
ガン患者さんのリハビリに興味のあるけど、セラピストはどのように向き合っているのだろうか。施設でのリハビリと何が違うのか知りたい。
ガンリハに携わっているセラピストやガン患者さんのリハビリに興味のあるセラピストに向けたお話しです。私の場合はガンリハがやりたいと思っていたわけではなく、勤務していた病院でたまたまガン患者さんがいて、ガンリハを算定可能な施設基準も備えていたため研修を受けてガンリハに携わるようになりました。
脳血管障害や運動器の患者さんに対するリハビリはイメージしやすいのですがガン患者さんに対するリハビリとは何をやるのか、そもそも必要性があるのかなど疑問ばかりでした。
自分から進んで始めた訳ではないガンリハでしたが、実際に携わっていくと学びや難しさ、悩みなど多く出てきました。今回はそんな私の経験を元にガンリハに携わるセラピストが持っていなければならない考え方について解説します。
- ガンリハビリテーション(以下ガンリハ)に携わるセラピストが持つべき視点
- ガン患者さんに対してセラピストが行えることは何か
ガンリハに対する考え方
ガンリハに携わる中で脳血管障害や運動器の患者さんのリハビリと同じようなところもあればまったく違う視点を持っていなければならないところもあります。
それはガンが脳血管障害や運動器疾患よりも死を連想し、悪化していくイメージがあるためです。
悪くなるものに対してリハビリを行うことがどういう意味を成すのか患者さんに理解していただくところから始めなければなりません。それを踏まえてここではガンリハに対する考え方を解説します。
ガンリハを患者さんに理解してもらうことが大事
みなさんはガンリハに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。「ガンが進行して身体が動かなくなるのにリハビリって意味あるの?」「体調が悪いのに運動してさらに悪化してしまうのでないか?」「動けないのにリハビリってなにをするの?」様々な疑問が湧くでしょう。
私もガンリハって何をやるのだろうと思っていました。
ガンリハは施設基準を満たしている病院において必要な研修を受けることで疾患別リハビリとしてセラピストが算定できるようになります。研修では医師、看護師、リハビリセラピスト、ソーシャルワーカー等多職種が参加します。
内容としては、ガンの概要を学ぶための座学があり、多職種が意見を出し合うディスカッション形式の講習もあります。病院単位で申し込むため、まとまった意見を発表し合う時間には他の病院がガン患者さんに対してどのような考えを持っているか知ることのできる良い機会となります。
この研修でガンリハの全体像は、ある程度掴むことができますが実際は現場で多くの患者さんに関わることで磨かれていきます。日々変化する体調と死への恐怖を闘いながら過ごしている患者さんに、何が提供できるのか考えながら介入することが求められます。
リハビリ=運動ではありません。
患者さんの中にはリハビリはとにかく大変で、運動は時間をかけて行うイメージをお持ちの方もいますが、そうではないことを説明します。
どんな疾患の患者さんでも同様ですが、不安を抱えていることの多いガン患者さんにおいてはさらに丁寧な説明が求められます。
良くなるものか悪くなるものか
ガンリハに携わる上でセラピストが持つべき視点として回復するガンなのか進行して悪化するガンなのかということです。一般的なイメージとしてガンとはよくならないものという印象をお持ちの方が多いのではないでしょうか。
ガンがよくなるかどうかは治療法があるかどうかで判断できます。具体的には手術でガンを全て取り去ることができるか、または抗がん剤を使用してガンを抑え込むことができるか。
それ以外の痛みを軽減させ、緩和目的とした抗ガン剤の使用は対症療法となり、ガンを根治させる治療ではありません。
手術後の患者さんであればガンを取り去ったことで落ちる機能を考慮しながら、少しずつ廃用症候群を改善させるべくリハビリを行なっていきます。手術部の痛みや炎症を強くしないように徐々に負荷量を上げていきます。
これに対して、緩和目的の対象療法を行なっている患者さんではガンを治すための治療はしていないため、ガンが進行し様々な合併症を引き起こし、体力は奪われ、終末へと近づいていきます。
こちらの患者さんの場合はどんなリハビリをしてもいずれ動けなくなります。良くなるガンなのか悪くなるガンなのかで患者さんの精神状態と身体面の変化は異なるため個々の患者さんに合わせてリハビリを展開していくことが重要になります。
スピードが大事~今はできてもできなくなる~
ガンは遅かれ早かれ進行していきます。特に手術ができずに緩和治療を選択された場合は、リハビリ介入当初は歩行可能でも数日後には起き上がることすらままならないほど変化してしまうことがあります。
脳血管や整形の患者さんの場合は、緩やかに改善していくことが多いですが、ガン患者さんの場合はむしろ逆です。
そのため、初期評価が最大限であると認識して介入していく必要があります。
私はリハビリ開始から3日ほどで現状を把握し自宅復帰可能なレベルなのか看護師、ソーシャルワーカーと意見交換するようにしていました。
ガン患者さんの場合は動作能力が低下するとそれからは上昇することはほぼないためスピードが大事です。訓練したらもう少しよくなるかもしれないという未来よりも悪くなるかもしれないという未来を考えながら介入します。
その上で、セラピストの評価の遅れは社会復帰のタイミングを逃すことになりかねないため重要です。
また、看護師やソーシャルワーカーにも共通の認識を持ってもらうとすすめやすいです。セラピストだけでは患者さんを社会復帰に導くことは不可能です。
周りの助けをもらいながらセラピストに必要なことを提供していけばよいのです。これはガン患者さんに限らず備えていなければならない視点ですが、ガンリハではさらに意識する必要があります。
ガンリハでセラピストが行うべきこと
ガンリハに対する考え方が理解できたら次はどのようなことを行なっていけばよいかが大事になります。ガンは脳血管障害や運動器疾患と比較し悪化する傾向にあり、生活できるかどうか、いつまで生きられるか多くの不安が伴う疾患です。
そのような疾患特性があるなかでセラピストが行うことはどのようなことでしょうか。以下に解説していきます。
他職種とのコミュニケーション
整形や脳血管障害の患者さんでも他職種と情報共有しながらリハビリをすすめることは重要です。ガンリハではさらに他職種との連携が必要とされます。
前述のように特に緩和ケア主体の患者さんにおいては人生の残りの時間が少ないため、とにかく早めに動くことが大事です。その危機感をセラピストだけでなく他職種にも伝えることで素早く連携が取れます。
具体的には、自宅復帰を目指している患者さんに対しては毎日のリハビリの状況を看護師に伝え、可能な限り病棟ADLを落とさないように心がけました。
ソーシャルワーカーにも現状報告をしながら、患者さんと家族の間の橋渡しやケアマネとの情報交換してもらい、自宅で生活できるように環境の調整に動いていただきました。
また、私が勤務していた病院にはガン関連の認定看護師もいましたので緩和ケアやガン性疼痛に悩む患者さんには介入してもらい、私の知識が少ない部分に関しては助言を頂いくこともありました。
意識して早めに行動していましたが、病状の進行がそれ以上に早く自宅復帰が叶わない患者さんは多く経験しました。
自宅復帰が達成できなくても、患者さんの現状を理解し不安を解消することには繋がるため、それぞれが自身の専門性を生かしてコミュニケーションを取りながら患者さんと関わることが重要です。
本人だけでなく家族の不安も軽減させる
ガン患者さんは入院するまでは自立した生活を送っている方が多いため、本人も不安ですが家族も先のことはわからず不安を抱えています。
介護が必要な状態になれば大なり小なり家族の協力が必要です。そこで初期評価を終えたら家族にも現状を説明する必要があります。
頻繁に面会に来られるご家族であれば、リハビリの時間を合わせて現状の動作能力を見ていただきます。見ていただきながら危険なところはどこか、介助が必要な場面はどこか把握していただき、実際に経験していただくことで不安を軽減させていきます。
私は必要であれば医師からの病状説明やソーシャルワーカーとの医療相談にも同席して、セラピストの視点から現状を理解することと、今後の生活がどのように変化するかの予測を家族にお話しすることもありました。
入院前の家族関係は良好だったのか、本人の性格は介護を受け入れられそうか、病状が進行する中で精神的にサポートできそうかなども確認できるところはしていきます。
ガン患者さんが自宅復帰できるかどうかは家族のサポートが可能かどうかで大きく左右されます。患者さんは、精神的に不安定になると家族に当たり散らしたりもします。その中で家族の精神的なサポートも必要です。
セラピストがメンタルを保つこと
ガン患者さんは「いつまで生きることが出来るのか分からない」「明日には歩けなくなるかもしれない」と不安を抱える方が多いです。
そのような患者さんと関わるためガンリハに携わるセラピストも精神的な負担が大きいものです。毎日ガン患者さんと関わるなかで自分の発言一つ一つに気を配りながら接することが必要になるため、セラピストも神経をすり減らしながら介入しています。
私が勤務していた病院ではガンリハに携わっているセラピストは、PT3人・OT1人・ST1人でした。
同じ患者さんを複数のセラピストで担当することで情報交換をしていました。PT単独で介入する場合にも他のPTと情報を共有し代行で介入していただいた際に役立つようにしていました。
また、複数のセラピストで情報共有することですぐに相談できる体制になり一人のセラピストにかかる精神的負担も軽減することができます。患者さんのことを考えながら、思いに寄り添って支援していくことは医療従事者に取って重要は姿勢です。
しかし、一人で抱え込んでしまい自身の精神を崩してしまっては元も子もありません。自身を守るためにもすぐに相談できる相手がいることが望ましいと思います。
ガン関連の認定看護師やソーシャルワーカーとも話しやすい関係が築けていると肩の力を抜いて患者さんと接することができます。
ガンリハの症例紹介
ガン患者さんにも様々な方がいます。同じ部位のガンであっても社会背景が異なれば介入の仕方も異なります。
どんな疾患にも共通しますがその患者さん合わせたリハビリを考えることが重要です。ガンリハに携わったこと経験のあるセラピストの視点からガン患者さんに対してどのように介入したか症例を通して紹介します。
以下に紹介するのは私がガンリハに対する考え方を学ばせていただいた症例です。
肺癌、脊椎骨転移から病的骨折、対麻痺の男性
自転車と一人旅が趣味の患者さんでした。自転車を漕いでいると普段では楽な道のりで息切れがするようになりました。20km走行できたのが10kmになり5kmになりだんだんと連続で自転車に乗れる距離が減っていきました。
おかしいなと思いつつも、普段の生活は可能であったため病院は受診しませんでした。あるとき洗面台で顔を洗おうと前かがみになったとき背中に激痛が走り、足に力が入らなくなり救急車で病院へ搬送されました。
そこで肺癌と脊椎への骨転移が見つかり、ガンだと分かったのです。脊椎の骨転移から病的骨折に至り下半身は完全麻痺となりました。
放射線や抗がん剤の治療がなされましたが著効せず対麻痺は改善しませんでした。急性期の治療を終えて緩和ケア目的で療養する段階で私がリハビリを担当することになりました。以下に何を行ったかお話しします。
ガン患者さんと接する中で気を付けたことは何か
まずは患者さんの話をよく聞くところから始めます。ガンリハではこの時間が最も大事であり最も気を使う時間です。初回はいつも緊張しながら患者さんの部屋を訪室します。
患者さんがどの程度病状を理解しているか、受け入れているか探っていくわけですが、とにかく患者さんの思いを聞くことが大事です。思いを知ることで会話の糸口が生まれ、少しずつ信頼が得られてきます。
信頼が得られなければ動きづらい体を動かしてもらうことはできません。倦怠感と呼吸苦と下肢の麻痺を抱えながらもリハビリに協力してくれるようになった段階でもう少し突っ込んだ話をします。
それは自宅へ帰りたいか、自宅以外の施設や療養病床で生活するかということです。
その方は本心では自宅に帰りたいが両下肢完全麻痺で排泄も全介助の状態では家族に迷惑をかけるとの思いから自宅以外の場所を選択されました。
自宅復帰は本人だけの問題ではないため家族を思う人ほど介護負担を考えて迷惑をかけないような選択をされる方が多いのです。
私は自宅復帰が叶わなくても、せめて家族との時間は作りたいと考えました。患者さんも協力してくださり、家族の面会時間に合わせてリクライニング車椅子に移乗し屋上庭園を散歩し、家族だけの時間を過ごしていただくようにしました。
自宅復帰という真の希望は達成されませんでしたが、体調が悪いなかで少しでも満足が得られるように介入しました。
最終的にこの患者さんは療養型病院へ転院が決まりリハビリ終了となりました。
まとめ
ガンリハに携わるセラピスト、またはガンリハに興味を持つセラピストに向けて、ガンリハに対する考え方とセラピストが行うべきことについて解説しました。
ガンリハは脳血管障害や運動器疾患以上に患者さんやその周りにいる家族、医療者間のコミュニケーションが重要になります。患者さんの話をよく聞き、気持ちを推し量ることが大事です。
身体機能が低下していくことが多いなかで思いを汲み取りながら、患者さんに関わっていくことが求められます。
どのような方法であれば身体の負担が少なく動くことができるか、家族に介助してもらい際にはどのような介助が適切か、それを考えるのはセラピストの役割です。
患者さんの中には「リハビリで頑張って動いたらもっと体調が悪くなる」とそもそもよいイメージを持っていない方もいるため説明が大事です。
リハビリを行うことで楽になる部分があることを知れば協力してくれる場面も増えます。ガンリハに携わることでコミュニケーション能力は自ずと向上します。
それは他の疾患別リハビリにも活かすことができます。
さん一人ひとりに何が必要か、何を提供できるのか考え続けることが重要なことです。
この記事を書いた人

コメント一覧