
このページは現役理学療法士がリハノメPTの講義動画を見て、レビューするコンテンツです。講義動画の見るべきポイントや現場で活かせることを発信しています。
アスリートに対して理学療法士が関わることは、トレーナーとしてスポーツ現場で活動したり、スポーツ整形のある職場に勤務したりしない限り多くないかもしれません。アスリートと関わる機会は少なくてもフィジカルコンディショニングを知っておくことは重要です。
私が勤務する整形外科クリニックでも部活動をしている学生や、仕事の傍ら趣味でスポーツを行なっている患者さんには出会います。
関わる機会が少ないこともあり苦手意識がありましたが、この講義を受けることでアスリートの障害に対する考え方が理解でき苦手を克服するきっかけになります。
以下に講義のポイントと現場で活かせそうな事について解説します。
テーマ |
アスリートの慢性障害に対するフィジカルコンディショニング ~肩関節障害と腰部障害の評価とアプローチ~ |
---|---|
カテゴリ | |
難易度 | |
若手おススメ度 | |
講師 |
片浦 聡司 先生 PRO-motion代表 アスレティックトレーナー(JSPO-AT) 理学療法士 |
配信URL | https://www.gene-llc.jp/rehanome/contents/ |
動画公開日 | 2020年5月1日(金) |
記事公開日 | 2020年9月23日(水) |
- アスリートも一般患者も考え方は同じ
- アスリートのフィジカルコンディショニングにはハイパフォーマンスが求められる
- 自身の環境に置き換えることで臨床に活かすことができる
講義のポイント
今回の講義は総論、肩関節障害、腰部障害の3部構成となっています。総論ではアスリートの慢性障害に対して理学療法士がどのような考え方を持って関わることが重要か解説されています。
これはアスリートのみならず一般の患者さんにも応用できる考え方です。肩関節障害と腰部障害に関しては実技を交えながら、評価とアプローチの方法が多く盛り込まれた内容になっています。以下に講義のポイントを解説します。
その①:外傷と障害の違い
怪我は外傷と障害に大きく分けることができます。どちらも似たような言葉ですが、しっかり区別できているでしょうか。外傷とは、交通事故による損傷やラグビーに代表されるコンタクトを必要とするスポーツでの損傷、ジャンプからの着地やカッティング動作で、ACLが断裂する損傷など1回の外力で組織が損傷することを指します。
障害とは、繰り返しの外力がある部分に積み重なり、少しずつ組織損傷が生じるものを指します。障害に至る方程式として、過用+誤用が大きくなるためと紹介されます。
ここで重要なのは、使いすぎだけでは、障害には至りにくいということです。使いすぎたとしても、間違った使い方でなければ休息することで回復します。問題は誤った方法で使いすぎることにあります。障害を防ぐためには、誤用に注目するべきであり、障害の再発予防のためにも、正しい使い方を学ぶ必要があります。
この考え方はアスリートのみならず、一般の患者さんにも繋がります。肩関節周囲炎や腰痛疾患などは、誤用が繰り返されて痛みや可動域制限などの症状として、表に出てくることが多いためです。
そんなとき患者さんは、「何もしていないのに急に痛くなった」と言います。痛みが出現するのは「急に」ですが、毎日何度も誤用を繰り返しているために起こった症状です。アスリートも一般患者さんも、いかに誤用を直して行くかが重要になります。
その②:ピラミッドメソッド
講義の総論で、ピラミッドメソッドという考え方を紹介されます。アスリートの状態を下層から頂点まで分けて考える方法で、一般の患者さんにも応用することのできる概念です。ピラミッドは7つの層に分かれています。最下層がコンディションです。
これは休養(睡眠)、栄養(食事)、モチベーション、日常生活、学生・社会人など体調と社会的背景を含んだ所謂調子です。これが整っていなければスポーツどころではありません。2層目はモビリティです。姿勢や動作に必要な可動域を確保しているかです。
他動で動かない関節は、自動でそれ以上の範囲を動かすことはできません。3層目はスタビリティです。これは不安定な構造を支えることができる能力を指します。
十分な可動域があっても、安定して使うことができなければ、怪我につながります。4層目はコーディネーションです。
これはよいタイミングで動いて、よいタイミングで止まるかということです。コーディネーション能力とは身体の動きをスムーズに調整する能力です。5層目はパフォーマンスです。筋力・瞬発力・筋持久力(筋肉の機能)、全身持久性(呼吸・循環の機能)、スピード・敏捷性(神経の機能)を統合して動作を行う能力です。
6層目はスキル(競技技術)です。これは走動作、あたり動作、投動作、ストップ・方向転換、跳動作など競技に必要な動作能力です。
頂点の7層目がタクティクス(競技戦略)です。これはフォーメーション、ポゼッションorカウンター、隣との駆け引き、決勝のコース取りなど戦術に関する能力です。アスリートの能力を上げるにはピラミッドを大きくすることが重要になります。
その③:アスリートの肩関節障害と腰部障害
講義では総論、肩関節障害、腰部障害の3部で構成されています。ポイント①と②は総論で話された内容です。ポイント③では肩関節障害と腰部障害について触れておきます。
肩関節障害ではいかに上腕骨頭を求心位に保てるかが重要になります。全ての関節は関節包に覆われ陰圧に保たれています。そうすることで脱臼を防ぎながら適切に運動できるようにしています。
肩関節は人体で最も自由度の高い関節です。その反面非常に不安定な関節でもあります。肩関節の土台となる肩甲骨は、鎖骨を介して胸骨に繋がっているのみで、胸郭上に浮遊している状態です。不安定な土台に自由度の高い上腕骨が乗っています。
肩関節障害を見るときには、肩甲骨や胸郭・胸椎のアライメントが重要です。講義では実技も交えて、重要性がしっかり理解できる内容になっています。
次に腰部障害です。腰痛を抱えながら競技するアスリートは少なくありません。腰部は重たい胸郭と頭部を柱1本で支えています。こちらも不安定な構造であることが想像できます。
また、胸部と骨盤の中間に位置しており、両者の影響を大いに受けます。不安定な1本柱を補助しているのが、体幹の筋群です。
腰部障害を考える上で、体幹の筋がどのような状態になっているかが重要です。過剰に働いている部位、逆に活動が少ない部位を考えることがそのまま治療に繋がります。
講義では腰部障害に関しても考え方と、アプローチの方法は実技を交えて解説されています。
現場で活かせそうな事
肩関節障害と腰部障害は現場で関わることの多い部位です。講義では肩関節障害や腰部障害をどのように見るか、評価のポイントや具体的なアプローチの方法が解説されています。
ここでは講義を受けて特に重要と感じた、肩甲骨と上腕骨頭の位置関係や胸郭・胸椎の評価とアプローチの方法、腰部障害に対してインナーユニットをどのように機能させていくかという点について現場で活かせそうな事として解説します。
その①:肩甲骨と上腕骨頭の位置からアプローチ方法を考える
肩関節障害を見る上で肩甲骨や上腕骨頭の位置関係は重要です。これはアスリートのみならず、全ての肩関節疾患の患者さんに言えることです。肩甲骨は動く土台となって肩関節の運動を補助します。
そもそも土台が整っていない状態で、上腕骨を動かしていくことは無理が重なり、障害を引き起こします。講義では肩甲骨の位置の確認の方法として、背部から母指を肩甲骨下角、示指を肩甲棘三角に、中指を肩峰後縁に置きます。
脊柱ラインに対して2~3横指が基準となり、それ以上は肩甲骨外転位を示します。また、矢状面で、肩甲骨の前傾後傾を確認する必要があります。上記3つの点が一直線になっていれば過度な前傾、後傾はないと言えます。
肩甲骨とともに上腕骨頭の位置の確認も重要です。確認の方法は側方から見て、母指を骨頭後面、示指を肩峰先端、中指を骨頭前面に置きます。
このとき、肩峰と骨頭前面が1横指以上であれば、骨頭前方位を示します。肩甲骨が外転位になると、上腕骨頭は前方偏位しやすくなります。
肩甲骨と上腕骨頭の位置を確認したら、修正するためのアプローチをします。講義では菱形筋のリリース、棘下筋のモビライゼーション、小円筋のダイレクトストレッチが紹介されています。実技の動画でわかりやすく解説されます。
臨床で早速実践してみましたが、肩甲骨や上腕骨頭の位置が修正され、モビリティの改善が図れます。詳細は講義をご覧ください。
その②:胸郭、胸椎の評価とアプローチ
その①で肩甲骨の位置が重要であることは解説しました。肩甲骨をよい位置に維持するためには、胸郭や胸椎へのアプローチも忘れてはなりません。胸椎の後弯が強いと肩甲骨は外転位になりやすく、その姿勢では呼吸に伴う胸郭の広がりも、阻害することになります。
胸郭の広がりが悪くなると、横隔膜をしっかり活動させることが難しくなります。肩を挙上しにくくなるだけでなく、腹圧にも影響するためパフォーマンスが安定しない要因になります。
講義では胸郭、胸椎にどのようにアプローチしていくか紹介されています。
まず、胸椎の静的アライメントを観察します。座位姿勢を見て胸椎が過度に後弯していないか確認します。
次に、胸椎の可動性をチェックします。しゃがんだ姿勢から両上肢を挙上します。挙上の最終域で、両手が膝よりも後方に移動することができれば、胸椎伸展の可動性が十分にあることが示されます。
また、胸椎の回旋を見ることも重要です。回旋の評価で胸郭の可動性も確認しています。座位で両手を頭の後ろに当てた状態で、体幹を回旋し90°くらいまで動くがどうか確認します。
さらに四つ這いで、回旋を評価する方法も紹介されています。アプローチでは胸郭の運動を作る肋椎関節のモビライゼーションを体幹の回旋を利用しながら、実施する方法や座位で胸椎の棘突起を把持しながら伸展方向へのモビライゼーションを行う方法が紹介されています。現場で実践しやすい技術です。
その③:腰部障害に対してインナーユニットを機能させる
腰部は、上部体幹の重さを1本の柱で支える不安定な構造であることは容易に想像できます。この不安定さを補助しているのが体幹のインナーユニットです。インナーユニットとは上を横隔膜、後ろを多裂筋、下を骨盤底筋、前から側方に腹横筋があり、それらの筋肉が協働して活動することで腹圧が高まり腰椎の1本柱を補助する役割を果たしています。
講義では、横隔膜と腹横筋に注目して、評価とアプローチが紹介されています。
まず、横隔膜が十分働くための土台が、整っていなければなりません。横隔膜で動かされる場所は胸郭です。胸郭のモビリティが低下していれば、横隔膜を十分に働かせることが難しくなります。
胸郭の可動性を確認するためには、肩関節障害で紹介される体幹の回旋とともに、側屈が重要です。側屈の可動域の低下は、胸郭の運動性低下を示すものです。アプローチの方法としては、側臥位で上側の上肢を外転位として体幹の側屈を作り、肋間に指を入れながら肋間筋のストレッチをします。
座位では、ストレッチする側の上肢を外転位として、側屈を作り胸郭側方のストレッチ方法が紹介されています。
腹横筋に対しては、ドローインの方法が示されています。背臥位で膝を立てた状態で腹式呼吸の要領で、呼気に伴って腹部を引き込んでいきます。上前腸骨棘の内側で、腹横筋の収縮を感じながら実施します。慣れてきたら側臥位、腹臥位へとポジションを変えることで負荷を上げることができます。
アスリート以外の腰部障害の患者さんにも活用できる方法です。
まとめ
「アスリートの慢性障害に対するフィジカルコンディショニング」の講義のポイントと現場で活かせそうな事について解説しました。
この講義は、アスリートを見る現場で働く理学療法士には、復習的に役立つ情報が多くあり、アスリートに携わる機会が少ない環境で働く理学療法士にも、有益な情報が盛りだくさんです。アスリートでも、一般的な患者さんでも1人の人間を見るということに変わりはありません。
目的とする動作に必要となる運動範囲が確保されているか、次に安定して運動が行われるかどうか、さらに動作に必要な運動が起こり不必要な運動が抑制され、バランスよく動いているかなど、多くの条件の組み合わせで、適切に動作を遂行することができます。
タイトルに「アスリートの」とありますが、ピラミッドの下の段階は、全ての患者さんに共通するところがあります。
私は、たまに来院されるスポーツ疾患の患者さんに苦手意識を持っていましたが、講義を受けて苦手意識が少し減ったように感じます。講義では、実技で評価はアプローチの方法が多く紹介されており、臨床に活かしやすい内容になっています。
みなさんも自身の関わる患者さんに、置き換えて参考にしていただければ幸いです。
この記事を書いた人

コメント一覧