも状態が変わるためタイミングを計って訪室しなければなりません。患者さんも辛いですがセラピストの精神も磨り減っていきます。

セラピストのメンタルを保つ工夫も重要です。

理学療法士として十分に成果を発揮出来たこと

理学療法士として十分に成果を発揮出来たこと

急速に病状が悪化していくなかで理学療法士にできることは限られます。基本的動作の回復を目的とした一般的な理学療法はほぼ通用しません。

動作回復をしようとして無理に動かしても回復するどころか合併症が悪化することがあり、むしろ介入しないほうがよい場合もあります。

理学療法士として何ができるか考え続けることです。以下に成果を発揮出来た点について解説します。

その①:話を聞くことで苦痛が和らぐ

ガン患者さんでなくても患者さんの話を聞くことは理学療法士にとって日常です。会話の中で患者さんの希望や思いを聞くことができ、少しずつ信頼関係を築くことができます。

私が勤務していた病院では、リハビリは担当制であったため一人のセラピストが、最初から最後まで一人の患者さんに携わることになります。看護師は10数人のチームで患者さんを見ていたため、毎日同じ看護師が同じ患者さんを担当するわけではありません。

患者さんの病状だけでなく、社会的背景や精神状態、趣味・嗜好などガン以外の状況まで含めた全体像を最も理解しているのは、おそらく担当のセラピストです。

また、リハビリは1単位20分として、ある程度の時間をかけて患者さんに介入することができます。その時間で患者さんの話を聞くことが大事です。話すだけで精神的な苦痛は少し和らぐことがあります。

健康な方でも仕事が忙しかったり、意見の合わない上司との関係に悩んだり、恋愛や友人との関わりでストレスが溜まったりすることがあります。

そんなときに、家族や親しい人、会社の同僚に話すとそれだけで気持ちがスッと楽になります。ガン患者さんであれば尚更悩みやストレス、不安ばかりです。

この症例では話を聞くことに半分以上の時間を費やしていたこともあります。

話を聞いて患者さんが少しでも笑顔になればそれは理学療法の成果と言えるのではないでしょうか。

その②:ベッドから離れる時間をつくる

臥床時間の長い患者さんに対して理学療法士がまず思うことは離床することです。離床しなければ寝たきりに近づいていきます。

ガン患者さんの場合病状の悪化とともに離床時間は短くなります。この症例も腹水、全身倦怠感、吐気があり容易に離床できる状態ではなくなっていきました。排泄も床上で行なっており日常生活の中でベッドから離れる時間はありませんでした。

しかし、本人の気持ちとしては「毎日白い天井を眺めているのはおかしくなりそう。たまにはベッドから離れたい」との希望がありました。

そこで、倦怠感や吐気が少ない時間には少しでも車椅子に移乗して病棟の廊下を散歩したりしました。調子のよいときには1周50mほどの病棟廊下を自分手で車椅子を動かすこともできました。

車椅子に移乗できたときには、「今日は車椅子を動かせそうですか?難しければ介助しましょうか?」と確認し自分で行えそうな体調のときにはできるかで行っていただくようにしました。

できることが少なくなっていくなかで患者さんにできることは奪わないように工夫が大事です。

「今日はできた、昨日より長く車椅子に乗れた」と変化が感じられると達成感に繋がりまた頑張ろうと思えます。

ガンリハビリを通じて感じた課題

ガンリハビリを通じて感じた課題

ガンは進行に伴い様々な合併症が起こります。この症例の場合は腹水貯留、食欲不振、吐気、全身倦怠感、骨転移による背部の痛みがあり動作能力を低下させる多くの要因がありました。

それらのほとんどが理学療法によって解決することができないものでした。理学療法士はそれらの症状を踏まえた上で、できるだけ楽に動けるようになるにはどうすればよいか考えなければなりません。

以下に腹水と背部の痛みに対してどのように対応したか,
解説します。

課題①:腹水を抜いても楽にはならない

腹水が溜まっては腹水穿刺で除水して、還流して繰り返していました。腹水が溜まると肺を圧迫して呼吸苦が出たり、胃を圧迫して食欲不振や吐気を引き起こしたりします。

この症例も呼吸苦と吐気に苦しんでいました。腹水はそれ自体重くなり、ただでさえ体力が低下しているのに、さらに動作を行いにくい状態になっていました。

また、常に全身倦怠感も伴っています。腹水は抜いても2~3日で溜まってしまいます。腹水穿刺するとすべての行程を終えるのに半日以上を費やすため、その日のリハビリはできません。

患者さんからの訴えは「お腹が重い」「息苦しい」「体がだるい」「気持ちが悪い」とネガティブなものばかりです。

特に印象的だったのが「お腹がパンパンになって苦しいから、腹水を抜いてもらってちょっとすっきりするけど、すぐにまた溜まって全然楽にならない」と言われたときです。

腹水を抜かなくても周りの組織を圧迫して苦しい、時間をかけて腹水を抜いても終わりではない。終わりがないということが余計に肉体的・精神的に追い込んでいきました。

課題②:脊柱骨転移による癌性疼痛

この症例は、脊柱の骨転移による癌性疼痛にも苦しんでいました。癌性疼痛に関しては、オピオイド鎮痛薬を使用していました。

オピオイド鎮痛薬は、他の鎮痛剤で十分効果が得られない場合に使用されます。癌性疼痛のコントロールでは終末期によく使用される鎮痛薬です。

症例では1時間~2時間の感覚でレスキューの薬も併用していました。

リハビリはレスキューを使用して効果が得られている時間帯に介入するようにしていました。

痛みは危険を知らせるための警告として必要な反応ですが、痛みが常にある状態はそれ自体が苦痛になります。痛みがあることで動くことへの恐怖心が大きくなってしまうため、ガン患者さんに対する疼痛コントロールは重要です。

痛いから動きたくない。痛みが強くなると嫌だから寝ている。

しかし、寝ている時間が長くなれば体力は低下していくという具合に良くない方向へ向かっていきます。癌性疼痛に対して理学療法士が行えることはあるのでしょうか。毎日悩みながら患者さんの部屋に行っていました。

痛みの原因が癌にあるため全て取り去るのは難しい状況です。理学療法士としてはできることは少しでも楽になる方法を考えることです。

課題を解決するには?

いずれの課題も根本を解決することはできませんが、気持ちが楽になる方法を考えることはできます。

腹水に対してはできる限り内臓への負担を減らすため両下肢を挙上したり、食後には右側臥位を取って、胃への圧迫を軽減させる体位を工夫するという指導をしました。

吐気や胃部不快感が完全になくなることはありませんでしたが、一時的に軽減することもありました。その状況を看護師とともに情報共有してもっとよい方法がないか協議するようにしていました。

背部痛に関しては痛みの少ない時間帯にリハビリの時間を合わせました。

また、寝返りや起き上がりで脊柱の回旋が入ると痛みが強く出ることがあったため、起き上がる際にはできるだけ回旋しない方法でゆっくり慎重に行いました。痛みが少なく行えた方法は看護師に伝達し同じ方法で介助できるように指導しました。

病棟の生活は看護師の方が詳しく、楽な介助の方法を考えるのは理学療法士の得意分野です。

それぞれの強みを活かして他職種と相談しながら解決する方法を見つけることが重要になります。

まとめ

急速なガンの進行に対して理学療法士としてどのように患者さんを関わっていくか経験をもとに解説しました。

緩和ケア主体のガン患者さんにとって、ガンの進行は避けられずできることが日に日に減っていきます。理学療法士としてもできることが少なくなっていきます。

入院当初は歩行やトイレでの排泄が可能な患者さんでも1~2週間後にはベッド上のADLになっていることが少なくありません。

入院前がどれだけ活動的な方であっても、どれだけ意欲的にリハビリに取り組んでいても時間とともに、できないことが増えていきます。

セラピストはそこで患者さんにただ頑張れと激励するのではなく、できないことが増えて行くことを予測した上で自分に何ができるのか考えなければなりません。

患者さんの腹水が溜まって苦しくてもそれを抑えることはできず、痛みがあってもそれを緩和することはできません。

それでもできるだけ負担の少ない介助の仕方や薬が効いている時間帯に合わせることはできます。

何ができるのか考え続けることが大事で、この姿勢はガン患者さん以外の患者さんにもつながります。

今回の記事がガンリハに関わるセラピストの参考になれば幸いです。

この記事を書いた人

yasuo
さん

30代の男性で二児の父。現在は整形外科クリニックに勤務。外来リハビリ中心のクリニックで肩関節周囲炎や腰椎椎間板ヘルニア、交通外傷の患者さんなどを担当。入院では主に腰椎圧迫骨折や大腿骨頚部骨折の手術後の患者さんのリハビリを行う。

経歴

  • 2009年理学療法士資格を取得
  • 2009~2013年:内科と整形外科のある一般病棟、回復期病棟、外来リハビリ部門のある病床数150床の一般病院
  • 2013~2020年:急性期病棟、回復期病棟、外来リハビリを持つ病床数300床の総合病院へ転職
  • 2020年~:病床数19床の整形外科クリニックへ転職

資格

  • 理学療法士

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