
このページは現役理学療法士がリハノメPTの講義動画を見て、レビューするコンテンツです。講義動画の見るべきポイントや現場で活かせることを発信しています。
解剖学は言うまでもなく、すべての理学療法士にとって重要な知識です。学生のころから骨の名前や筋肉の起始・停止、靭帯の付着部など嫌というほど叩き込まれます。解剖学は国家試験で落とすことのできない分野であり私も必死に暗記しました。
しかし、国家試験のために勉強した解剖学は、臨床に出るとほとんど役に立たないことを思い知らされます。そこで臨床で活かすための解剖学を改めて学びます。
今回の講義を受けることで、解剖学の重要性を再確認でき臨床につながる生きた解剖学を学ぶことができます。多くの理学療法士が知っておきたい知識が満載です。
テーマ |
筋・骨格系の解剖学の再考・再学習 ~解剖学的理解に基づいた臨床症状の病態把握 クリニカルリーズニングに繋げるために~ |
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カテゴリ | |
難易度 | |
若手おススメ度 | |
講師 |
荒川 高光 先生 神戸大学 大学院保健学研究科 リハビリテーション科学領域 准教授・理学療法士 |
配信URL | https://www.gene-llc.jp/rehanome/contents/ |
動画公開日 | 2020年5月1日(金) |
記事公開日 | 2020年6月19日(金) |
- 教科書的な丸暗記の知識では患者さんの病態把握をするには不十分
- リアルな解剖学を学習すると臨床で感じていた疑問を解決しやすくなる
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講義のポイント
理学療法士ならだれもが、解剖学の重要性は理解しているでしょう。運動療法を実施するからには深い解剖の知識が必要です。そこで私たちは何筋がどこに付着するとか、靭帯はどこの関節を制御するとか、解剖学書に噛り付いて必死に勉強します。
この講義では、教科書的に勉強した知識を実際の生の解剖学を照らし合わせて、臨床に活かすためにはどうすればよいか気づきを与えてくれます。そこには、教科書的には常識であっても実際は異なる点があります。ここでは講義のポイントを3つ挙げて解説します。
その①:筋はどこに付着するのか?
講義の冒頭で荒川先生は言います「筋はどこに着いていると思いますか?って言われたら骨っていっちゃいますよね。」と。私もそう思っていました。この講義でそれまで思っていた常識とは違ったのかと思い知らされました。
教科書的には、何筋は骨と骨の間に起始・停止を持つように書かれている印象がありますし、養成校や国家試験の勉強でも、何筋の付着部を答える問題には骨の名前が出ます。
例えば、大腿直筋の起始は、下前腸骨棘と寛骨の臼蓋、停止は膝蓋骨を介して膝蓋腱となり脛骨粗面に付着すると覚えます。すべて骨の一部分の名称です。
しかし、荒川先生はさらに「骨のハバース層板からアクチン・ミオシンは直接は出ない」と言っています。
つまり、筋は骨に着くのではなく骨膜や関節包に付着するものだということです。さらに言えば、筋肉の付着部は腱に移行します。腱と関節包は同じ組織であり、付着部で明確に分けることは難しいともおっしゃっています。
藁の中に藁の束を投げ入れても、分けることが難しいのと同じです。教科書的に勉強したり、暗記したりしやすいように整理された知識も大事ですが、それだけでは実際の患者さんで、説明がつかないことがあります。国家試験に合格するための勉強は学生の間だけで十分です。
臨床に活かすことのできる真の解剖学を学ぶことで結果に繋がっていくと思います。患者さんの希望は知識のある人の話を聞きたいのではなく、「今の痛みを楽にしたい」「動かせるようになりたい」といったものが多いです。
この講義を受けることで、解剖学の重要性を再認識することができます。
その②:靭帯とは何か?
講義のなかで、「靭帯とは関節包の線維層(線維膜)を構成する結合組織線維が、特定の集束をつくるもの=関節包靭帯」と紹介されます。
つまり、靭帯とは関節包の連続した組織であり、関節包の一部であるということです。先程、藁の中に藁を投げ入れても分けられないとお話ししましたが、靭帯とはその藁の中で藁が集まっている部分ということになります。
講義を受ける前は靭帯とは関節にあり、骨と骨の間をつないで運動を制御するものというイメージでした。運動を考える場合は、どの靭帯がどんな運動を制御するか知っていればよいかもしれません。
しかし、この講義を受けて患者さんを目の前にして治療する場合、靭帯が骨と骨をつなぐものという認識だけでは、不十分だと気付きました。講義を受ける前の私は、筋は筋、関節包は関節包、靭帯は靭帯と無意識の内に分けて考えていました。
学生時代の解剖学の勉強は、国家試験につながるように進められることが多いため筋、関節包、靭帯を別のものとして扱うことが多いと思います。
筋は付着部付近では、腱に移行します。腱と靭帯、関節包はすべて密性結合組織であり、つながりを持った組織であるという事実を知ることができただけでも、講義を受けた価値があります。
学生のころから植え付けられている固定観念を壊すのは難しいものです。それでも、実際の解剖の画像を見ると納得せざるを得ません。
筋、関節包、靭帯を個別に扱わずつながりを持って、知識を身につけることができ、組織が集合するように知識も集合してまとまっていくようで学びの幅が広がります。
その③:解剖学の知識が整理できる
理学療法士は、学生のころから大腿骨頸部骨折は骨癒合が得られにくく、大腿骨転子部骨折では、比較的骨癒合しやすいことを勉強します。いずれも、臨床実習でも出会う機会のある疾患であり、臨床に出てからも整形領域で働けば一度は関わることがあるでしょう。
講義を受けて、それまで経験的にこの疾患は治りやすい、この部位は治りにくいということは理解していても、深くまで考察出来ていなかったと実感しました。解剖学の理解を深めることで、考察できるようになります。
そもそも、骨折してから骨が再び癒合するのはなぜか。それは骨膜があるためです。骨膜がなければ骨折は治癒しません。骨膜は表層を線維層、深層を骨形成層といいます。線維層は関節包に連続します。
骨形成層に骨母細胞があり、骨母細胞が分裂して骨芽細胞になります。骨折した場合、骨芽細胞が増殖して治癒していきます。関節付近の骨膜は表層の線維層が、関節包に連続していきます。
骨膜があるのでれば、治癒していくと思いきや、骨折治癒に必要な深層の骨形成層は途中で途切れてしまいます。そのため、関節付近では骨折の治癒を促す組織がなくなり、治りにくいということです。
講義を受けることで、漠然と経験的に理解していた知識がより、論理的に理解できるようになります。知っていると思っていた知識が、さらに深まり整理されることを実感できます。
現場で活かせそうな事
解剖学を知らなければ、患者さんに適切な治療ができないばかりか、損傷した組織の治癒を妨げる危険があります。患者さんをよくしたいと思いながら行った行為が、結果的に病状を悪化させることになるのは悲しいことです。
リハビリを頑張る患者さんほど、理学療法士の指導を大切にしてまじめに実践してくれます。間違った指導でも頑張ります。そんな患者さんの気持ちを無駄にしないためには、解剖学が助けになります。
ここでは解剖学をどのように現場で活かすのか、解説します。
その①:肩関節の関節唇は上腕二頭筋長頭腱
肩関節の関節唇とは、大きな可動域を有する肩関節の安定性を図るため、関節窩の周りにある組織です。関節唇の損傷でも、SLAP損傷という病態があります。SLAP損傷とは、上腕二頭筋長頭腱付着部を含む上方関節唇の損傷をいいます。
これだけの情報でも、上腕二頭筋長頭腱と関節唇のつながりを理解することができます。SLAP損傷は投球動作で損傷されることがあり、原則として保存療法が選択され、無効な場合に手術を検討します。
関節唇を損傷したことは、上腕二頭筋長頭腱を損傷したことと同じことになるため、肩の障害だからといって肩のことだけを考えていては、損傷部に負担をかけることがあります。上腕二頭筋長頭は肩甲骨の関節上結節から肘を越えて、橈骨粗面と上腕二頭筋腱膜に停止します。肘の屈曲の主動作筋です。
関節唇が、上腕二頭筋長頭腱の延長であることを知らない場合、肘の運動に注意を払うことはないでしょう。
しかし、解剖学で関節唇と上腕二頭筋長頭腱がつながりを持つことが証明されている以上、知らないでは済まされません。
例えば、物を持ち上げる際に、前腕回外位で肘屈曲運動を行うと上腕二頭筋長頭に強く、収縮が起こり損傷した関節唇に負担をかけることになります。物を持ち上げるときには、前腕回内位で上腕筋を優位に働かせる指導が必要になります。
その②:肘関節伸展制限に対する考察
整形クリニックでは、肘関節になんらかの障害を抱えた患者さんも来院されます。その中で、肘関節の伸展制限が起こる患者さんに出会う機会があります。
講義の中では、上腕筋の停止腱が筋間中隔と浅指屈筋・尺側手根屈筋の深層の腱膜が1つの構成体として分けられずに、関節包に連続して骨へと付着することが示されます。
これは臨床において、非常に重要な所見です。肘関節の伸展制限を改善させたいと考えたときに、肘関節伸展の拮抗筋である上腕筋が制限因子になることは、運動学を理解していれば容易に想像がつきます。
しかし、解剖学の知識があると、上腕筋をただストレッチすればよいという単純なことでないことが理解できます。上腕筋だけでなく、停止腱を介して浅指屈筋、尺側手根屈筋にも目を向ける必要があることに気づきます。
浅指屈筋は、手関節掌屈とともに指を屈曲させる筋であり、尺側手根屈筋は手関節の掌屈と尺屈に作用する筋です。
手関節の運動に制限が生じていないか、制限はなくとも筋の収縮がしっかり得られているのか評価する必要があります。
上腕筋、浅指屈筋、尺側手根屈筋の3つの筋が肘関節の関節包に影響を及ぼすことを知っていなければ、制限因子をすべて解決することができず、肘関節伸展可動域の拡大は難しくなります。
腱、関節包、靭帯がつながりをもった組織であることを理解していれば自分の引き出しが増えて患者さんに与えらえるものも多くなります。
その③:膝関節の外側と内側で関係する組織の違い
膝の前十字靭帯損傷は整形クリニックに勤務する私には、馴染みのある疾患です。前十字靭帯は、大腿骨の外側顆の内側から脛骨の顆間隆起の前方に付着します。膝がknee inして受傷することが多く、内側に痛みが出る印象ですが、たまに膝の外側にも痛みを訴える患者さんがいます。
私は不思議に思っていました。
その疑問は、講義を受けることで解決されました。前十字靭帯は、外側半月板へと繋がるということです。前十字靭帯を損傷したということは、外側半月板の一部を損傷したということです。
また、逆の発想もできます。外側半月板を損傷した場合、前十字靭帯の制動力に影響を与えるかもしれません。
膝に関しては、他にも参考になる知識があります。大内転筋の停止腱は骨膜を介して膝関節の内側側副靭帯へ連続していくという点です。内側側副靱帯は前十字靭帯同様にknee inで受傷することが多い部位です。
元々は、同じ組織であるという発想を持つと、内側側副靱帯の損傷とは大内転筋の停止腱が伸ばされたことと同じことを意味します。
また、内側側副靱帯はその深層で内側半月板に付着します。
内側半月板が部分断裂して、縫合術を受けた場合には、大内転筋の停止腱を操作したことにもなります。
内側半月板を損傷すると、股関節内転筋力が低下する患者さんがいますが、このような解剖学の知識を持っていると理由がわかり、大内転筋にもアプローチしなければならないことの根拠になります。患者さんにも説明しやすくなります。これは明日からすぐに活かせる知識です。
まとめ
「筋・骨格系の解剖学の再考・再学習~解剖学的理解に基づいた臨床症状の病態把握クリニカルリーズニングに繋げるために~」の講義を受けて参考になったポイントや臨床で、どのように活かすか解説しました。
解剖学は学生のころから、多くの時間をかけて学習する学問です。国家試験に合格するためには、必須の学問であり、臨床に出て実際に患者さんに関わるようになっても学びを継続していく必要があります。
講義を受けることで、解剖学の重要性を再確認することができます。特に参考になったのは、「腱、関節包、靭帯、骨膜はつながりを持っており、分けることは難しい」という点です。それが、この講義の最も重要なポイントではないかと思います。
この意識を持つだけで、患者さんの見方が変わります。筋を触診しながら、治療をすすめていくときには、「この筋は付着部で腱となり、それが関節包に移行する。関節包の集束が靭帯であれば筋の柔軟性は靭帯の緊張に影響するだろう」などと思考を巡らせることができます。
一つ一つ個別の組織と思っていた骨、筋、腱、関節包、靭帯がつながるように知識にもつながりができていきます。教科書的な丸暗記の知識ではなく、現場で活かせる知識となります。活かせる知識が増えて、解剖学を学ぶのが楽しくなります。
解剖学が好きな方はもちろん、苦手意識がある方にも受けていただきたい講義です。
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