
終末期リハビリテーションって、やりがいはありそうだけど、特別な知識や経験が必要なのかしら?興味はあるけど、自分にできるか不安だな。経験を積んでからじゃないと難しいのかな?
終末期リハビリテーションは、人生の最期を支援する、とてもやりがいある仕事です。終末期は、日常の生活の延長にあるものです。
訪問リハビリの実践においても、一人ひとり、その時々のニーズに沿って介入していくことに変わりはありません。
今回は、訪問リハビリの事例をもとに、終末期リハビリテーションの実践の視点、終末期リハビリテーションに関わり続けるために専門職自身が気を付けておくことについてご紹介します。
- 【事例】訪問リハビリでの終末期リハビリテーション
- 終末期リハビリテーション介入のポイント
- 終末期に関わる専門職が気を付けること
【事例】終末期リハビリテーション介入のポイント
私が訪問リハビリで経験した、2人の事例をご紹介します。そして、2人が教えてくれた、終末期リハビリテーション介入のポイントをご説明します。終末期では、自力での体動が難しくなるため、ベッド上で過ごす時間をどれだけ苦痛なく、より快適にできるかが重要です。
意思を伝え合い、人と関わり続けられることは、心の安定に作用します。最期まで、人と関わり合いながら、苦痛なく、部分的にでも主体性を持って生きられるようケアしていくことが必要です。
事例(1):背中が痛いと訴えた男性
90代の盲目の男性。声をかけると笑顔を見せてくれる、チャーミングな人です。延命は希望せず、食事がとれなくなってからは、数か月間点滴のみです。体はやせ細り、寝たきりの生活を送っていました。
コミュニケーションでは、少し耳は遠いですが、短文であれば理解は良好でした。表出では、舌が委縮し、声はかすれ、一呼吸が短く語尾が不明瞭となり、訴えを聞き取ることは容易なことではありませんでした。それでも、毎回諦めずに意思を伝えようとし続けてくれ、だんだんと訴えが理解できるようになってきました。
少しでも離床し、気分転換の時間を持てないかと思い提案しますが、毎回首を横に振ります。ベッド上での上下肢の運動には協力的に参加してくれ、リハビリが終わるといつも、「ありがとう」と言ってくれます。
しかし、ある時から、苦痛の表情を浮かべることが増えてきました。訴えは、「背中が痛い」とのこと。男性は、訪問リハビリとおむつ交換以外、ずっと仰向けの姿勢をとっていました。
不安感を与えないよう、声掛けと身体の誘導によってこれからの動きの理解を促しながら、側臥位の評価、ポジショニングを行いました。その他にできることは、ただ、痛みが遠のくように祈りながら背中をさすることくらいでした。
背中をさすっているその時間だけは、「気持ち、良い、なあ~」と穏やかな表情を浮かべてくれるのです。呼吸状態が悪化し、体位変換ができなくなるまで、背中をさする介入を続けました。
事例に学ぶ、介入のポイント
24時間、1週間、どのような姿勢でどれくらいの時間を過ごしているかを評価します。姿勢と、痛み、拘縮、褥瘡は互いに関連しており、日常の姿勢のバリエーションを増やすことで、苦痛を和らげられる可能性があります。
仰臥位から側臥位への姿勢変換では、痛みやめまいが出ないか表情を確認しながら、両膝を立て、上肢帯と、膝および骨盤から寝返る方向に誘導していきます。頚部から背部にかけて突っ張るように抵抗を感じますが、側臥位の丸まるような姿勢をイメージし、徐々にベッドに体重を預け、緊張が抜けていくように誘導していきます。
表情が和らぎ、呼吸が深くなったら、姿勢が安定していると判断できます。枕やクッションを使って、姿勢保持ができるようポジショニングをします。
その後、時間の経過による姿勢の崩れや苦痛の有無の確認を行います。とれる姿勢のバリエーションが把握できたら、家族や介護スタッフとの情報共有を行います。口頭のみでなく、写真や図示することによってケアに関わる全ての人が同じようにポジショニングできるよう配慮することが大切です。
コミュニケーションをとるときは、視覚、聴覚、触覚のうち、有効な感覚入力を把握することが大切です。終末期となると、言葉でのコミュニケーションが難しくなることもしばしばあります。
これから何をされるか理解しないままケアが始まれば、本人は恐怖を感じてしまいます。例えば、左に寝返りをしてほしいとき。聴覚が有効であれば、「左を向きましょう」と声掛けをします。視覚が有効であれば、左を指さして、寝がえりのジェスチャーをします。
触覚が有効であれば、両膝を立てて左へゆっくりと倒したり、右肩から左方向へ寝返りを誘導したりします。視覚、聴覚、触覚の、どの感覚入力が有効かを見極め、視覚と触覚など、複数の感覚入力を使うことによって、わかりやすいコミュニケーションを心掛けることが大切です。
終末期では、身体的、精神的な苦痛をはじめ、さまざまな不快な状況にさらされます。少しでもその人にとって「快」と感じる状況を見つけていく視点が大切です。
人によって「快」と感じる状況は異なります。生活歴をもとに、好きだった音楽をかけてみたり、昔の写真を一緒に見てみたり。良い香りのアロマをたいてみたり、身体に触れてみたりするなど、いろいろな関わりから試行錯誤することが必要です。
そして、その人の表情や訴えから感情を読み取り、少しでも多くの「快」と感じる状況を見つけていくことが大切です。
事例(2):最期まで拘縮を作らなかった女性
80代の上品な女性。「ありがとね」が口癖です。認知症が進行し、自ら何かをしようとすることはなく、意思疎通は困難でした。徐々に食事量が低下し、眠っている時間が増えてきていました。主介護者であるお嫁さんと一緒に行ったことは、朝は起きて車椅子に乗ることと、自分で食べることの支援です。
声をかけなければ、ずっと眠っていますが、声をかけると頷き、調子が良いときは目を開けて「おはよ」と言ってくれます。毎朝、「おはよう」と声をかけ、仰臥位から側臥位へ誘導し、両下肢をベッドから下ろし、起き上がり、端坐位となります。両下肢に体重が乗るよう介助をしながら立ち上がり、車椅子へ移乗します。
そして、食事の初めの数口は、スプーンを手に持ってもらい、介助者の手を添えて口へ運ぶまで介助をします。最期、起きられなくなるまで行った、車椅子への離床とスプーンを持って食べる支援により、女性は拘縮を作ることなく、最期を迎えました。
事例に学ぶ、介入のポイント
起きるということは、シンプルですが、大切な習慣です。側臥位をとること、端坐位をとること、両下肢に荷重すること、座位で過ごす時間を持つこと。
関節可動域訓練も大切ですが、寝たきりにしないケアを行うことで、拘縮は予防することができます。
介護の際には、できることと、できないことを見極め、できることを奪わない介護が大切です。自分でスプーンを持つことも、口まで運ぶこともできなくても、介助によりスプーンを持つと、目を開けて食事を見るのです。
そして、わずかですが、自らスプーンで食物をすくおうとして、口へ運ぼうとするのです。人が何かをしようとするとき、意思が働き、感覚情報を探索し、運動が起こります。少しでも主体性を奪わない介護を実践することが大切です。
終末期リハビリテーションに関わる専門職が気を付けるべきこと
終末期リハビリテーションに関わるにあたり、自分自身の心身の健康を守ることが大切です。終末期リハビリテーションは、やりがいを感じられる一方で、精神的な葛藤を生じることも多くあります。
精神的な疲労は、自分自身では気づきにくく、気づいた時には、バーンアウトしてしまっていることもあります。終末期リハビリテーションに関わり続けていくためには、自分自身の状態を客観的に把握し、心身の健康を守ることが必要です。
自分の精神状態をチェックする
定期的に自分の精神状態を振り返ることが必要です。
夜寝つきが悪くないか、中途覚醒や早朝覚醒はないか。漠然とした不安感や、気分の落ち込みはないか。食欲は減退もしくは亢進していないか。飲酒量が増えていないか。精神的に不安定な状態にある時は、意外と自分では気づきにくいものです。
気づいた時にはバーンアウトの状態となってしまうこともあります。定期的に自分自身を振り返り、精神状態をチェックすることが必要です。
時には割り切る心も必要
自分自身の健康を守るために、時には割り切る心を持つことも大切です。終末期に関わっていると、無力感を感じたり、精神的な葛藤を生じたりすることもあると思います。
私たちのできることは限られおり、正解もありません。自分なりに考え、できる限りやったなら、それで良いのです。思いつめすぎず、割り切る心を持っておくことは必要なことです。
まとめ
終末期リハビリテーションは、やりがいある仕事です。
終末期は日常の生活の延長にあり、特別なことではありません。知識や技術ばかりでなく、目の前の一人ひとりと向き合い、自分にできることを考え続けることが大切です。
自分自身の心を保ちながら、終末期リハビリテーションを実践していきましょう。
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