
1人職場で働いているけど、同じ業種の人がいないから、なかなか共感しながら仕事ができない。もっと良いリハビリを提供するためには、うまく連携しなきゃいけない。どうすれば他職種連携が円滑に進むのだろう?
1人職場で働く理学療法士の悩みの一つに『他職種連携が難しい』という内容があるのではないでしょうか。私も、1人職場で2年間働いてきて、その悩みを抱えながら仕事をしています。
今回は、同業種が大勢いる環境から1人職場に転職した経験から、その悩みを解決する考え方について解説していきます。
- 専門領域と非専門領域について考える
- 自分を知ってもらう前に相手を理解する
- 環境をマネジメントする視点を持つ
なぜ1人職場では他職種連携が問題になるのか
1人職場で他職種連携に問題を感じるのは、同じ専門職領域の感覚を共有しにくいからです。専門職には、専門とする領域があります。反対から考えてみると、非専門領域があるということになるでしょう。
専門職同士が互いに専門領域と非専門領域に理解があり、価値観の違いを認めつつも共感できる環境であれば、他職種連携に問題意識は生まれません。
悩みが多いと言う現状は、専門職領域と非専門領域を互いに理解し合えている環境が少ないということを示しているのではないでしょうか。
理由①:生活の全てが大切になる
リハビリテーションにおける理念『人間らしく生きる権利の回復』というのは有名でしょう。それは、『最良の生活と人生の実現』と表現されます。
生活や人生というものは、日々の積み重ねで成り立っています。朝起きて、寝返りをうつことから始まり、夜寝るまでの人の活動は生活と人生そのものといえるでしょう。
睡眠姿勢まで考えることもリハビリテーションでは重要にはなります。それを含めれば1日24時間すべてに関わる理念をリハビリテーションは待っているのです。
リハビリ職が対象者に関わっている時間は、生活のほんの一部でしかありません。理念の達成には必ず、リハビリ職と対象者以外の方々が関連するでしょう。
生活や人生をテーマとする時、他職種連携の重要性が必然的になります。これは、リハビリテーションに関わる人たちのみが抱えている課題ではありません。
看護師の理念も『人々の人間としての尊厳を維持し、健康で幸福でありたいという普遍的なニーズに応え、人々の健康な生活の実現に貢献する。』という内容が日本看護協会から発信されています。
対象者の生活や人生をテーマとしているのは、他の職種でも同様のことがあるでしょう。他職種連携の困難さは、医療・介護専門職の多くが抱えている悩みではないでしょうか。
理由②:専門職化と現場のジレンマ
リハビリテーション専門職に限らず、専門職には専門領域があります。その領域を作るためには、専門領域以外を決める必要があるでしょう。その専門領域以外のことを非専門領域と呼びます。
専門性を高めるためには、非専門領域を設定し、切り離してきた歴史があるとされています。
理学療法士は、対象者に運動療法や物理療法を用いてより良い生活を支援することが専門領域とされるでしょう。
看護師は、対象者の生活全般に関与して、安楽な療養体制を整えることが専門領域とされます。この時、同じ方を対象者としていて、同じように生活や人生を支援していくにしても、それぞれの専門領域の視点から判断することになるのです。
専門性を高めるためには、非専門領域を設定して切り離さなければならない。しかし、対象者をより良い生活に導くには非専門領域を大事にしなければならない。
専門職の専門性という面と現場の間にそのジレンマがあるといえるのではないでしょうか。
理由③:リハビリ職が対象者一人ひとりに関われる時間が少ない
理学療法士が専門性をもって対象者と関われる時間は多くありません。1人職場の場合、多くの方を対象とすることも多く、それ比較的顕著になるでしょう。
より良い生活のために、よりリハビリの効果を発揮するためには他職種とある程度の目的意識を共有して関わることが大切になります。
たとえば、移乗動作の能力向上を支援することによって、対象者の移動の自由度をより良くしたいという目標があったとしましょう。
理学療法士が関われる時間は、20分程度であれば、その時間内は適切な動作学習ができます。しかし、他の職種が関わるときに移乗動作の能力向上を意識せず、移乗のみを支援してしまうというような環境は往々にしてあり得るのではないでしょうか。実際、私もその環境の中にいます。
この時、理学療法士より他の職種の方々が関わる時間のほうが多く、理学療法士の行った動作学習はほとんど意味を持たなくなってしまいます。
それぞれの専門領域が意識されない環境は、効果的な支援が行いにくいと言えるでしょう。
他職種連携の難しさを解消する3つの方法
他職種連携を円滑にしていくためには、教育が必要です。
それの教育は、専門職が意識してしまいがちな専門性をより高める教育ではなく、他職種を理解するための教育です。
専門性を高め、その素晴らしさに共感を求めるのではなく、相手のことや非専門領域を学ぶことが重要ではないでしょうか。そのためには、互いに理解しようと思い合える関係性が必要になってきます。
その①:相手を理解する
専門職としての関係性は大切です。しかし、それ以前に話を受け入れてもらえる関係性を作らなければいけません。
そのためには、勉強会のようなフォーマルでかしこまった場面ではなく、普段のコミュニケーションの場が非常に大切になります。
『私を理解してもらおう』という態度ではなく、『相手を理解しよう』という気持ちでコミュニケーションに臨むことによって、言葉を受け入れ合える関係性が徐々に形成されるでしょう。
私は『専門職としての私』という価値観を持って、理解してもらおうとコミュニケーションに当たることが多かったのですが、先に相手を理解しようというスタンスに変えてから少しずつ関係性が良くなっていると実感しています。
その②:専門領域と非専門領域を考える
相手の専門領域を理解し、お互いの非専門領域を考えて行動することが大切です。
相手に理解してもらいたい専門性があるのであれば、その前に相手の専門性を理解して、決して蔑ろにしない姿勢で仕事に臨むことが良い関係性を作り出します。
たとえば、口腔ケアの指導が歯科衛生士からあったとしましょう。口腔ケアに関わる機会があった時は、その指導をしっかりと守り、相手の専門性を大切にする姿勢で臨むことです。
そういった相手への理解と配慮なくして、自らの専門性を受け入れてもらうことは難しいでしょう。
その③:理念や目標を共有する
病院や事業所の理念が共有できているか、チームケアやチーム医療の目標が共有できているのかといったことも重要です。所属やチームの方針を理解せずに行動してしまう人は少なからずいます。
教育が大切であるという視点だけでなく、その人を個人として理解することから始めることが、良い方向性を生み出すきっかけになることもあるでしょう。
PT9目が考えるベストな他職種連携
私の考えるベストな他職種連携は、互いの専門性を理解し、高め合える環境になることです。
他職種連携を円滑に進めるには、細かなテクニックではなく、環境を作り上げることが最も重要であり効果的であると考えます。
『相手をこう動かそう』『正論で説得しよう』といった小手先のテクニックでは、その時は良い連携ができたとしても長続きしません。なぜなら、理解や共感といった根本的な要素に辿り着くことができないからです。
良い他職種連携ができるのは、理念や目的を共有し、互いの専門性と非専門領域を理解し合える環境でしょう。
経験談①:強制的な勉強会では効果なし
私は現在、介護老人福祉施設に勤めており、仕事の一つとして、定期的に必ず行う勉強会の講師を務めることがあります。
その際、エビデンスを含めた内容を入れ込み、理学療法の有効性を理解してもらおうと試みたことがありました。
結果としては、『全く興味を抱いてもらえない』という状況になりました。体交についてのエビデンスなどを紹介しても、全く現場で受け入れてもらえないという事態に驚いたことを強く覚えています。
強制的に何かを伝える。正論を伝えて説得する。という方法ではうまくいかないことがあるのです。
相手を説得するのではなく、相手が納得することが大切なのでしょう。それは、互いの信頼関係の上に成り立つことを学びました。
経験談②:理念や方針を理解して行動する
強制的な勉強会が失敗した後、なぜ受け入れてもらえないのかを疑問に思った私は、定期的に自由な会議のできる委員会を立ち上げました。
そこで、フォーマルな環境を作らずにリラックスして話せるような場を設定し、『何のために働くのか』というテーマについて話を聞いたところ、事業所の理念や方針を知らず『条件が良いからここに勤めている。全て自分のために働く。』という回答を持っている方がいました。
これは、事業所の理念共有がうまくできていないことや、教育体制、そして職員採用方法などが影響していることが考えられます。
その方は、給与や福利厚生などの条件で仕事を選び働くという価値観を持っているのでしょう。その方にとっては、理念や方針を理解して行動することの重要性が低いことを示しています。より良い条件の職場があれば、そちらに気を引かれてしまうであろうことか予測されます。
理念やチームの方針の共有がなされていない場合、それぞれの個人が別々の方向性を持って働くことになってしまうことになるでしょう。
良い連携のできる環境を作り上げるためには、理学療法の専門性だけでなく、組織をマネジメントする能力も必要になるだろうと感じた瞬間です。
経験談③:専門性を出し合って共有するカンファレンス
とても良いカンファレンスに立ち合ったことがあります。ある利用者さんのモニタリングの為のカンファレンスでした。
そこでは、デイサービスやショートステイなどの利用サービスの担当者が集まり、それぞれの事業所や専門職の特性を活かした支援内容を次々と発表し、共有する場が形成されていたのです。
私は、訪問リハビリの担当者として参加し、デイサービスやショートステイの生活の様子を聞きながら、その環境でも行える簡単なリハビリ内容を提示しました。
反対に、通所や短期入所サービスの様子を聞いて、私達もリハビリ内容の更新に活かすことができました。
その後の利用者さんの生活の質は、改善傾向となり、活動の範囲が広がり、楽しみが増えたことを喜んでいた顔を良く覚えています。
互いの専門性を活かし、尊重し、同じ目標に向かってチームを形成することが、円滑な他職種連携のできるベストな環境といえるでしょう。
まとめ
他職種連携の難しさを感じているのは、理学療法士のみでなく、それぞれの医療・介護専門職が同じように悩みを感じている方がいることでしょう。
相手を説得するのではなく、相手を理解し、納得に至るような関わり方をすることが他職種連携を円滑にするための第1歩となります。
そして、専門性を高めるための教育は重要だと理解しつつ、それに固執せずに非専門領域を意識することも大事です。
1人職場の理学療法士に限らず、他職種の難しさを解消するためには、専門領域以外に着目し、環境をマネジメントする視点を持つことによってより良い環境に近づくことができるのではないでしょうか。
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