
訪問事業所で実力を付けて、キャリアを作っていきたい。訪問リハには、訪問リハビリ事業所と訪問看護があると聞く。リハの転職・キャリア形成において、事業所選びで気を付けるべき点を知りたい。
訪問の事業所でキャリアを形成する上で、訪問リハビリに所属するべきか、訪問看護に所属するべきかと悩む方もいるのではないでしょうか。
大切なのは自分の目指すべきキャリアを達成できるルートを定めることです。訪問事業所の特徴によって得られるスキルは変わってくるでしょう。
訪問リハビリと訪問看護で得られる経験は、制度の違いもあり多少なりとも異なってきます。
今回は、訪問リハビリと訪問看護における理学療法士の働き方の違いを解説しつつ、キャリア形成の注意点を示します。
- 訪問リハと訪問看護における施術できる対象者の違い
- 制度の違いはキャリアに影響する
- 目指すべきマネジメント層
訪問リハと訪問看護からのリハの違い
勤める訪問リハの事業所によって制度が違います。制度の違いによって、対象者が多少なりとも変わってくるのです。また、制度が違うことによって、職種間の関係性も変わってきます。キャリア形成においても影響を及ぼすことがあるでしょう。
どのような違いがあるのかについて、以下に示します。
違い①:訪問リハ事業所は介護保険のリハビリがメインとなる
診療所等に付属する訪問リハビリ事業所に配属された場合、医療保険での訪問に対応できないため、一般的には介護保険を利用している方のリハビリを行うことになるでしょう。
介護保険は、基本的に65歳以上の方が利用できる保険だと法律で定められています。つまり、リハビリを行う対象者が高齢者に限られやすいのです。
訪問リハビリ事業所は制度上、専任の常勤医師が必要になります。そのため、診療所や病院などに付属する形で運営されるのが一般的です。
病院のリハビリテーション科と兼務という勤務形態であれば医療保険でのリハビリも可能となります。急性増悪時も在宅訪問リハビリテーション指導管理料という算定方法でリハビリテーション科からリハビリが提供できるため、訪問看護と同じような経験が積めるでしょう。
訪問看護では急性増悪患者に対する特別訪問看護指示書という形で保険点数を算定できるため、高リスクな対象者に携わるという経験をしやすい特徴があります。また、公的医療保険の対象者は幅広く、乳幼児期から後期高齢者まで対応されています。しかし、介護保険の場合は対象者が高齢者に限定されます。
たとえば、小児リハのキャリアを積みたいと考えた時、介護保険利用者を主に対象とする訪問リハ事業所で勤めてしまうと小児リハを経験する可能性は著しく低下してしまうでしょう。
訪問看護であれば、小児に特化した事業所でなくとも医療保険での訪問が可能なため、小児リハを経験できる可能性が比較的に高くなります。
このように、制度によって対象者が変わってくるため、自分のキャリアを考えた上で、そのキャリアのイメージに合う事業所を選ぶことが大切になるでしょう。
キャリアを考える上で、どのような対象者を経験する可能性が高い事業所なのかを考えることは重要です。自分の描くキャリアを想像し、適切な場所に身を置くことが大切になるでしょう。
違い②:訪問看護は医療保険対応ができる
医療職と連携しながら地域でリスク管理を学ぶのであれば、医療保険対応のできる訪問看護からの訪問リハを経験するのが良いのではないでしょうか。
訪問リハ事業所であっても、病院のリハビリテーション科との兼務であれば、兼務でない場合と比較すると医療連携を経験しやすいです。訪問看護事業所では、急性増悪患者を対象としたサービスが行われることがあります。高リスクな対象者にリハビリを提供する機会も少なからずあるでしょう。
また、医療保険利用者は介護保険利用者と違い、基本的に65歳以上という年齢の制限がありません。介護保険利用者と比較して若い方を担当することが多くなるでしょう。
年齢が若く、医療保険を利用している方を対象にリハビリを行うことで得られる経験と、高齢者を対象にリハビリを行うことで得られる経験は同一ではありません。
キャリアを形成する上で、どんな経験をする可能性が高い事業者なのかを考えることも大切になるのではないでしょうか。
たとえば、介護保険利用者を主に対象としてリハビリを提供する事業所に配属した場合、小児リハビリの経験や若年者のリハビリの経験を積める可能性は少なくなるでしょう。
事業所の制度や特徴を見据えてキャリアを考えるべきなのです。
違い③:人員配置基準が違う。マネジメントを経験するなら訪問リハ事業所
マネジメントをキャリアとして積みたいのであれば、訪問看護事業所よりも訪問リハビリ事業所に所属した方が良いでしょう。
なぜなら、訪問看護事業所の管理者の条件は厚生労働省によって『専従かつ、常勤の看護師又は保健師であること』と定められているからです。つまり、理学療法士は管理者の条件外になるでしょう。
訪問看護事業所は、人員配置基準としてリハビリ職は必須とされていません。しかし、当然ながら看護師は必須となっています。人員配置基準とマネジメントの能力は関連しませんが、決裁権を持つ立場には影響を与えるでしょう。
たとえ『中間管理職の経験を積みたい』と考えていても、人員配置基準の影響する可能性があるのです。訪問看護の人員に関する配置基準は以下のように示されています。
- 保健師、看護師又は准看護師(看護職員) 常勤換算で2.5以上となる員数 うち1名は常勤
- 理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士 指定訪問看護ステーションの実情に応じた 適当数
出典:厚生労働省「訪問看護の仕組み」
たとえば、事業の規模を縮小する必要性が生じた際に、人員を減らして運営を継続する手段を取るとします。その時、リハビリ職より、看護師の方が縮小した事業所に残れる可能性は高いでしょう。
それは、人員配置基準の影響です。訪問看護事業所にリハビリ職は制度上では必須とされていないからです。
これは、『決裁権を与えるのであれば看護師』という選択をしやすくなる要素になり得るでしょう。
訪問リハビリ事業所の人員配置基準の場合は、『理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を適当数置かなければならない』と規定されています。
管理者の条件は定められていません。マネジメントを務めるのはリハビリ職になることが一般的でしょう。
制度面から考えると、訪問看護事業所と比較して、訪問リハビリ事業所の方が管理職を目指しやすい環境にあります。訪問事業所でのマネジメントのキャリアを積みたいのであれば、訪問リハビリ事業所に所属した方が機会を得やすいでしょう。
訪問リハと訪問看護からのリハどちらを選ぶべき?
自分の望むキャリア形成をイメージすることが大切になります。制度の違いによって得られる経験が変わってくるため、自らに合った選択をするのが良いでしょう。
また、経験した仕事内容によって目指すべき方向に影響を与える可能性があります。キャリアを積むとは、すなわち経験を積むことだからです。
既に経験している仕事内容を継続し続け、体験が変わらない状態が続くことはキャリア形成の上で強みには、なりにくいのではないでしょうか。強みを形成していくことが大切になるでしょう。
以下に経験した仕事内容とキャリアについて示します。
急性期の経験がある人は、マネジメントキャリアを
リスク管理の経験が豊富な方であれば、マネジメントのキャリアを形成していくことで、よりスキルアップにつながるでしょう。
急性期の経験がある場合、高リスクな患者を対象にリスク管理を要求される経験が多々あるのではないでしょうか。訪問看護に所属することによって、地域でのリスク管理を学ぶことは可能であり、比較的スムーズに業務を行うことができるでしょう。
しかし、リスク管理を学ぶという観点から、経験が大幅に変わる内容ではありません。新たなキャリア形成をし、強みを作るのであればメリットは比較的少ないのではないでしょうか。
訪問看護と比較し、訪問リハビリ事業所の方がマネジメントのキャリアを積みやすいため、キャリ形成を目指すのであれば訪問リハビリ事業所に所属してマネジメントのキャリアを積むという選択肢がより良いと考えられます。
自らの望むキャリア形成の中にマネジメントが含まれるのであれば、その可能性が高い選択肢を選んでいくことが望ましいでしょう。
『マネジメントの経験を積むより、現場での経験を積みたい』と考える場合はその限りでなく、担当できる可能性のある対象者、制度を理解した上でキャリアを形成するのが良いのではないでしょうか。
マネジメントの経験がある人は、訪問看護で急性期的キャリアを
既にマネジメントの経験をしているのであれば、訪問看護で地域での医療連携とリスク管理を学ぶことでより幅広いキャリア形成が可能になるのではないでしょうか。
マネジメントを経験する上で、リスク管理を学ぶ機会が多いとは推察されるため、必ずしも訪問看護でのリスク管理を学ぶことでキャリア上でのメリットが得られるとは限りません。しかし、良い影響を与える場合もあります。
訪問看護の対象者は幅広く、特化を謳っている事業所でなければ疾患の偏りなくサービス提供を行います。
在宅生活をしている神経難病患者・心疾患患者・呼吸器疾患患者などを含め、担当利用者によってさまざま経験を積むことができる可能性があるでしょう。
自らのキャリア形成の上で必要と考えるのであれば、その場に身を置くことがメリットになり得るのではないでしょうか。
どちらの経験もある人は、より高次のマネジメントキャリアを
マネジメントには、一般的に3つの種類があるとされています。
- トップマネジメント
- ミドルマネジメント
- ロワーマネジメント
になります。それぞれに求められる内容は変わるため、自分の目指すべきキャリアを明確にした上でより高いレベルのマネジメントを経験することは、強みになっていくことでしょう。
一般的にリハビリテーション科の管理者や病院附属の訪問リハビリテーションの管理者はミドルマネジメントと呼ばれる中間管理者になります。主任などの現場のマネジメントを行う立場はロワーマネジメントと呼ばれる中間管理職になります。
トップマネジメントとは、経営者層のことを指します。病院や会社の運営や方針などの決裁権を持つ立場になります。
望むマネジメントのキャリア形成の中にどの層が含まれるかを定め、行動していくことが大切になるのではないでしょうか。
まとめ
大切なのは、自らのキャリア形成をしっかりと見据えてから自分の進むべき道を定めることです。制度の違いはさまざまな影響を与えます。個人の能力だけでは解決できない事柄もあるでしょう。
訪問看護においては、厚生労働省が運営基準の見直しを検討しています。リハビリ専門職の多い訪問看護の在り方を問題視する意向を発表しており、今後の方向性もしっかりと確認する必要があるでしょう。実際に令和3年には、理学療法士などによる訪問看護の単位数は引き下げられています。
キャリア形成を見据えた上で制度とも向き合うことが大切になるでしょう。
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