
脳卒中患者のリハビリが重要であることは理解しているが、どのようなアプローチをすればいいのか分からない。脳卒中患者のリハビリを行っているが、どうしても日常生活動作能力を向上させることができなくて悩んでいる。
あなたは理学療法士として、自信を持って脳卒中患者のリハビリを行っていますか?
自分が考えたプログラムを実施しても目標が達成できず、後悔したことはありませんか?
脳神経のメカニズムは極めて複雑であり、適切なアプローチができなければ麻痺側は廃用が進行してしまいます。
そこで今回は、私が以前参加した、脳卒中後遺症者に対する理学療法アプローチの研修会の内容を紹介します。麻痺の回復するメカニズムや代償戦略、痙縮が引き起こす要因について理解し、適切なアプローチ方法を身に付けましょう。
- 理学療法士の介入が麻痺の回復を左右する
- 早期から代償戦略を抑制させるべし
- 麻痺側下肢への荷重が痙縮を抑制する
- 立ち上がり動作の誘導はタイミングが重要
2018年1月開催の研修会について
2018年1月14日に岩手県盛岡市で開催された「理学療法士講習会(基本編 理論)~脳卒中後遺症者に対する理学療法アプローチ~」の研修会について紹介していきます。
岩手県理学療法士会が担当する研修会であり、座学と実技を交えて行うことができたため理解しやすい研修会でした。
研修会のテーマ・ポイント
研修会のタイトル通り、脳卒中後遺症者に対するアプローチ方法を理解することがテーマになっています。麻痺の回復のメカニズムや片麻痺者の代償戦略、痙縮はなぜ出現するのかについて座学講義を行い、実技では立ち上がり動作の動作分析や誘導方法について学びました。
脳卒中のメカニズムを理解し、それに基づいた理論で理学療法アプローチの誘導方法を学ぶことがポイントになっています。
この研修会をおすすめするならどんな人?
普段、脳卒中患者のリハビリを担当する方におすすめできます。その中でも、研修会の実技内容は起立動作の誘導方法を中心に実施していたため、離床可能なレベルの患者が適応になると思います。
そのため、急性期よりも回復期・維持期を担当する理学療法士に参考にしていただきたい内容です。
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現場で活かせそうなこと
今回の研修会のコンセプトが「明日から活かせる知識・技術を身に付ける」であったため、全ての内容が臨床で活かすことができると思います。
実技も難しいものではなく、コツをつかめば誰でもできる内容です。座学講義が主体でしたが、脳卒中のメカニズムを理解することは理学療法アプローチの質を向上させることにつながります。知識と技術の両方を臨床で活かせるようにしましょう。
研修会で何を学んだか
研修会では麻痺の回復のメカニズム、片麻痺者の代償戦略、痙縮が出現する原因について学びました。
また、それらの知識を学んだうえで、動作をどのように分析するか、どのような誘導を行うことで効果的なアプローチが可能となるかを学びました。それぞれの詳しい内容について紹介していきます。
麻痺の回復のメカニズム
脳神経には「可塑性」という原理があり、ある神経が損傷しても他の神経を使用することで回復していきます。しかし、ここでの回復というのは「損傷前の状態に戻す」のではなく、「新しい脳の構造に作り変える」という表現のほうが正しいです。
また、「顕在化」という原理もあり、活動していなかった神経が損傷後、局所的な結合を通して新たにつながり、脳神経が活性化していきます。
このように、脳神経には損傷しても回復する能力がありますが、回復を促進するには脳を活動させる必要があり、そこが私たち理学療法士の介入できる要素です。理学療法士の介入によって脳の回復過程に違いが生じてしまうため、しっかりと理解するようにしましょう。
片麻痺者の代償戦略
脳卒中により片麻痺を呈すると、麻痺側の上下肢を使用せずに活動を行うようになり、その活動を続けることで麻痺側を使用しない動きが形成されてしまいます。これを「学習された不使用」と言います。
多くの脳卒中患者の活動はこのような代償戦略に切り替わってしまい、体性感覚系からの情報の統合を無効にし、視覚と認知的戦略を強めます。
代償を使用してでも動作が安定するのであれば一見良さそうに思えますが、視覚戦略が強まってしまうと瞬きをした瞬間にバランスを崩し転倒してしまうなどの問題が発生してしまいます。
このように、代償戦略というのは患者が持っている回復の可能性を制限してしまうため、早期から体性感覚系の情報を入力し、代償戦略が生じないアプローチを実施していくことが重要になります。
なぜ、痙縮は出現するのか?
脳卒中患者のリハビリを実施していく中で、痙縮の出現に悩んでいる方が多いと思います。
痙縮とは、上位運動ニューロン障害で起こる感覚・運動系の調整の異常な状態であり、筋活動の間欠的もしくは持続的な筋の不随意の活性であると報告されています。生理学的に捉えた痙縮をもたらす要因について下記に示します。
- γ運動ニューロン活動の亢進
- 筋の形態学的変化による筋紡錘感受性の上昇
- Ia群線維のシナプス前抑制の減少
- Ia群線維の発芽減少
- シナプス後膜の感受性の増大
ここで重要なのが、痙縮というものは筋の不随意な活性であり、患者本人の意思では抑制することができないという点です。
そのため、痙縮を消失させることは極めて難しく個人差が生じますが、症状を抑制させることができるかは理学療法士の介入次第でもあります。研修会では、患者が麻痺側へしっかり荷重している感覚を捉えられるようになるかどうかが大切であると説明していました。
麻痺側への荷重感覚を捉えられるようになると、大脳皮質での体性感覚情報の統合が可能となり、Ia繊維のシナプス前抑制が増大します。
このように、理学療法士が麻痺側への荷重を促通することができれば、生理学的に痙縮を抑制することができるようになります。
立ち上がり動作の誘導方法
脳卒中患者が動作の獲得に最も難渋するのが起立動作です。歩行動作に比べ必要な関節可動域が大きく、抗重力運動であるため下肢への負担が増加します。
脳卒中患者は少しでも簡単かつ安全に立ち上がるため、健側上肢で手すりを引き寄せ、健側下肢に荷重を集中させます。
しかし、それでは前述した「学習の不使用」が助長されてしまうため、理学療法士の誘導方法が非常に重要となります。研修では、立ち上がる際に麻痺側へ荷重を促す誘導方法について学びました。方法を下記に示します。
- 患者に直立座位をとらせる。
- セラピストの片手を患者の麻痺側大腿遠位部を把持し、もう一方の手を麻痺側座骨結節部に置く。
- 体幹前傾に合わせて麻痺側大腿遠位部に置いた手を前下方に引き下げ、麻痺側下肢への荷重を促す。
- 離殿する瞬間に麻痺側座骨結節部に置いた手を押し上げ、離殿を最小限介助する。
立ち上がり動作の誘導方法でポイントになるのがタイミングです。体幹前傾や離殿のタイミングは人によって異なるため、セラピスト同士で練習してから実施することをおすすめします。
研修中にあった質問
研修中には参加者からいろいろな質問がありました。若手理学療法士の方の多くは、質問したくても発言しにくいと感じているのではないでしょうか。
ここでは、若手理学療法士が疑問に思いやすい内容についての質問内容と、それに対する回答を紹介していきます。
下肢の伸展運動が難しく、どうしても代償動作が出現してしまいます。どうすればいいでしょうか?
代償戦略というのは、適切な動作遂行のために必要となる姿勢、運動コントロールが出来ないまま日常生活の自立ばかりを要求された結果生まれます。
動作を行うためには条件があるのに、その条件が整っていない状態で動作ができるわけがありません。代償が強まる場合は、もう一度動作分析を行う必要があると思います。
一人の意見だけでなく、同期や先輩からも意見をもらうことをおすすめします。
また、人間の発達段階では、屈筋コントロールができるようになってから伸筋コントロールができるようになります。そのため、下肢の伸展運動が難しい場合には、屈筋をコントロールする練習から再度実施してみましょう。
理学療法を実施する際、患者にはどのようなことを意識してもらえばいいですか?
理学療法士だけが実施しているプログラムの効果を理解しているようでは不十分です。患者自身が身に付ける能力は何かを理解しているかが大切となります。
そのためには、プログラムの実施中や実施後にはフィードバックを行うよう心掛けてください。
荷重練習を実施している時に患者様はどこに意識を集中しているでしょうか?
荷重の情報を読み取る方法は股関節や膝関節、足関節とさまざまあります。患者と理学療法士の考え方が異ならないよう工夫してください。
起立練習を行う際、手すりを掴ませるのはだめですか?
手すりを掴むことは悪いことではありませんが、練習中はおすすめしません。
前述したように、手すりを掴むことで「学習の不使用」を助長してしまう可能性もあります。
そのため、練習中は支持なしで起立練習を行うようにし、下肢の筋出力低下により難しい場合は椅子の高さを調整することから始めてください。
まとめ
脳卒中後遺症者への理学療法アプローチでは、麻痺の回復や代償戦略のデメリット、痙縮のメカニズムについて理解を深め、それに基づいたプログラムを実施することが重要です。
早期から麻痺側下肢への荷重を促し、体性感覚情報の統合を向上させることで最終的なADL能力に大きな違いが生じます。
立ち上がり練習を実施する際にも麻痺側下肢への荷重を意識する必要がありますが、過介助にはならないよう注意してください。
今回参加した研修会の内容で質問があれば、気軽にコメントしてください。
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