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徒手理学療法の国際的な定義は、「徒手的な技術と治療的な運動を含む高度に特異的な治療アプローチを用いた臨床推論に基づく神経筋骨格系の状態をマネージメントするための理学療法の専門領域。
また、徒手療法は利用可能な科学的および臨床的エビデンスと個々の患者の生物心理社会的枠組みを抱合しそれらによって推奨される」とされており、ハンズオンのみでアプローチするだけではなく、心理社会的な要因をふまえて運動療法やADL指導もおこないます。
肩関節周囲炎の患者様は疼痛も強く、臨床上介入に難渋するケースもあると思います。この講義を通して、治療のエビデンスやさまざまな研究例について学ぶことができます。
テーマ |
【前編】肩関節の機能不全に 対するマニュアルセラピー ~肩関節周囲炎・腱板損傷・インピンジメント へのアプローチを中心に~ |
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カテゴリ | |
難易度 | |
若手おススメ度 | |
講師 |
瓜谷 大輔先生 理学療法士 畿央大学 健康科学部 理学療法学科 畿央大学大学院 健康科学研究科 |
配信URL | https://www.gene-llc.jp/rehanome/contents/ |
動画公開日 | 2020年10月17日(土) |
記事公開日 | 2020年12月15日(火) |
- 肩関節の動きに関わる広義の肩関節を理解できる
- 腱板損傷のメカニズムと機序を学ぶことができる
- 肩関節周囲炎に対するエビデンスを知ることができる
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講義のポイント
この講義では肩関節の動きに関わっている、広義の肩関節を学ぶことができ、実際の治療介入でみるべきポイントを理解することができます。
肩の動きに関わる関節は非常に多く、肩甲上腕関節以外にも肩甲骨や脊柱周囲の可動域も肩の可動域に大きく影響を及ぼします。それらを踏まえ、講義のポイントとして以下に解説します。
その①:肩の動きに関わる関節は多岐に渡る
広義の肩関節は解剖学的肩関節である肩甲上腕関節・胸鎖関節・肩鎖関節と肩甲胸郭関節と第2肩関節で構成される機能的肩関節に分類されます。肩関節は臨床上、肩関節複合体として単一の構成要素のみが孤立して機能することはありません。
すなわち、いかなる構成要素が障害を受けても肩全体として自然な運動はできません。
具体例として肩関節の外転運動を一つとっても以下の運動が組み合わさっています。
- 肩甲上腕関節での転がりと滑り
- 肩甲上腕リズム(肩甲胸郭関節60°肩甲上腕関節120°)
- 胸鎖・肩鎖関節の動き(1:1)
- 肩甲胸郭関節の動き(最終可動域での後傾+外旋+上方回旋)
- 鎖骨の後退
- 鎖骨の後方回旋
- 肩甲上腕関節の外旋
非常に多くの肩関節複合体の運動をともない、この内1つの動きが阻害されても肩関節の外転運動に支障を及ぼします。
その②:肩峰下インピンジメントの好発部位はSubacromial space
肩峰下インピンジメント症候群が好発する部位は肩峰の下にあるスペースでSubacromial spaceといいます。棘上筋が腱状になり肩峰下に入り込むスペースで血行も乏しいため、組織の脆弱化も生じやすい部位です。
肩峰下インピンジメントと腱板変性の関係を考えると、年齢ともに腱板の退行変性が生じるため、オーバーヘッドワーク(頭の上での作業)での軽微な負担でも部分的な損傷が生じやすくなります。
それにともない上腕骨頭が上方に偏位し、肩峰下のスペースがさらに狭くなり、腱板の損傷や退行変性がすすんでしまう悪循環に陥ることがあります。その他の肩峰下インピンジメントの関連要因としては、腱板の機能不全、関節包のtightness、不良姿勢、過用などが考えられます。
上腕骨頭の上方偏位は左右差や造影剤で評価できます。
その③:腱板の機能は関節包内運動のコントロールと骨頭の求心位保持
関節包内運動のコントロール
関節包内での転がりと滑りをコントロールしています。例えば外転運動において棘上筋が働かず三角筋のみが働くと三角筋が上方に上腕骨を持ち上げる際に、骨頭が肩峰にぶつかってしまい、20度程度しか外転できません。
上腕骨頭の求心位保持
上腕骨頭は肩関節運動にともなう、転がりと滑りを誘導し、上腕骨頭を求心位に保持しています。解剖学所には腱板の停止部に関節包とかいてありますが、停止部が関節包にブレンドしていくように終わっているため、筋が働くと関節包を引っ張り求心性が向上します。
腱板機能が働くためには、肩甲骨が安定している必要があります。肩甲胸郭関節は肩関節挙上の最終域で、後傾+外旋+上方回旋する必要があります。肩甲骨の正常な動きには、姿勢が重要になり、胸椎が屈曲している状態では、肩甲骨の動きが阻害されてしまいます。
実際にインピンジメントが生じている肩では、肩甲骨の後傾傾斜角度が優位に低値を示したとの研究もあり、肩甲骨の動きを引き出すことがリハビリテーションのポイントになります。
上腕二頭筋腱は、骨頭を下制し臼蓋に対して安定させる働きかけをします。上腕二頭筋短頭しかなければ、その作用で上腕骨は上方に突き上げられます。
腱板損傷患者では上腕骨頭に対する上腕二頭筋建長頭による下制機能が働くことで、上腕骨頭をコントロールすることができます。
しかし、これが過剰に要求されると上腕二頭筋の疼痛が生じることがあります。
現場で活かせそうな事
最近の理学療法では治療に対してエビデンスが重視されています。臨床介入をする上で、エビデンスを知ることで科学的に有効な理学療法を患者様に提供することができます。
肩関節周囲炎に関しては、理学療法が特別有効というエビデンスがありませんが、ドクターとも連携して医学的処置に加えてADL指導をすることが効果的であるといわれています。
また、各病期に応じて対応も変化するため、適切なアドバイスとアプローチのために、病態理解に努めることが大切です。以下に現場で活かせそうな事について解説します。
その①:保存療法はエクササイズと徒手療法の併用が効果的
インピンジメント症候群に対する保存療法のエビデンス
エクササイズ
- 無治療より効果あり
- エクササイズを含まない理学療法より、エクササイズを含む理学療法が効果あり
マニュアルセラピー
- 痛みに対して無治療より効果あり
- エクササイズとの併用は機能に対して、偽治療やプラセボより効果あり
- エクササイズとの併用はエクササイズのみより短期効果あり
- 痛みに対して無治療より即時効果あり
腱板損傷に対する理学療法の効果
- 観血的治療と保存療法で1年後の効果に差はなかった
- 1件のRTCにおいて理学療法群とプラセボ群の間に臨床的なアウトカムにおける効果は見られなかった
その②:肩関節周囲炎の原因と各フェイズの解説
肩関節周囲炎
米国整形外科学会において肩関節周囲炎は以下のように定義されています。
「病態が明らかな疾患を除き、自動・他動運動両者の運動制限を主徴として内因性肩関節疾患、50歳前後で誘因なく生じ、保存療法が主となる」リスクファクターとしては、糖尿病やデスクワークなどがあげられます。
肩関節周囲炎のフェイズ
- Freezing phase(疼痛性痙縮期):疼痛主体で可動域制限増悪期
- Frozen phase(拘縮期):拘縮の明らかな時期
- Thawing phase(回復期):回復への向かう時期
以上のようなフェイズがあり、一般的には予後良好ですが、各フェイズの期間は論文により様々です。
凍結肩(Frozen Shoulder)
解剖学的研究において、肩甲下筋腱の末梢は肩甲上腕関節包と癒合しているが、関節窩付近での関節包と筋腹は区別することができたとされています。
また、免疫細胞化学的所見からFrozen Shoulderでは、肩甲下筋腱の慢性炎症症状と増殖性の線維化が認められたとされています。
組織から多くの血管と神経線維が認められており、肩甲下筋腱の付着部の癒着と組織変化が疼痛と可動域制限の一因である可能性が示唆されています。
その③:肩関節周囲炎に対してはADL指導と医学的処置の検討が大切
肩関節周囲炎に対する治療の効果における研究
- 保存療法に対してステロイド注射がやや優位
- 半年後の予後ではステロイド注射が優位
マニュアルセラピーとエクササイズの凍結肩に対する効果
- マニュアルセラピーとエクササイズの組み合わせは、短期的にはグルココルチコイド注射と同等の効果は認められないかもしれない
- マニュアルセラピー、エクササイズ、物理療法の組み合わせがグルココルチコイド注射または、経口NSAIDの補助として効果的であるかどうかは不明
- グルココルチコイド注射と生理食塩水によるjoint distension(関節腔を広げる注射)後のマニュアルセラピーとエクササイズは、全体的な痛み、機能、QOLに対しては超音波による偽治療と効果は同等である可能性があるが、患者が報告する治療の成功と肩関節の自動可動域に対してはより効果を示した
上記のような研究結果があり、マニュアルセラピーとエクササイズは患者様の満足度や自動可動域に関しては良好な結果を示していますが、注射よりも効果的であるかは不明です。
病期による理学療法プロトコル
肩関節周囲炎初期(痛み>硬さ)ステロイド注射&徒手療法
- 最初の1週間は愛護的な自動介助運動、自動運動の実施
- 2週目から4週目にかけて可能な範囲で関節モビライゼーション、軟部組織マッサージ、他動運動、自動介助運動、可能な範囲での運動療法を実施
肩関節周囲炎回復期(硬さ>痛み)ハイドロリリース注射&徒手療法
- 他動運動やPNF
- 定期的(可能であれば1日1時間)な自動運動、自動介助運動、ストレッチなどのホームプログラムの指導および実施
- クリニックで関節モビライゼーション、PNF、ホームプログラムの管理
※これはイギリスの理学療法士が発案したプロトコルで、イギリスでは理学療法士が注射することも可能です。日本ではドクターと連携して注射等の医学処置も考慮することが必要です。
米国肩肘セラピスト研究会ガイドライン
患者教育(中等度のエビデンスによる推奨)
- 疾患の自然経過の説明
- 機能的かつ痛みのない可動域での運動をおこなうための動作の修正促進
- 患者の痛みへの反応に合わせたストレッチングの指導
関節モビライゼーション(弱いエビデンスによる推奨)
- 疼痛軽減や可動域および機能の向上を目的とした健康上腕関節に対する関節モビライゼーション
ストレッチング(弱いエビデンスによる推奨)
- 痛みに対する反応に応じて行う
全体の研究とエビデンスを通して、医学的処置(注射)に対して理学療法の方が有効という結果はありませんが、その中でも患者様に対する説明や教育が大事だという結果はあるため、肩関節疾患の患者様にはADL指導を含めた対応が大切となります。
まとめ
「肩関節の機能不全に対するマニュアルセラピー~肩関節周囲炎・腱板損傷・インピンジメントへのアプローチを中心に~」の講義のポイントと現場で活かせそうなことについて解説しました。肩関節運動に関わる関節は多岐に渡り、肩甲骨や脊柱を含めた評価とアプローチが必要です。
また、エビデンスを考慮した理学療法介入ではマニュアルセラピーとエクササイズに加えてADL評価が重要となります。特に肩関節周囲炎では病気に応じて、対応も大きく変化するため、病態の理解がADL指導と治療成果に大きく関わります。
肩関節疾患に関わる機会のある理学療法士には臨床に活かせる内容ばかりなので必見の講義です。是非参考にしていただければ幸いです。
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