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成長期におけるスポーツ障害は、成人のスポーツ障害と比較して、骨端線などの脆弱な部位に発生しやすい特徴があります。
また、女性では、第二次性徴の時期とも重なるため、男女差を加味した評価やアプローチが必要になります。成長期のスポーツ障害の特徴と男女差を理解することで、年代によって個別性を持った対応ができるようになります。
テーマ |
【前編】成長期におけるスポーツ障害の メカニズムの理解とその予防~概論~ |
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カテゴリ | |
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若手おススメ度 | |
講師 |
金子 雅明先生 理学療法士 株式会社 KINETIC ACT 取締役 日本スポーツ協会 公認アスレティックトレーナー |
配信URL | https://www.gene-llc.jp/rehanome/contents/ |
動画公開日 | 2020年11月14日(土) |
記事公開日 | 2021年1月15日(金) |
- 成長期の特徴を理解できる
- 成長期の男女差を理解できる
- 具体的な評価のポイントを知ることができる
講義のポイント
この講義では成長期の発達の特徴とスポーツ障害が生じやすい理由を知ることができます。
これらを理解することで、成長期ならではの対応方法を考える一助になります。講義のポイントとして以下に解説します。
その①:成長期とは10代半ば
成長期とは、身長が著しく発育する期間で一般的には10代半ばの数年間です。男女差があるのがポイントで、男子で約12歳、女性で約10歳程度といわれています。
成長期とジュニア期はイコールではなく、ジュニア期はpre-golden(5~8歳)golden(9~12歳)post-golden(13歳以降)independent(15~16歳以降)で区分けされる時期で。成長期はジュニア期のなかに位置付けられています。
スキャモンの成長曲線は男女差が反映されていないため、一概に全てが当てはまっているとはいえませんが発育の順番は重要となります。
運動能力の発達順番としては脳・神経系、呼吸・循環器系・骨格系(身長)、筋の順です。成長期には動作の習得と粘り強さが重要な時期のため、脳・神経系および呼吸循環器系の能力が高まる時期にあたります。
成長期には呼吸・循環器系の発育に合わせて、有酸素運動や持久系の運動負荷を上げることが推奨されますが、骨格と筋のバランスが崩れ、一時的にパフォーマンスを崩してしまうことがあります。
それにより、骨関節の障害を引き起こしやすいため注意が必要です。通常身長がよく伸びている時期は、筋力がつきにくく、身長の伸びが過度になる時期にトレーニングにて筋力を高めると骨端軟骨に負担がかかります。
その②: 成長期の女性はケガのリスクが高い
成長期における性差は、男子よりも女性の方が約2年成長期が早いです。要因としてはホルモンの働きが大きく関与します。解剖学的な男女差を作っているのは約10兆にもおよぶ身体の細胞のなかで生殖系の細胞のみです。
女性は妊娠・出産に向けた身体づくりのために性差が生じます。男性ホルモンは強いタンパク合成持ち、筋肉や骨のタンパク質の合成を促進し、筋量を増やす働きがあります。女性ホルモンは体脂肪の合成を促進する働きがあります。
第二次性徴の出現から性成熟までの段階は8歳から18歳で女性では8歳頃から皮下脂肪が増え、10歳頃から乳房が発達し、10歳から14歳にかけて初潮を迎えます。これまでは男子と同様に動けていたが急に動きづらさを自覚することも増えます。
また、体脂肪率が15%を切ると、骨合成が進まなくなり、疲労骨折を引き起こしやすくなります。特に長距離選手では注意が必要です。
- 関節が緩いる
- 筋力がつきづらい
- 骨盤が大きい
- 周期的な変化がある(月経前症候群・黄体期の水分ため込み・体温上昇)
関節が緩い状態で筋活動量を上げ、パワーを発揮するが、筋活動開始のタイミングが遅延するため関節へのメカニカルストレスが増加し関節負担が生じます。
また、骨盤が大きいことや関節の弛緩性、筋力がつきにくいことから体幹および股関節機能低下が生じやすくなるため、足部戦略による制動量が増えます。これらのことから女性は怪我のリスクが増加するため、注意が必要です。
その③:成長期は骨端が脆弱で怪我しやすい
成長期は大人になるための準備段階です。成長期の子供の特徴として、頭部に対しての体幹の比率が低いため、バランスを崩しやすいです。骨に関しては、骨自体が柔らかく骨密度が十分に高くないため、骨折をしてもきれいに折れずに若木骨折が生じやすいです。
自己治癒力が高いですが、治りが早い分骨折や骨端線障害が起こった際に変形治癒しやすいことが欠点です。
骨端線があることで力学的に脆弱で外傷や障害を引き起こしやすくなります。骨端線は骨成長のために重要なポイントですが、組織的に脆弱で怪我をしやすい部位でもあります。
筋肉の柔軟性向上と骨の成長のバランスが釣り合わないため、骨の成長に筋肉の伸張が追いつかないことで筋の柔軟性が低下します。筋肉は関節をまたいで骨に付着するため骨の成長に筋肉の伸張が間に合わないと付着している部分に骨膜を剥がすストレスがかかり骨端線障害や剥離骨折などの成長期特有の障害を引き起こします。
骨端症とは、骨端核を含む骨端軟骨部に、剥離骨折を起こさない程度の力が繰り返し加わることで発生する損傷のことで、オスグッド・シュラッター症や上腕骨小頭離断性骨軟骨炎などが代表的な疾患です。
裂離骨折とは、骨端核が引きはがされた際に生じる骨折です。ジュニア期の骨には骨端部に成長軟骨層が存在しますが、その部位が筋の収縮や張力によって牽引され、骨折が生じることがあります。
典型的な損傷部位は上前腸骨棘や下前腸骨棘、坐骨結節などで、受傷機転はランニングやキック動作が多いです。
現場で活かせそうな事
理学療法士は個別性をもって患者様や選手の評価や治療にあたらなくてはなりません。成長期特有の障害や怪我を理解することで、より個別性を持って対応することができるようになります。
講義では、実技が多く紹介されており明日から使えるものばかりです。以下に現場で活かせそうな事について解説します。
その①:成長期にはオーバーユースによる疾患が多い
オスグッド・シュラッター病はジュニア期でスポーツ活動に参加している場合に多い疾患です。この時期は脛骨粗面が脆弱であるために大腿四頭筋の収縮力による牽引で二次骨化中心に亀裂が入ります。
その後膝蓋腱炎を併発し痛みを伴い発症します。原因としては大腿四頭筋のタイトネスによる牽引力の増加と動作時の骨盤後傾による牽引力の増加です。
腰椎分離症は腰を反らせたり、捻ったりすることが繰り返されることによっておこる疲労骨折で、例えば野球ではスイングやピッチングなどの繰り替えし動作で生じます。腰椎分離症は保存療法が主体で、初期分離で約3か月から6か月で骨癒合がみられます。
- 痛みの症状:膝が痛い・反ると腰が痛い・投げると肘が痛い
- 痛みの症状(圧痛):肘の外側を押すと痛い・内側を押すと痛い
- 動きの状態:肘をつけて鼻の高さまで上がらない・肘が曲がらない、伸びない・片足立ちで10秒以上保てない・片足立ちで背中が丸まる
- 可動性:踵とお尻の距離が10cm以上離れている・脚と床の角度が70度以下・脚の捻りが30度以下・足を閉じて踵をあげずにしゃがめない
- 体幹と股関節の回旋:膝を立てた状態でゆっくりと左右に膝を倒し、その際に骨盤はベッドから浮かないように動かす
- 指の状態:浮指・反り爪・内反小指
その②:成長期の障害の機序は代償の連続
土台となる部分の機能低下にともない足関節の運動性低下や上位の関節の筋性制御が強まります。それにより足関節制御が難しい場合には股関節制御を用いることが多いですが、成長期には重心位置の上方化にともない体幹を不安定化させ対応を図ります。
→成長期の場合、骨の成長に筋の伸張性は遅いことから下肢関節周囲の筋タイトネスが強まり骨に負担をかけてしまいます。
その③:姿勢評価・運動評価
姿勢評価
猫背
- 頚部や肩甲部のタイトネス
- 腹筋群のタイトネス
- 腰痛(筋筋膜性など)
- 股関節痛、下前腸骨棘へのストレス
- 膝関節痛(オスグッド・シュラッター病)
猫背姿によるデメリットは、背中が丸まり、顎が突き出した姿勢になると口が開き、噛み合わせが悪く、力の発揮ができないことや、口が常に開くことでウイルスに対する防御ができなくなるデメリットがあります。
他にも、肩を壊す、足が遅くなる、バランスが悪くなる、目線が動き過ぎてしまいコントロールが悪いなどのパフォーマンスに関わるデメリットが生じてしまいます。
反り腰
- 頚部や肩甲帯のタイトネス
- 腹筋群のタイトネス
- 背部筋タイトネス
- 腰痛(腰椎分離症・神経根症状など)
- 坐骨結節へのストレス
- シーバー病やアキレス腱炎
片脚立位評価
片脚立位動作は片側への重心移動と歩行ではミッドスタンスにとても強い相関があり、挙上時と荷重側の寛骨回旋運動が重要になります。
寛骨回旋動作の停滞と過剰は下肢および体幹のメカニカルストレスにつながります。
- 課題動作:足を肩幅にて片側を挙げる
- 触診ポイント:PSIS・寛骨の運動性の確認
- 片脚立位が保てない+保ち方が悪い
- 身体の開きが早い→肘が下がる
- サイドステップの際に体が傾く
スクワット評価
スクワット動作は骨盤-腰椎、股関節の連動性を確認する手段として有効なツールです。股関節と骨盤との連動性はストップターン、ジャンプなど制動動作に直結しています。
- 基本運動:骨盤前傾・股関節屈曲・腰椎中間位
- 課題動作:足を肩幅にてスクワット
- 触診ポイント:PSIS・寛骨の運動性の確認 ※通常、大腿部が床と水平を超えたときにおこる(股関節90°以降)
- 身体の開きが早い→肘が下がる
- サイドステップの際に体が傾く
まとめ
「松本先生の骨折の評価と運動療法の考え方〜橈骨遠位端骨折を中心に〜」の講義のポイントと現場で活かせそうなことについて解説しました。
成長期の運動障害の要因は3つあり、オーバーユース、コンディショニング不良、不良なフォームです。
また、成長期特有の要因は骨の急激な成長、解剖学的弱点の存在、環境因子(練習環境・指導者の素質など)です。
個別性を持った対応をするためにも成長期特有の運動機能障害や解剖学的特性、組織学的特性を理解して臨床にあたりましょう。
障害予防にはカラダの土台作りから大切です。レベルを3つに分けると考えやすく、レベル1は体の柔らかさ、レベル2はバランス能力、レベル3は競技・スキル練習です。特に成長期にはレベル1とレベル2にフォーカスすることで障害予防に繋がりやすいです。
学生のリハビリに携わる機会のある理学療法士には臨床に活かせる内容ばかりなので必見の講義です。是非参考にしていただければ幸いです。
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